Paranaviトップ お仕事 働き方 「ホテル×アート」の化学反応が新しい! 「ホテル アンテルーム 京都」支配人、40代で夢のスナックにも挑戦

「ホテル×アート」の化学反応が新しい! 「ホテル アンテルーム 京都」支配人、40代で夢のスナックにも挑戦

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ホテル アンテルーム 京都」は、蜷川実花や名和晃平といった今をときめくアーティストによるコンセプトルームやホテル内ギャラリーでの企画展など、アートを“体験できる”という言葉がふさわしいホテルです。そんな「アンテルーム 京都」で活躍する支配人の上田聖子さん。英国の美大を出てから人の縁と共に行きついたキャリアと、これまたユニークな40歳までにスナックに挑戦したいという夢を仕事にも活かしていく上田さんに、キャリアと夢の実現方法について聞きました。

英国への道を開いた短大での出会いとホテル就職

――英国への留学、そして帰国後、「アンテルーム 京都」でお仕事をするに至るまではどういった経緯があったのでしょうか?

私は、滋賀県大津市の出身で、高校を出て兵庫県にある女子短大に入りました。家族から、高校を出てすぐの留学よりは、まず日本で先に土壌を作った方が良いと言われまして。当時はファッションにも興味があったので、生活造形学科に在籍して、服飾やテキスタイルデザイン、マーケティングを学びました。

当時、大阪でアルバイトをやっていたのですが、そこでバンドをやって英国音楽に精通している仲間に出会ったり、英語を習っていた先生がたまたま英国人だったり……、英国留学に導いてくれるような出会いがあったんです。とはいうものの、ファッションを学べる海外の大学を探していたので、NYという選択肢もありました。ですが、卒業する年に9.11が起こったこともあり、留学先をイギリスのグラスゴーに決めたんです。母校となるThe Glasgow School of Artは、日本で読んだ雑誌の切り抜きがきっかけで知りました。4年間の学部留学後、1年半はインターンでギャラリーに勤務、地元のアーティストのアシスタントや自身の作家活動と並行しながら、合計約6年間イギリスにいました。

帰国して最初に入社したのが、伝統工芸の技術を生かしプロダクトをリデザインしたものを海外にプロデュースしていく会社。ミラノにも支店があって、職人さんと一緒にミラノサローネに商品を売り込みに行ったり、併設ギャラリーの運営にも携わったりしました。そんなときに当時の同僚であり友人が「アンテルーム 京都」の開業を教えてくれたんです。

「京都の九条と十条の間にそんなアートホテルができるんや!」とかなり衝撃を受けて見に行ったら、元は学生寮のリノベーション、80年代を思わせる照明、デヴィッド・リンチのような世界感にすっかり一目惚れ。開業の年にこのホテルを運営しているUDSに入社しまして、現在に至ります。

【アンテルーム京都】上田さん

The Glasgow School of Art学内ギャラリーにて、友人のJennyと。
撮影:松山のぞみ

――英国にも「アンテルーム 京都」にも劇的な出会いがあったんですね!

知らず知らずのうちに、自分が興味を引かれるものが人との縁でつながっていって、「これだ!」と思うものに辿り着くことが多いんです。連続して何かに出会うときは、特にそのつながりから何かが起こる。そんな人との縁と流れを重視してきて今がある感じです。

「アンテルーム 京都」は、最初はアートホテルというよりデザインに特化したホテルで、ギャラリーも写真やグラフィックなどを中心とした展覧会として始まりました。ホテルは客室数が61室と現在のまだ半分以下で、アパートメントが50室、建物の1/3は学生寮でした。2016年に寮のエリアもホテルとして改装し、現代アートと和を融合したホテルとして増床リニューアルしました。この増床リニューアルもUDSで統括し、私は企画のディレクションを担当しました。

アートとホテル運営、同じ方向を向くために工夫したこと

【アンテルーム京都】ホテル外観

京都駅の南側に位置する学生寮をリノベートして生まれた「ホテル アンテルーム 京都

――そこから現在のように、コンセプトルームやギャラリーもできたのですね。アーティストはどのように見つけて来られたのですか?

まずは開業時の企画担当者とのつながりで、彫刻家の名和晃平さんと出会えたことが大きいです。当初から名和さんと一緒に、積極的に若手アーティストを起用してホテルにアートが入りこむ実験をしていこうという話をしており、増床の際にはアートディレクターになっていただいたんです。また開業時から1〜2ヶ月に一度は展示替えをして、現在に至るまで100回以上の展示会を開催したことで、ホテルとしても多くのアーティストとの繋がりができました。

増床リニューアルを進める中、アーティストが表現したい世界観と、ホテルとしての制約の調和をとるのは簡単ではありませんでした。また、増床時に関わったアーティストは80組もいらっしゃり、設計と相談しながらひとつずつ話を進めるのは大変でしたが、良い経験になりました。通常の展覧会だと関わるアーティストはグループ展でも15組程度ですから。当時、ホテルは閉館せずにリニューアルを進めていたので毎日のホテルの運営もしながら改装の企画もやるのは、苦労もありましたが思い返すとこれも良い経験です。

【アンテルーム京都】ホテル内観

名和晃平が手掛けるコンセプトルーム。©︎ KOHEI NAWA l SANDWICH

――ホテル運営はどうやって学んでこられたんですか?

入社当時、自分の周りのスタッフはこの道10 年から20年のベテランばかり。ホテル未経験者である自分の強みは何か? と考えた時に、アートの知識を活かして面白い企画を誘致してホテルを盛り上げることなのではと考えました。強みを発揮するにはチームの一員として認めてもらうこと、皆と同じ目線に立つことがまずは重要。必要なホテルスキルを実践の中で積極的に身につけていきました。当時の総支配人に教わった、スタッフ一同「同じ釜の飯を食う」「同じ目線に立つ」というのはすごく意識しました。

アートとホテルの2足のわらじをどうやって両立するのかとよく聞かれるのですが、アートホテルの運営では、チームが同じ方向を向いてゲストに対応することを心がけています。作り手が川上だとすると、アートの企画だけでなく、川下でどのようにお客様が受けとるか、その瞬間を見られるのがやりがいです。またそのときに作り手の想いを伝えたりもできるのがこの仕事の醍醐味で、そこに楽しさを感じてきたので今があると思っています。

【アンテルーム京都】上田さん写真

「楽天トラベルゴールドアワード2018」受賞施設の方々とのスペイン研修旅行。
FCバルセロナのホーム、カンプ・ノウ スタジアムにて。
上田さんは左から3人目。

夢のスナックはいろんな人が交わり出会う場

――「40歳になったらスナックをやる」という夢はいつから抱いていたんでしょうか?

実はグラスゴーにいた25歳の時からの夢なんです。当時、日本に帰国するんだったら、将来どんな働き方、生き方をしたいかな? と考えて、好きな音楽フェスには年に1回はいきたいし、キャンピングカーで移動しながらの、移動式ギャラリーバーなんてどうかなと妄想していたんです。

周りから「ぜったいいいやん」と持ち上げられたのが、スナック構想のはじまりです(笑)。40歳になっても、やりたいと言い続けていたら、友人がアンビエント(環境音楽)のイベントをするから手伝ってくれないか、と声をかけてくれました。

祇園で約5坪、もともとギャラリーやサロンなどを経営されている「noma kyoto」が運営している小さなスペースです。京都は、昼は本屋で夜はバーになる、といった形態を変えての小さいスペース貸しが結構あるんです。不定期ですが月に1回程度、5名の音楽家とアンビエントイベント「circum」として開催。アンビエントの音楽ライヴの中、私はゆかりのあるフードとドリンクを提供する「アンビエント スナック バー」という形でイベントのお手伝いをしています。

【アンテルーム京都】上田さんスナック

アンテルームの後輩で友人の夏子さんと「noma kyoto」にて。
夏子さんは今秋より、ハンガリーにて「Snack Masako」(@snackmasako
https://www.facebook.com/snackmasako)をオープン!

――いよいよ夢実現ですね! ちょうど「アンテルーム 京都」でもアンビエントの企画展をされていたタイミングですね。

2022年はちょうど京都でブライアン・イーノの 「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO 」も開催されて、「アンテルーム 京都」でも企画展をしましたが、京都でこれまでアンビエントのライヴを聴ける場所は少なかったようです。英語の“ambient snack”には、常温のおやつという意味もあります。ママさんと常連客がいて、小さい空間がよりどころになる感じ。メンバーといろいろ構想を練って、コンピレーションアルバムを作ろうといった活動の拡張も考えています。

――すごく面白そうですね!そして、ますますつながりが広がりそうですね。

昨年から2022年1月までの10ヶ月間、「アンテルーム 京都」では、パナソニックと共同で、五感で瞑想を体験するための宿泊プログラム「(MU)ROOM」を効果検証しました。会期中に自身がキュレーションし開催した展覧会「デジタル・オーガニック」に参加してくれた作家の2人が今のアンビエントイベント「circum」のパートナーです。周囲から刺激を受けながら、今に意識を集中していく瞑想と、今の活動も地続きにつながっていますね。

2人のうちの1人は、英国でテイラーを学んだ後、今は電子音楽と環境音楽を取り入れた楽曲制作、舞台など様々なアーティストとのコラボレーションもしている武田さん。また、もう1人は10代からからギタリストとして活躍、岐阜・大垣市にあるメディアアートの大学院大学を経て、音楽やアートの分野で活躍している江島さんです。

自分自身もホテル、イベント、スナックと、アートと夢がいろいろなところで仕事にも繋がっています。周囲の環境にゆだねつつ、人との出会いやつながりを大切に、流れを意識しながら新しいことにチャレンジしていきたいです。

――今後、「アンテルーム 京都」でやっていきたいことはありますか?

コロナ禍の2年間を経て、ホテルにもようやくお客様が戻り、おかげさまで稼働も上がっていています。ベースをしっかり立て直し、将来へのチャレンジをしていきたいです。これまで、気づきや学びを与えるホテルの在り方を模索してきましたが、「アンテルームに泊まるために京都に来る」ような、ディスティネーションホテルを次の目標として考えています。アンテルーム自体が旅の目的になるような企画を生み出していきたいですね。

上田聖子(うえだ・まさこ)●1982年滋賀県生まれ。ホテル アンテルーム 京都・支配人/アートキュレーター 10代で見たアンディ・ウォーホルの展覧会に衝撃を受ける。後に渡英。グラスゴー美術大学でファインアートを学ぶ。現地ではアートに対する敷居の低さや、ホテルとアートが密接に関わっている状況を目の当たりにした。帰国後は、伝統工芸を海外へ発信する仕事に就き、当時の同僚がアンテルーム京都の開業に関わったことをきっかけに、UDSへ転職。2016年アンテルーム増床では企画を担当し、「GOOD DESIGN AWARD 2017」を受賞。GALLERY 9.5では、David Bowieの写真展やウルトラ・ファクトリーとの共同企画展など、数々の展覧会を担当。主な展覧会に「ANTEROOM TRANSMISSION vol.1 ~変容する社会の肖像」(2021年)「デジ タル・オーガニック」展(2021年)。

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小野アムスデン道子
Writer 小野アムスデン道子

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