Paranaviトップ ノウハウ 制度/法律 男性育休 保活で育休延長、2度の引っ越し……。「男性育休」ありがちな誤解とパパになって知った育児の大変さ

保活で育休延長、2度の引っ越し……。「男性育休」ありがちな誤解とパパになって知った育児の大変さ

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202210月から施行スタートした改正版「男性育休」。とはいえ、現状の男性育休取得率は約14%、その中身も2週間未満が大半と、まだまだ浸透していない状況です。勧められてはいるものの、周りの反応や収入面で心配……という人も多いかもしれません。実際に取得した人はどう感じているのでしょうか? 2018年に、2回に分けて、約1年半の育休を取得し、育休経験をもとに「育休シミュレーター」やWebメディア「YASUMO」を開発。今は4歳の子の育児をしながら、大手企業と業務委託のパラレルキャリアをして働いている伊美裕麻(いみ ゆうま)さんに話を聞きました。

パートナーに促されて1回目の育休を取得

――伊美さんが育休を取得したのは2018年。その当時は、男性の育休取得率は6%程度でした。育休の申請をするだけでも大変だったんじゃないでしょうか?

当時ちょうど、サイボウズの青野慶久社長が育休を取得したというのが話題になった頃でした。ほかにも企業の代表の方など著名な男性が育休を取得し始めていて、「男性でも育休を取れる、取ろう」というのが、社会的な流れになり始めていたんです。 

それでも、現実にはなかなか男性育休の制度自体が浸透しておらず、具体的に何からどうしたらいいのかわからないという点では大変でした。なので、人事・総務部などで、育休・ダイバーシティ推進を行っている人を味方につけて、具体的な検討や手続きを進めました。

――周りの反応はどうでしたか?

子ども向けの商材をつくっている部署だったので、上司やチームメンバーは理解してくれる人が多かったです。ただ、やはり「休んで何するの?」とか「奥さんがいれば大丈夫じゃないの?」という声も中にはありました。会社としても、まだまだ事例は少なかったのですが、幸い近くにも1人だけ過去に育休を取っていた人を知っていたので、無理ではないとわかっていたのはラッキーでしたね。

――育休取得は、パートナーの方から勧められたんですよね。当時は同じ職場だったんでしょうか? 

はい。妻は学生時代の男性の先輩が育休を取っていたのをブログで見ていたようで。妻から「取るでしょ?」と言われて初めて、自分も育休を取るという選択肢があることに気づいたんです。それまでは、なんとなく仕事も育児も頑張るぞ、くらいに思ってはいたんですが、具体的には何も考えていなくて。

そこから制度を調べ始めて、1回目の育休を出産から8週以内に終了すると、期間を空けて2回目も取れるということ(男性育休再取得の特例)がわかったので、2回目の取得を視野に入れながらも、あまり詳しく時期や期間は決めずに1回目の育休を取りました。とりあえず、自分達の生活を整えるためにも、1ヶ月は最低でも取ろうということだけは考えていましたね。

男性育休・伊美さん

――夫婦2人だけでの育児は大変ですよね。1ヶ月経って復職してからも、育児は終わらないですし……。そこから2回目の育休まではどんな流れだったんでしょうか?

1回育休を取ったことで、もっと子どもと過ごしたいなという気持ちは生まれていたので、在宅勤務を増やしたり、残業をしないようにしたりして、なるべく働き方を変えていくようにはしていました。ただ、まだ2回目までは考えていなかったんです。 

休まなきゃ! と思ったのが生後10ヶ月のとき。子どもが成長して、離乳食も食べるし、ハイハイしだして動き回ったりもするから、妻もワンオペ育児にヘトヘトになって、私が仕事から帰ると爆睡しているような状態になってしまったんです。

ちょうど私も仕事に区切りがつきそうだったこともあり、休むなら今しかないと思いました。妻は育児だけ、私は仕事だけ、になってしまうと夫婦のギャップがどんどん広がっていってしまうのにも危機感を覚えたんです。妻はもともと働いている人だったということもあり、どちらかに偏ってしまうと良くないと思いました。

保活で2度の引っ越し! 育休中だからこその決断と行動

――動き出すと目も離せないし、本当それまでと違うしんどさがありますよね。そして、そこから怒涛の保活が始まりますね!

うちは息子が1月生まれで、たぶん1月入園は厳しいだろうなとは思っていました。保活自体は育休を取る前からしていて、保育園見学には行っていたんですが……。1歳の1月はダメで、1歳の4月でいけるだろうと思ったら、そこでも落ちてしまって。育休も延長することになりました。

――激戦区だったんですね……。そこでお引っ越しもされたんですよね? 

はい。1歳の4月時点で入園するために、都内の別の区に引っ越したんです。ですが、同様にほかの激戦区の人たちが、その区だと入れるらしいというのを聞きつけて、同時期にたくさん転入してきたらしく……。まさかの1歳の4月でも落ちてしまいました。

それで、育休を延長することになって。延長しても2歳までしか取れないから、どうしようかと思っていたところ、妻が、「確実に入園できる認可外保育園」を見つけて。その近くへ、2回目の引っ越しをしました。

男性育休・伊美さん

――保活のための引越し! 赤ちゃん連れでの引越しって本当に大変ですよね。

めちゃくちゃ大変でしたね! 箱に入れたものが次々箱から出されてしまい……(笑)。まさか、保育園のために2度も引越しをするとは思いませんでした。作業自体は大変でしたが、育休中だったからこそ、内見にもすぐ行けて、いい環境に移ってこられたなと思います。

――すごい決断力と行動力ですね! ご夫婦ともにパラレルキャリアで働いているそうですが、育児と本業に加えて副業も、となると忙しくないですか?

きっかけは1歳で保育園に落ちたタイミングで休業給付金が減額(※1)されたことで、育休中の収入不安とキャリア不安から夫婦ともに副業を始めたんです。

当初は子どもを遊ばせながら空き時間でできるかもしれないと思いましたが、実際にやってみると、育児と仕事を同時にやるのは物理的に無理だとわかりました。最初は妻と交互に分担していたんですが、どうしても負担が片方に偏ってしまうことがあって。慣らし保育にもなるし、復帰後の予行にもなるし、公平だからと、一時保育やベビーシッターさんを利用することにしたんです。

お金がかかるので、最初は1時間数百円の一時保育を利用していたんですが、ありがたいことに、勤め先の会社からベビーシッター利用の補助を出してもらいながら働ける機会もいただいて。週に数時間〜でも、フルリモートで働けたのは良かったです。それが副業を始めるきっかけにもなりました。 

一方で、本業の仕事はもともと好きですし、子ども向けの事業ということもあって、復職後はさらに当事者意識を持って取り組めているんです。コロナ以降はフルリモート・フルフレックスで柔軟な働き方ができているのもあって、複数の仕事をこなしながらでも子ども中心の生活を続けられています。 

育休について誤解していたこと、イメージと違ったこと

――振り返ってみて、当時育休を取っていなかったらどうなっていたと思いますか? 

育児のスタートを夫婦で一緒に切れないと、その後の育児のレベルにどんどん差がついたままになっていただろうなとは思います。育休を取ったことで、子どもが生まれたころから授乳以外なんでもやっているので、成長に合わせてやらなければいけないことが増えても、妻と差分なく何でもできる状態になっています。わからないことがあっても、2人で一緒に考えてどうするか決めたり、それぞれが得意なところをやったりする関係性ができたのも、育休期間があったからですね。

――実際育休とるまで誤解していたこと、イメージと違ったことありましたか?

それまでは育休って会社の制度だと思っていましたし、そう思っている人も多いですね。実際は、国が定めている制度であって、給付金も勤務先からではなくて雇用保険から支払われているということは、制度を調べて初めて知りました。育休を取った話をすると、他の会社の方から「制度があっていいですね、うちはないですよ」とか言われたりもしたこともあるので、そのたびに、それは違うという説明をして……。ただその認識もここ数年でちょっとずつ変わってきているような気がしています。

男性育休・伊美さん

港区男女参画センター主催の講演会の講演資料。伊美さん自身の育休や育児の経験を振り返りながら、男性育休、ダブル育休、待機児童問題、副業、保活、職場復帰などのテーマについて網羅的にまとめられている。

出典:20200924_男性と育休 港区立男女平等参画センター リーブラ主催講座 第2回「男性と育児」

また、収入もどれくらい減ってしまうのかという不安があったので、エクセルで計算してみたりしました。実際には、税金の免除や社会保険の免除があるので、手取りではそこまで減らないということや、初回の給付金が入るまで2ヶ月以上のタイムラグがあるので、貯蓄がないと厳しいという現実的なことも調べてみて初めてわかりました。そういうことも、もっとみんなに知ってもらいたいなと思って「育休シミュレーター」というのを作りました。

あとは、少しは休めると思っていたんですが、全然休めなかったですね。特に、新生児期の数ヶ月間は、数時間おきの授乳・ミルク・おむつ替え・寝かしつけ・お風呂の繰り返しで、夜泣きは夫婦ともに寝られずに辛かったですし、仕事や勉強の時間なんてまったく取れませんでした。

――今後、育休取得者が増えるためにはどうしたらいいと思いますか?

育休制度の普及のためには、「取る」だけでなく、「取ったあと」の検討ができることが不可欠だと思います。方向性は2つあって、片方はインセンティブ設計、片方は実際の取得事例の周知です。

インセンティブ設計に関しては、社会制度の寄与が大きいと思います。2020年に、男性の国家公務員の育休取得率が99%になったというニュースがありました(※2)が、そこで印象的だったのが、「育休取得に向けた調整をすることが、管理職の人事評価に反映される」仕組みになっていたらしい、ということ。「周囲に迷惑をかけてしまう」と思うような状況ではどうしても取りにくいですが、逆になにかベネフィットを与えられる状況なら、気楽に検討できるようになるかもしれません。

取得事例の周知は、まさしく私が今回お話したようなことなんですが、人生はさまざまなので、「核家族で祖父母を頼れない」とか、「引っ越しまでしたのに保育園に入れない」とか、そのほかにも細かなエッジケースが無数にあって、先人がどう対応したのか事例がわかると、計画も立てやすいのではないでしょうか。

実際、育休って当事者になるまでわからないことだらけなのは、男女で大差ないですよね。家族ごとに理想の形も、持っている選択肢も違いますから、これが正解という形もない。職場や家族と相談を重ねて、育休を取ったあとどうキャリアを重ねていくかを考えられれば、多くの方が自分ごととして検討できるようになるのではないでしょうか。

※1 育児休業開始から180日目までは休業開始前の賃金の67%が支給され、181日目からは、休業開始前の賃金の50%が支給される。

※2「男性国家公務員99%が育休取得 内閣人事局調査」朝日新聞デジタル 

伊美裕麻(いみ ゆうま)●1990年岐阜県生まれ。2015年に通信事業企業に入社。教育・キッズ事業を担当し、2016年から子ども向けスマホアプリのサービス企画・開発に従事。また、2018年に息子が誕生し、約1年半の男性育休を取得。自身の育児休業の体験をもとにした「育休シミュレーター」およびWebメディア「YASUMO」の開発、運営や、個人書籍「育休はじめてガイド」を発刊している。

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岡部 のぞみ
Writer 岡部 のぞみ

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