Paranaviトップ お仕事 起業/独立 「人気アナウンサーが独立してフリーに」あるある展開に、私たちがここまでときめくワケ『一旦、退社。50歳からの独立日記』

「人気アナウンサーが独立してフリーに」あるある展開に、私たちがここまでときめくワケ『一旦、退社。50歳からの独立日記』

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大人気ポッドキャスト番組「OVER THE SUN」。コラムニストのジェーン・スーさんと共にパーソナリティを務めるのが、アナウンサーの堀井美香さん。「定年までTBSで働くつもりだった」という堀井さんの退職宣言は、他のアナウンサーの独立とはなんだか一味違う気がする……。2月に上梓された初エッセイを読みながら、その秘密を解き明かします。

「共通点はほぼゼロ」な二人が主催する、金曜5時の「互助会」

「皆さまよくぞ、よくぞよくぞ金曜日までたどり着きました。本当にお疲れさん!」

毎週金曜日の午後5時に配信される、ポッドキャスト番組「OVER THE SUN」。ジェーン・スーさんの軽やかな労わりの言葉からはじまるこの番組を、1週間心待ちにしているという人は多いのではないでしょうか。

リスナーは「互助会メンバー」と呼ばれ、ペンネームならぬ「おばさんネーム」を名乗ってメールを投稿。人間関係や仕事、健康にまつわるもろもろについて、時に爆笑、時にしんみりしながら語り合う、「おばさんたちのしゃべり場」のようなトーク番組です。

パーソナリティは、コラムニストのジェーン・スーさんと元TBSアナウンサーの堀井美香さん。2人の出会いは9年前、TBSのラジオ番組にて。後に番組を降板した堀井さんにスーさんが声をかけて、スタートしたのが「OVER THE SUN」だったそうです。

バックグラウンドも、考え方もファッションも、何もかも違う2人の女性。コラムニストとして精力的に活動し、鋭い視点と文章力・トーク力で世の女性の心を鷲づかみにするスーさん。かたや、TBSに勤続27年。2人の子どもを持つワーキングマザーで、ファッションも考え方も「ザ・コンサバ」な堀井さん。

この「共通点ほぼゼロ」の二人が織りなす丁々発止のおしゃべりには、遠赤外線のような効果があって……。1週間酷使した心と身体を、ホッとゆるませてくれるんです。

会社員時代を血肉にした、「人間・堀井美香」

「ルールや型が決まっている方が楽」と公言していた堀井さんが、「早期退職して、フリーになります」と宣言したときは、本当に驚きました。

OVER THE SUN」を通して堀井さんの多様な魅力を感じていたとはいえ、人気が出てきたアナウンサーが独立することは「あるある話」だとはいえ、「堀井さんは違う」と勝手に思い込んでいたんですね。

TBS退社後1年のことをつづった初エッセイ本が出版されると聞き、すぐに手に取りました。

一旦、退社

『一旦、退社。 50歳からの独立日記』(堀井美香/大和書房)

ある日、50歳というキリのいい数字を前にして、一旦、退社してみようかな、と思った。――『一旦、退社。 50歳からの独立日記』より

堀井さんを一言で表現するなら、「自分を高くも低くも見積もらない人」。

これはおそらく、大企業で「普通の社員」として長く過ごしてきた人特有のもの。自分の立ち位置や評価にはシビアで、でも、それに悩み過ぎないようにするすべを身に着けている……。これって、多くの働く女性のリアルであり、目指したい姿とも言えないでしょうか。会社員であることは堀井さんの「普通力」の大きな基盤だと感じていたので、退社宣言はファンとして少し寂しくも感じました。しかし本の中でおしゃべりしているのは、会社員時代を自分の血肉とした「人間・堀井美香」。

後輩アナウンサーたちとの交流、上司や先輩にかけられた言葉、子育てで仕事をセーブしたときのこと、「朗読イベントをやりたい」と企画を立て挑戦したこと。紹介される一つひとつの思い出話が、今の堀井さんにきっちりつながっていることに、目を開かれる思いでした。

 幅広い世代と関わり、異動によりいろいろな仕事を経験でき、新人の「下積み期間」もライフイベントによる「低速期間」もある程度許されている……。会社勤めは制限が多く自由が無いように見えて、実は「自分をゆっくり育てる」のに適した働き方なのかもしれません。

 ゆっくりゆっくり時間をかけて蓄積された自信と、歯車として働くことで逆に浮き彫りになってゆく自分らしさ。堀井さんが「会社員・堀井美香」という看板を下ろし、「人間・堀井美香」として生きる準備が整ったのがちょうど50歳だったということなのかなと、すっと腹に落ちました。 

退社の後押しをしたのは、シスターフッド

私が会社を辞める時、最初に相談したのは、きっと彼女なら「やってみなよ」と言ってくれると思ったからだ。そしてスーさんの「最高じゃん」という言葉はいつも私に勇気をくれた。――『一旦、退社。 50歳からの独立日記』より

そして堀井さんの退社に大きな役割をかったのは、盟友ジェーン・スーさん。

仕事の現場で出会い、親交を深めてきた2人。「共通点ほぼゼロなのに、おしゃべりが止まらない」という2人の仲良しっぷりは、「大人になると友達が作りにくくなる」という悩みを抱えた人にとって大きな希望です。

 大人にとって、それぞれのライフステージでの悩みをただただ吐露できる相手というのは本当に貴重なもの。互いの違いに敬意を払いつつ、深刻さと雑さのバランスがとれて、かつ、刺激を与え合う関係。スーさんと堀井さんのおしゃべりを聞いていると、「これぞシスターフッド」と思います。

本の巻末には、お2人の対談も納められています。その中で、後輩世代に対しては、しっかり仕事のやり方を教えてあげたいと語る2人。

スー だって、こっちは渡しても減らないじゃん? 「渡しても減らないもの」って、つまり「人から奪えないもの」なんですよ。そういうものを人に渡していきたい。(中略)

堀井 そうだね、渡すだけ渡して、あとそれをどうするかは本人次第でもあるしね。

――『一旦、退社。 50歳からの独立日記』より

 凛々しく愉快にしなやかに、「人間」という肩書で生きる先輩たちの姿は、今いろいろな壁にぶつかっている最中の後輩世代にとって希望の光です。考えていること、伝えたいことをより自由な立場から発信できるようになった堀井さんが、これからどんな人生を歩んでいかれるのか、シスターフッドの輪に勝手に入ったつもりの互助会メンバーとして、ウォッチさせていただきたいと思います。

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梅津奏
Writer 梅津奏

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