Paranaviトップ お仕事 働き方 ミッドタウン八重洲に進出のインド発コーヒーショップ、焙煎士が語るエステティシャンからの転身ストーリー

ミッドタウン八重洲に進出のインド発コーヒーショップ、焙煎士が語るエステティシャンからの転身ストーリー

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2023年3月にオープンした東京ミッドタウン八重洲の2階にあるオープンパブリックスペース「ヤエスパブリック」。そこにポップアップで出店している「BLUE TOKAI COFFEE(ブルートーカイコーヒー)」は、ユニークなインドのスペシャルティコーヒー店。店頭に立つこともある小暮美穂さんは、このブルートーカイコーヒーの焙煎士。前職はエステティシャンだという彼女に、インドのコーヒーロースターの焙煎士になった経緯について聞きました。

大好きなコーヒー「仕事にできたら楽しいかも」

――店頭にいらっしゃったのでバリスタの方かと思ったら「コーヒー焙煎士です」とお聞きしてびっくり。コーヒー焙煎士ってどうすればなれるんですか?

コーヒー焙煎士には、資格は必要ないんです。言ってしまえば誰でもなれるのですが、ローストによって決まるコーヒーの香り、味、風味を引き出すのが焙煎士のお仕事です。天気やプロファイル(豆の特徴に合わせた煎り方)を見ながら、グリーンの豆がいちばん輝くような焙煎をするのは、一朝一夕ではできません。

コーヒー豆というと、コーヒーの木に豆のようなものがなっているイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実はコーヒーというのは果実なんです。コーヒーチェリーという赤いコーヒーの実の中に入っている種がいわゆるコーヒー豆です。焙煎士がこの生豆(種)をロースト(加熱)することではじめて飲めるようになるんですよ。

ブルートーカイコーヒー

コーヒーの果実、さくらんぼに似ているため「コーヒーチェリー」と呼ばれる

焙煎士になる前は、インドのアーユルヴェーダのエスティシャンをしていました。コロナ禍でエステ業が厳しくなり、契約店も閉店して仕事がなくなってしまったんです。半年ぐらいアートギャラリーや飲食関連でアルバイトをしたり、漢方の勉強をしていたので資格を活かして医薬品販売をしたりしていましたが、どれもやりがいが感じられず……。毎日、左手にコーヒーカップを持ちながら、求人サイトを見ていました。

そこで目に入ったのがコーヒー焙煎士の募集。「これだ!」と直感で惹かれました。私はお酒が飲めなくてコーヒーが唯一の嗜好品で、自宅でも1日3回飲んでいたほどなんですが、「これを仕事にしたら楽しいかも」と、とりあえずやってみようと思いました。

最初に仕事を始めたのは、いろんな産地の豆をブレンドした中からお客様の好みに合わせてマイクロロースターで焙煎するお店でした。ただ、ガス圧や焙煎時間の調整もなく短時間で簡単に焙煎して提供するものだったので、ベストな焙煎ができてなかったんです。また、コーヒー豆もブレンドされた豆の中から選んで焙煎するだけだったので、物足りなくて。ちゃんと焙煎を学びたいと思いました。

――専門的に焙煎ができるコーヒー店を探されたんですね。

はい。でも焙煎士って募集が少ないんですよ。バリスタはコーヒー店の数が必要ですが、焙煎士は一人いれば十分。そしてキャリアもなかったので、働かせてくださいと飛び込みで行っても、門前払い。6〜7軒は断られました。そんな時にアルバイト情報で、六本木ミッドタウンでのブルートーカイコーヒーの募集を見つけたんです。そのときはポップアップで1ヶ月の出店用にバリスタの募集でしたが、インドのコーヒーというのも初めてで興味がわいて。

インドから来日したヘッドロースター兼品質管理責任者のシュレヤス・チトニスと小暮美穂さん

面接のときに代表に「実は焙煎士をやりたいんです」と伝えてみると、焙煎所が栃木にあるので「じゃあ栃木に来る?」という話もいただいて。栃木まで焙煎のために引っ越せる人は少ないと思いますが、実は私自身も栃木出身という偶然があり、ご縁に恵まれました。

コーヒーの焙煎は常に研究で終わりがない

――それで、栃木で焙煎をされているんですね。コーヒーの焙煎士にはどんなセンスが必要なんでしょうか?

コーヒーの焙煎には、五感を使います。コーヒーを焙煎するとメイラード反応という化学反応が起こり、甘い香りがしてきます。まず、この瞬間を捉えるのに嗅覚を使います。また、カラーチェンジと言って豆の色も変わるので視覚も使います。

ブルートーカイコーヒー

また、焙煎で豆の中に火が入るとオイルがパチパチとはねだすのでその音を聴きわけるのに聴覚も必要です。だいだい、豆を煎るのに10分、冷却する時間まで入れると15分ですが、煎っている間はつきっきりで五感を研ぎ澄ましていないといけません。かつ、力仕事でもありますね。今、ミッドタウンへの出荷も多くて、1日50k以上から60kgを煎っています。私たちは1回を1バッチといって、浅煎りで5kg、深入り9.5kgを煎るのですが、1日に15バッチを煎る時もあります。インドから来たヘッドロースターが上司で、サポートしてくれています。

私はジュニアロースターとして働いていて、できるのはまだ深煎りのみで、浅煎りは上司が担当しています。浅煎りは、豆の質やキャラクターがそのまま出るのでテクニックが必要なんです。今は、5月までに深煎りを一人でできるようになって、その後、浅煎りができるようになるまでは1年〜1年半かかります。おいしい豆に焙煎できるようになるまで常に研究で終わりがありません。毎回5kgの豆で真剣勝負です。

今は週に2回焙煎をして、翌日にテイスティング(カッピング)をして、味や香り、焼き加減などを一緒にチェックしてスコアをつけます。一定のスコアを上回らないと売れないんです。豆の焼き入れ時間によって、豆の温度が上がらなくて、ダメだということあり、実際飲んでみるとこれはダメだとかわかります。

いつか自分のロースタリーを持ちたい

――一人前の焙煎士になるには、かなりの経験が必要なんですね。インドの豆、ブルートーカイコーヒーの豆はどんな特徴があるのですか?

お茶文化のイメージのあるインドですが、ブラジルやエチオピアと比べて、そもそもアジアの国はコーヒーについては発展途上。ブルートーカイコーヒーの豆は赤道に近いコーヒーベルトにある農園で収穫していて、2023年で10年になります。初めて飲んだ時に、浅煎りで出すのは自信があるのだなというのと豆がべっぴんだなと思いました。

ブルートーカイコーヒー

日本人は、酸味を感じる浅煎りを飲んだことなくて、深煎りが好きだという方が多いですね。そんな日本人のテイストも考慮しながら、インドの味を再現できるようにしています。ブルートーカイコーヒーは、インド発のコーヒーカンパニーで、パートナー農園と協力しながらいい豆で焙煎しているのが強みです。

豆は、グラインド(挽く)のときがいちばん香りがいいんです。コーヒーを楽しむには、まず抽出するためのドリッパー、そしてグラインダーを買ってほしいですね。自分でガリガリとコーヒーを挽くのは格別です。ぜひブルートーカイコーヒーを挽いてみて、香りから味わってみていただいたいです。

――今後はコーヒーからどのように事業を広げていきたいですか?

先日、初めて自分で焙煎した豆を売りに出しましたが、豆は以前からあるJapan Blend・菫(すみれ)という事前にブレンドした生豆を深煎りしたものです。豆のブレンドは、今は上司が作っていますが、まずは自分のブレンドした豆を出したいですね。アーユルヴェーダやアロマテラピーで精油を使っていた経験があるので、花や植物をイメージする華やかなコーヒーを作れるようになりたいです。将来的には、自分のロースタリーを持つことが夢です。屋号ももう考えていて、サンスクリット語を使いたいなとか。愛着のあるインドコーヒーももちろんブレンドして。

――それは楽しみですね!ブルートーカイコーヒーはどうしたら味わえますか?

いま、オンラインで買っていただけるほか、東京ミッドタウン八重洲のポップアップショップ(2023年9月までを予定)では、味わっていただいてその場で豆も買えます。200gで1,200円とお値段も手頃だと思いますので、ぜひ試してみてください。

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小野アムスデン道子
Writer 小野アムスデン道子

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