家庭環境に悩む子どもたちを支援している、NPO法人ウィーズ。LINE相談から子どもたちの居場所の運営まで、いろいろな手段で悩みを抱える子どもたちにアプローチしています。なぜこれほどの情熱を燃やし続けられるのか、そして光本さんの目指すところはどこなのか、ウィーズ代表の光本歩さんに聞きました。
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悩みを、言葉に出して表現できない子どももいる
――ウィーズでは今、どんな活動をされているんですか?
コロナ禍が始まった3年くらい前から、家庭の中で悩みや生きづらさを抱える子が増えています。ウィーズでは無料のLINE相談を24時間受け付けていて、月に2500件くらいの相談がきます。
子どもは、親が同じ家にいる状況で、相談員に電話相談なんてできません。LINE相談は子どもが外部の大人に直接ヘルプの声を上げられるのがいいところだと思います。約90人の支援員が、毎日全力で相談に乗っています。
ただ、LINE相談にも課題があって、まずはスマホを持っている層に限られること。そして、友達登録だけで終わってしまうケースも4割くらいあることです。悩みやモヤモヤは心の中にたくさんあるけど、それをうまく言葉にできないという子がたくさんいるんです。そもそも悩みを悩みと認識していない子もいますね。
――子どもたちはいろんな問題を抱えているんですね。
今、そういう子たちが安心して相談できる場所を、メタバース上につくりたいと考えているところです。メタバースなら顔や名前は仮想のものでいいし、ほかの人が何を喋っているか見えるのが画期的。自分と似た悩みを持っている仲間が見つかるし、「こういうことも喋っていいんだ!」とわかるのもメリットです。
――リアルな居場所も提供しているんですか?
はい、千葉県で「みちくさハウス」を運営しています。家庭に居場所がない子が毎日でも来られるようにご飯3食とスマホの充電器を提供しています。ただ、お金も人手も必要なのと、どうしても近場の子に限られてしまうこと、物理的なキャパを増やすのが難しいことなど課題はたくさんあって、もどかしいですね。
2024年度からは、キャンピングカーを使った「移動みちくさハウス」や、メタバース上の「オンラインみちくさハウス」にすることも考えています。気軽に喋れるリビングルームと、センシティブな話もできる個室、イベントをする多目的ルームなどを作れたらいいなと思っています!
崩壊した家庭で育つと、大人になってから歪みが出てくることも
――精力的に活動されているウィーズですが、いちばんの目的はどこにあるのでしょうか。
「家庭環境に悩む子どもたちを支援すること」です。子どもにとってのベストを追求するために、時には親向けの支援をすることもあります。でも、家庭環境の影響をいちばん強く受けるのはいつも子どもなので、そこは軸を変えずに続けていきたいです。
親を支援するときは、「親」や「大人」ではなく「かつて子どもだった人」と捉えるようにしています。例えば精神的に不安的な人、DVをする人は、必ず子ども時代にその原因があります。子どもの頃に親から暴力をふるわれたとか、親が長年不仲の末に離婚したとか。そこがケアされないままだと、いざ自分が親になったときや大人になってから何かしらのタイミングで歪みが出てきます。
――機能不全な家庭で育つと、あとからその歪みが表出してくるんですね。
はい。家庭に問題がある子は「しっかりするかグレるかの2択」とよくいわれますが、しっかりしている子も必ずどこかで爆発します。誰だって親に甘えたい、誰かに頼りたいという気持ちを持っていますが、家庭環境がよくないとそれを表現できる場所がありません。そんなときに、思いをぶつける先として非行に走る子が多いです。非行が、いわばセーフティネット的な役割を果たしてしまっているんですね。
私も両親が離婚していて、母の金銭トラブルもあり、とてもいいとは言えない家庭環境で育ちました。周りの優しさのおかげでここまでこられましたが、ある意味、非行少女と紙一重だったと思います。だから今でも、何らかの理由で家族が崩壊している場合は、家の外に家族的な場所を持てればいいし、家族が回復していけるならまずは全力でその道を探りたいと考えています。
辛い境遇に耐えることを、生きる支えにしている人もいる
――子どもたちへの支援をする中で、デリケートな話題に触れることもありますか?
日常茶飯事です。そこで感じるのが、辛い境遇にも耐えながら毎日頑張ることそのものを支えにしながら生きている人たちがいるということ。例えば性風俗で働く女性の中には、「いろんな職場を渡り歩いてきたけど、私にはこの仕事しかなかった」「風俗で働けて、なんとかギリギリ頑張れている」という人がたくさんいるんです。
支援は、まず本人が今している努力を認めることが大前提。「風俗=NG」という勝手な価値観を押し付けても、相手が一生懸命努力している「今」を否定するだけで終わってしまい、到底ケアにはなりません。
――他人から見たら「傷」に見えても、それが本人にとっては生きる原動力になっていることがあるんですね。
はい、そしてその場合もはや、「今の環境から離れさせること」が正しいのかどうかもわかりません。判断には気力も時間も必要です。
また、必ず本人の生い立ちを振り返ることが必要です。ひどい傷を負っても、それ自体に気づかないまま、歪みを抱えて生きている子は本当に多いんです。だから、時間をかけてもさかのぼってケアし直すことが必要。本来すべての子どもが経験する「愛され、守られること」を、実感できる場があるべきじゃないかなと思います。
――こうして、骨太の活動を長年続けてきた光本さん。JWLIが主催している「チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞(CCJA)2022」で大賞を受賞されましたね。
ウィーズのスタッフがすごく喜んでくれてうれしかったです! 私たちの活動はすごく地味で、スポットライトが当たることはあまりありません。子どもたちのセンシティブな話に触れるので、SNSなどで詳しく発信するのも難しいんです。
でも、私たちの活動を見ていてくれる人がいるんだ! と思えて、すごく元気付けられました。外の方に評価してもらえたことで、ウィーズの活動は社会的に必要なことだし、間違っていないと改めて自覚できました。
――光本さんのほかにも、受賞された方が4名いらっしゃいました。
みんなとは今でもLINEでつながっていて、意見交換しています。活動内容は別々ですが、似た部分が見つかることもあって面白いですね。全員に共通するのは、熱量と主体性が段違いに強いこと。おおげさじゃなくて、日本もまだ捨てたものじゃないなあと思います。
またJWLIの活動を通して、こんな素敵なことをしている人たちがたくさんいるんだと知りました。日本の未来には不安に思うことも多いけど、前を向いている女性たちがいると思うと励まされます。みんなの活動を、もっとたくさんの方に知ってほしいです!
【ご案内】チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞2023 開催
社会課題の解決に挑戦する女性リーダーに光を当てる「チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞2023」開催決定! 2006年より日本の女性のエンパワメントに取り組んできた、米国ボストン拠点のフィッシュファミリー財団の主催する「チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞」(CCJA: Champion of Change Japan Award)は、女性のちからで誰もが安心して、平等に暮らせる豊かな社会をめざし、勇気を持って行動を起こす「草の根の女性リーダー」を讃える賞です。
新型コロナウイルスやロシアによる軍事侵攻など、刻々と変化する世界では、これまで以上に様々な社会課題が浮き彫りになっています。こうした危機を乗り越え、果敢に草の根で社会の課題に取り組む女性たちを、みなさんから寄せられた推薦をもとに選出し、その活動を称え、エールを送ります。
2023年12月には都内某所にて、「チャンピオン・オブ・チェンジ」日本大賞1名を発表し、対象者、およびファイナリスト入賞者を表彰する式を実施します。お楽しみに!