2023年10月から規制が厳しくなったステマ(ステルスマーケティング)。広告・PRに関しては表示義務が厳しくなり、これまでのアフィリエイト広告も景品表示法違反となる可能性が出てきます。ブログやSNSでの広告収益やPRをパラレルキャリアとしている人も多いですが、具体的にどうしたらいいか、何に気をつければいいか、逆にチャンスにするにはどうしたらいいか? インフルエンサー専門のビジネスコーチング事業を運営する、株式会社NonaCanvas代表の野中祥平さんに解説してもらいました。
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「マーケティングの仕方がわからない」インフルエンサーが多い
――野中さんはインフルエンサーに特化したコーチング支援をしているんですね。その活動について詳しく教えてください。
具体的には、インフルエンサーさんのビジネス面、マネタイズなどの収益面のご支援をしています。例えばオンラインサロンを立ち上げたい、コンサルティングサービスを立ち上げたい、そういった時に「価格はどうする?」「中身はどうする?」「集客はどうする?」といったことで迷子にならないで済むようにコーチングして、目標とする売上を達成するための全体像や戦略も一緒に考えています。
――事業を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
私自身も大学生のころ、ブログインフルエンサーとして書籍を出版して6万部発行する経験をしたことがあるのですが、ビジネスのことが全然わからずに起業を断念したという悔しい経験があります。その後、SNSマーケティング上場企業であるトレンダーズに就職し、11年務め、執行役員になりました。そこで得た事業開発、経営、マーケティング、マネジメント、コーチングなどの知見を、当時の自分のように「発信やクリエイティブは得意だけど、ビジネスは苦手」という人たちに提供したいと思ってこの事業を始めました。
――実際インフルエンサーの方でビジネスに困っている方は多いのでしょうか?
そうですね。「商品を作ったはいいが、マーケティングの仕方がわからなかった」といった悩みもありますし、何よりビジネスの相談ができる相手がいない人が多い印象です。地方のインフルエンサーさんは特にその傾向が強いですね。フォロワーは増えて、一定の目標を達成した人たちがそれ以降どうしていいかわからず立ち止まってしまうパターンもあります。
「自主的なルール規制」から「景表法違反」へ
――そんなインフルエンサーの方たちにも大きく関わる2023年10月からのステマ規制ですが、具体的にどのようなものか教えていただけますか?
ステマ規制を、すごくざっくり説明すると「ステルスマーケティングをしてしまうと、広告主側が景品表示法違反で罰金や懲役の対象となる可能性がある」という内容です。これまでは「WOMJ(一般社団法人クチコミマーケティング協会)」という協会とその加盟している会社により、自主的にステマに関してルールを作ってみんなで守っていたという状況でした。それが10月からは、消費者庁管轄の景品表示法という法律によって、ステマに関する規制が明文化されるようになったんです。
――「みんなで守っていこう」という自主的なルールではなく、「守らないと罰則を受ける可能性がある」のですね。具体的にどんなことをしたらダメなのでしょうか?
そもそもステルスマーケティングというのは 広告主が広告であることを隠して宣伝をすることと定義されています。 広告主から「これを宣伝してね」と依頼があったのにインフルエンサーが依頼や指示があったことを隠して、あたかも自主的な口コミとして紹介するなどがステルス マーケティングに当たります。それによって、「なんかすごそう!」「私に合ってそう!」と疑いの目を持たずに購入してしまう人が出ることを防ぐために、企業からの依頼があった場合はちゃんと表示をして、広告であることがわかるようにしましょう、というのが全体像です。
――法に触れてしまうと思うと投稿1つとっても今までより慎重になりますね。
まさにインフルエンサー側の人は「なんかルールが変わったから、全部に#PRって絶対つけなきゃ」くらいの理解の人も多いと思いますが、そうではありません。消費者庁としては「消費者を騙さないようにしましょう」というベースがあり、「ステマ」も明確にその対象になったということです。
ちなみに、景品表示法とは、商品やサービスの品質、内容、価格などを偽って表示して表示者を騙すことを制限している法律です。BEFORE→AFTERを強調して実態よりもすごそうに見せたり、根拠がないのにNO.1とうたったりすると「なんかすごそう!」と騙されてしまいますよね。そういうことがあると消費者がちゃんと購買選択できなくなってしまうので、それを規制しています。その中に 今回ステルスマーケティングに関する記載が追加となったのです。
――ステマ規制をクリアしながら、インフルエンサーが収益を上げるためにはどのような戦略が必要だと考えますか?
2つあります。1つは、ファンをつけていくという戦略です。PRがついてようがついていまいが「◯◯さんが紹介するものはきっといいものだ!」「むしろ紹介してくれてありがとう」と言われる人は、日頃の情報発信やライブ配信などの交流を通じてファンが多い人だと思います。そういう人は、PRがわかりやすく記載されていたとしても関係なく引き続き買われていくと思いますね。
もう1つは、自分自身の商品を持っていくという戦略です。アフェリエイトもPR案件も、「企業の商品を代わりに宣伝する」ことで、対価として広告費用をもらうビジネスモデルになります。自分自身の商品とは、「オンラインサロン」や「個人へのコンサルティング」、「コンテンツ販売」など、無形のものも含まれます。これらは自分の商品を自分自身でPRするので、もちろんPR表記は不要です。自社商品の良い点は「自分でコントロールしやすい・リスク分散しやすい」という点です。
依頼されたPR案件やアフィリエイトばかりだと、外部のルール、規約変更のアカウントBANなどに、どうしても影響を受けてしまいます。まずは、複数のSNSを運用したりメールマガジンなどの別の連絡手段を確保したりしたうえでビジネスをしていき、自分で収益を上げられるようになれば、今回のような規制があったとしても「アフィリエイトはサブの収益」と割り切ることができます。
「ピンチをチャンスにできるか」が問われる時代に
――ステマ規制が厳しくなる中で、インフルエンサーが信頼を築くためにはどのような方法が効果的だと思いますか?
ポイントは3つあります。1つ目はまず、全部のルールを守ること。法律のルール、企業との契約内容、SNSのルールなど守らないと行けないルールはすべて守り、少しでもグレーなんじゃないかと疑われることはやめましょう。迷ったり、わからなかったりすることがあれば、直接企業やASP(アフィリエイトサービスプロバイダー)各社に聞くことで、自主判断で動くのを辞めるのが安全です。PRさえつけていればOKと思っていると危ないですね。すべてわかっている企業や代理店ばかりではないので。
2つ目は、付き合う企業を見極めること。企業から直接依頼を受ける場合は注意が必要です。今回のような法規制にちゃんと知見がある担当者がやりとりをしてくれるかは不明だからです。企業だからといって安心せず、自衛のためにも、相手だけに確認を任せずチェックすることを徹底しましょう。
3つ目は消費者目線を忘れないことです。これは、自衛という意味ではいちばん重要なポイントかもしれません。仮にステマじゃない(依頼を受けてない)としても、消費者の認識は様々です。「お金を受け取っているものはすべてステマだ」「商品もらっていたらすべてステマだ」と拡大解釈している人もいます。たとえ、ルールを守っていたとしても、炎上してしまうリスクはSNSをやっていたら避けられません。ルールさえ守っていればOKと思わず、「これって消費者から見たら案件に見えないかな?」と常に意識しておくことが大切です。
――ステマ規制が厳しくなる中で、逆にどういったチャンスが増えると思いますか?
全体的に「グレーなことをする人・グレーな依頼をする企業が減る」はずなので、消費者にとってはプラスになります。あとは、インフルエンサーサイドとしては今回のようなルール変更にちゃんと対応できる人は企業や代理店にポジティブな印象を与えられると思います。「私、ちゃんとステマ規制に対応できます。過去にこんな投稿しています。」といったことが企業とのやりとりで示せたり、ユーザーに対しても「私はステマしません」という表明をしたりすることで誠実な印象を与えられるということです。
SNSは信用がベースの世界なので、中長期で活躍する人こそこういった変化に強い方が望ましいです。不安になったり、焦ったり、怖いからといって立ち止まるのではなく、自分から情報を取りに行って、自分で判断したり、適切に相談できるようになれば、チャンスにできるのではないでしょうか。
――ステマ規制が厳しくなることで、インフルエンサーマーケティング業界にどのような新しいトレンドが生まれると予想しますか?
業界としては、ピンチをチャンスにできるかどうかが問われていると思います。インフルエンサー代理店やASPは、広告主やインフルエンサーさんに適切に案内をして「この会社なら安心そうだ」と思わせられるかどうか。広告主、企業側は、いかに「グレーなことはやらずに、収益を上げるための新しい取り組みを増やせるか」というあるべき姿と向き合えるか。インフルエンサー側は、いかに信頼を失わずに、ユーザーに価値を提供し続けられるか。それぞれがいろんな問いに向き合うタイミングなのかなと思っています。インフルエンサーでいうと「ステマ規制」という枠組みの中で戦うかだけではなく、ステマ規制が関係ない戦い方に活路を見出すといった方向転換も大事だと思います。
――それぞれ課題をクリアにできた企業・インフルエンサーが力をつけていきそうですね。実際にはどんなことを意識して新しい活路を見出せばよいでしょうか?
私は常々、「みんながピンチと思うときこそ、チャンスの側面を発見して一歩先を進めるか」「みんながチャンスと思うときこそ、ピンチを見て本当に大丈夫か疑えるかどうか」を大事にしています。
前者の例としては、新型コロナウイルスのとき、ステイホームとなり、ピンチになるかと思いきやSNSを見る人が増え、結果的にフォロワーが増えたという人もいましたよね。後者の例としては、みんながタピオカブームにのっかったとき、このブームは一過性なのか、続くものなのかという視点を持てるかどうかがカギになります。
SNSの市場自体は伸びていますし今後も伸びると思うので、今回のような規制をきっかけに、守りも攻めも両方意識できた企業やインフルエンサーが次の時代を作っていくと思います。逆に言うと「いったん守り」と思考停止してしまうのだけは避けてほしいと思います。
――規制を気にするあまり、身動きがとれなくなってしまうのはもったいないということですね。
そうですね。数年前にも「WELQ問題」(2016年、当時DeNAが運営する医療情報のキュレーションサイトが、SEO対策のため、著作権侵害がある記事や不正確で信頼性の低い記事を大量に生産していたが、その危険性を指摘されサイト閉鎖に至った)があったように、ネット業界にいると何か規制が強化されてルールチェンジが起きて、今までの戦い方が通用しなくなるということが3~5年に一度は起こりますよね。今回の規制がそこまでの影響力があるかわからないですが、みんながピンチやチャンスと思っているときに逆転の発想をしてみることが必要だなと思います。
※詳細なルールや内容は消費者庁のページを必ず確認してください。
野中祥平(のなかしょうへい)● インフルエンサー専門ビジネスコーチ。1989年東京都生まれ。慶應義塾大学・環境情報学部卒。教育系インフルエンサー書籍出版、大手SNSマーケティング支援会社執行役員を経て独立。12年以上のインフルエンサー業界実務経験を活かし、『変態を活躍させる』をミッションとして、インフルエンサー専門ビジネスコーチ事業を展開。SNSで活動するインフルエンサーに向けて、「自分らしさ✕専門性✕高収益」のビジネスモデルを構築するためのマインド・ノウハウを提供している。