2022年12月、東京都文京区にあるビル。都心の夜景を一望できる一室で、「チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞(CCJA)」の授賞式が開かれました。これは、社会貢献に寄与している女性を讃えようと、フィッシュファミリー財団が毎年実施しているイベント。昨年に続きオフライン開催となった現場は、多くの来場者を迎えて大盛り上がり。約200名の中から選ばれた受賞者5名の、熱いメッセージをご紹介します。
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大賞受賞!奥尚子さん「本気で取り組むと、誰かが見ていてくれる」
名誉ある賞をいただき、ありがとうございます。私は大学在学中、アジアの女性たちと料理を通じて交流する中で、多くの人が「日本になじめない」という悩みを抱えていることを知りました。それを変えたいと思って、大学1回生の時から「神戸アジアン食堂バルSALA」を運営しています。お店のコンセプトは「Empowerment Of All People」。台湾、タイ、フィリピンなどアジア8カ国のお母さんたちと、国籍や文化、年齢、環境の違いを超えて一緒に働いてきました。
私がSALAを始めたきっかけは、在日のお母さんたちを雇い正当な対価を払うことで、自信をつけてもらえるんじゃないか? というひらめきでした。その後株式会社化して、今に至るまで15年かかっています。その間一貫してこだわっているのは「ビジネス」の側面です。社会課題に興味関心のない人たちにSALAをアプローチするためにも、ビジネス的な価値を諦めず、譲らずに追い求めたいと思っています。まず味がおいしいことが大前提。先日もタイに行って研究してきましたので、これを商品力や事業的な価値に反映して、SALAの魅力をもっと高めていきたいと思っています。
受賞の連絡を受けた時はびっくりしましたが、長年取り組んできたことを誰かが見て評価してくれているということがすごくうれしく、勇気をもらいました。たくさんの方に支えられてここまできたので、私も周りを支えられる人間になりたいです。これは、周囲の人たちと一緒でなければ成し遂げられないことばかり。今後も、みんなと信じ合い補い合う、幸せな社会を作っていきたいと思います。
大山遥さん(代理:牛堂望美さん)「児童養護施設には、職員の確保と定着が足りていない」
代表の大山遥が本日出産予定のため、代理で参りました。チャイボラは、もともと大学卒業後にベネッセで働いていた大山が、児童養護施設の職員不足と定着不足の深刻さを知り、立ち上げた団体です。ある職員の「欲しいのは、物じゃなくて人なんだ」という言葉を聞いた大山は、1週間後に辞表を提出。夜間で保育士の専門学校に通いながら児童養護施設で働き始めました。
そのうち、施設側の情報発信が少なく学生と施設がつながりづらいことが原因だと考え、クラスメイトとともに、職員の確保と定着を目的としてチャイボラを創設。社会的養護施設職員の確保と定着を支援する国内唯一の団体として活動を広げてきました。一昨年、厚生労働省「令和4年度社会的養護魅力発信等事業」に採択されて認知が全国に拡大。現在は370施設をサポートするに至りました。
私自身は2年前にチャイボラに出会い、社会的養護が抱える課題を解決しようとする力強さに感銘を受けました。大山のようなもともと民間企業にいた人間が、児童養護施設で信頼を得るには、大きなハードルを超える必要があります。日々の会話を通してみなさんの思いや考え方を知り、また私たちの本気度を理解していただき、多くの人に支えられてここまできました。昔からずっと私たちを信じ続けてくれている人たち、寄付をしながらボランティアで支えてくれる人たちがあってこその受賞だと思います。
田中雅子さん「子どもたちの居場所を作るには、まず信頼関係が必要」
私は東日本大震災の後、ボランティアで宮城県石巻市に行ったのをきっかけに、子どもたちの居場所を作る活動をしてきました。それまで住んでいた長野県に戻るつもりでいましたが、社会から孤立した子どもたちの力になりたいと、石巻に移住しました。具体的には2カ所のプレーパークとフリースクールを運営し、子どもの遊び場や不登校児の居場所をつくってきました。そして今は、放課後児童クラブ事業も加わり、専門機関と連携しながら、年間のべ25,000人の子どもと関わっています。
何か子どもにまつわる課題があれば現地に行き、解決策を考えて行動に移す。そのサイクルを繰り返すうちに、今に至っています。私は子どもに関わる仕事をして25年以上経ちますが、支援をしている私自身が実は子どもたちに支えられ、育てられてきました。中には家庭に課題を抱えた子や不登校の子、虐待を受けている子がたくさんいます。1つ言えるのは、「信頼関係がなければ、子どもたちは心を開いてくれない」ということです。子どもたちも地域の一員として一票を持ち、権利を守られて生きていくべきだと思います。
よく、子どもは10人の大人に育てられるといいますが、私もその1人でありたいと思います。一般的な子どもたちが、自分の足でいろいろな場所に出かけ、親以外の「第3の大人」と出会うことにはすごく大きな価値がありますから。子どもをめぐる課題は、まだまだたくさんあります。これからも、子どもたちが生きやすい世界を目指して奔走していきます。
長友宮子さん「虐待のない宮崎県にしたい、その思いだけで続けてきた」
私は栄養士の資格を生かして、地元の宮崎県で子ども食堂や子ども宅食を広げる活動をしています。これまで20年以上、ひとり親支援への団体や児童虐待の防止のためのネットワーク立ち上げに携わってきて、子ども宅食では年間1万食以上の支援をしています。原点は、働いていた児童養護施設での経験です。たくさんの子どもたちを見てきた中で痛感したのが、「職員としてどんなに深く関わっても、保護者の代わりはできない」ということ。虐待されている子を本当に助けてあげることはできない。だから、虐待のない宮崎県にしたいという思いだけで、地元での活動にこだわりを持ってやってきました。
最初に虐待をしてしまうお母さんたちの背景を探ると、「子育て関連の情報を手に入れられない」という現実があると知りました。それで、できるだけ多くの親に届くよう、県内初の子育てフリーペーパーを発行しました。部数は1万部。今振り返ると、これがすべての活動の皮切りでした。
大事なのは、子どもたちやその親だけでなく、活動を担う人たちをも支援するということ。今回の授賞にあたり、仲間たちから「長友さんの受賞が、私たちにとってもモチベーションになるんだよ」とエールをもらいました。宮崎県は温暖で、太陽がさんさんと降り注ぐ本当にいい土地。宮崎の子どもたちが安心・安全な環境で育っていけるように、これからも活動を続けていきます。
野口登志子さん「DV被害者が力を取り戻していく姿こそ、とても尊い」
私はもともと徳島県鳴門市の職員としてDV被害者支援に携わり、四国の市町村初の配偶者暴力相談支援センターを作るなどの業務を担当していました。この仕事をライフワークにしたいと考えるようになり、退職後、団体を設立したのが2020年のこと。今回、さまざまな分野で活躍している全国の女性リーダーたちとお会いできたことに、感謝の気持ちでいっぱいです。
今回の受賞は、正直悩みました。とても光栄なことですが、私たちの支援は相談者さんが主役だからです。暴力によって力を奪われた人が再び立ち上がる、それ自体が何よりすばらしいことで、支援する裏方の私が華やかな場に出るのはおこがましいのではないかと葛藤しました。ただ相談者さんに「野口さんの支援活動が評価されると、私たちが助けてもらったことも尊いことだと思えます。だから、受賞してください」と言われ、お受けすると決めました。
DV被害者は決して、弱い人でも、かわいそうな人でもありません、本来持っている力を、理不尽に奪われてしまっているだけ。DV被害者支援というと重苦しいイメージを持たれがちですが、相談者さんが輝きを取り戻していく姿はとても印象的で、私も元気をもらっています。最近は私の活動が認知されてきたのか、シェルターは満室状態。県外やアメリカからも被害者の方が避難してきました。本来なら、私たちの仕事は暇なほうがいいので、心苦しい限りです。これからもずっと、1人ひとりの相談者に寄り添って支援していきます。
トークセッション「社会全体に、元気を広げていきたい」
――皆さんの活動は、5年後にどんな姿を目指しますか?
大山 5年後には、社会的養護施設の人材確保の問題を解決していたいです。職員を確保した後には「定着させる」フェーズに移行するので、そこまで見据えて取り組んでいます。まずは職員確保を、チャイボラが進めていきたいと思っています。チャイボラは日本全国を対象として活動しつつ、この5年で事業を拡大してきて、今は中期経営計画を立案中です。これまでは大山のリーダーシップに頼っていた部分もありますが、今後は中期経営計画をベースに、基盤を強くしていきたい。
奥 外国人のお母さんたちと一緒にお店をやってきて、約7年半経ちました。今日の受賞によって、私たちの挑戦を見て応援してくれているお客さんやスタッフから「元気づけられた」という声が寄せられています。こうやってみんなに活力が生まれて、つながっていく。これが「All Peaple(全ての人たち)」というコンセプトにつながっていくでしょう。5年後は、もっと社会全体で元気が広がっていけばと思います。
田中 今私の周りでは「新しい学校を作りたい!」「子どもたちの選択肢、学びの選択肢を増やすために学校を作ろう」という声が上がっています。子どもたちの居場所の1つとして、5年後くらいに学校を作れたらと考えているところです。石巻市には「子どもの権利条例」があるんです。これは全国でも50自治体くらいしか制定していない革新的なものですが、その存在すらあまり知られていないのが現状。子どもたちの意見が地域や社会になかなか反映されない現状を変えて、より暮らしやすい石巻にしていきたいです。
野口 シングルマザーには、貧困の問題が立ち塞がります。過酷な環境で子育てをしているお母さんが多いので、まずは経済力をつけて、生活保護に頼らなくて済むように就労支援をしていきたいです。ただ現実としては、子どもを連れてDV加害者から逃げてきた女性が、仕事を持ち働き続けるのはなかなか難しい。対策として、白鳥の森の中で雇用を生み出せるように準備しています。2024年から形にして、5年後には潤沢にできていたらいいなと思います。
長友 私は、循環型のハッピーな生き方を広めたいと思っています。これまでも同じ思いを持つ全国の仲間と野菜を分け合うなどの活動をしてきました。普段は虐待問題への取り組みをクローズアップしていただくことが多いんですが、障害者雇用の世界から入ったこともあって、世の中にはもっといろんな働き方があっていいんじゃないかと思っています。高校生の頃から考え続けている「循環型」の構想をいつか現実にできるよう、努力していきます。
――みなさんの活動をサポートして課題解決につなげるために、私たちには何ができるのでしょうか。具体的に教えてください。
大山 2つあって、まずは虐待問題に関心を持っている方々は、より深く理解してもらえたらと思います。ニュースでは衝撃的な部分だけが切り取られがちですが、一部の情報だけを元に動くと支援のミスマッチが起きてしまうどころか、偏見を助長したり、今課題の渦中にある親子を苦しめてしまいかねません。もう1つは、金銭的な支援です。チャイボラではマンスリーサポーターとして1口1000円から受け付けています。中期経営計画の内容も、サポーターの方の人数によって変わってくると思っています。
奥 興味を持っていただいた方は、神戸のSALAにぜひ足を運んでください。遠方の方向けに通信販売もやっています。それから、道端や駅前で困っている方を見かけたら、手を差し伸べてください。外国人の方の中には、孤独を抱えた方も多くいます。言葉が通じないかもしれないと腰が引けるかもしれませんが、「今、困っていますか?」と日本語で声をかければ大体通じます。みなさんがちょっとした優しさを持ってくれると、優しさを受け取った方の自信につながり、生きやすい世の中になっていくと思います。
田中 こども∞感ぱにーでは、子どもが主体的にものごとを考え、意見を持って地域に参加することを大事にしています。まずは一度HPを見ていただいて、活動の内容や私たちの考え方を知ってもらえたらと思います。金銭面では、子どもたちから利用料や参加費はもらっていませんが、運営資金は年間860万円ほどかかっているのが現実です。フリースクール事業では、利用者の半分以上がひとり親家庭。利用料の支払いもままならない家庭は免除しているので、厳しい運営です。月300円からサポートできる制度がありますので、ぜひお願いします。
野口 DVが存在しない社会を作るには、被害者支援と加害者の更生、そして「被害者にも加害者にもしない教育」の3つが必要です。子どもたちに、男らしさや女らしさなどジェンダー的に偏った価値観を植え付けないようにお願いします。これからを生きる子どもたちには、ジェンダーニュートラルな育て方、声がけをしてほしいと願っています。小さな工夫でも、広がっていけば社会的な現象になります。
長友 今、余剰米が発生して社会問題となっています。2年以上前の古米が食べられずに余っていて、フードロスの観点からも大きな問題です。野菜も大量に廃棄されていますが、廃棄にもお金がかかりますし、農家の高齢化が進んでいるため廃棄自体難しくなってきています。循環型のライフスタイルを作って、こうした問題に立ち向かうには、1000万円単位の資金調達が必要です。興味を持っていただけたら、ぜひご協力をお願いします。
ライター
さくらもえ