「コンプライアンス」の概念が浸透した令和もなお、日々多くの人を苦しめているハラスメント。それどころか、ハラスメントの種類はどんどん増殖しています。セクハラとパワハラに気をつけていればよかった時代はもう終わり。職場で、取引先で「明日誰かを傷つけてしまわないために」知っておきたい20種類のハラスメントを紹介します。
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いまだに半数近くの職場で発生しているパワハラ
職場でもメディアでも「コンプライアンス」が叫ばれている令和。日々のちょっとした会話や発言がセクハラやパワハラに抵触しないよう、日々注意して生きている方は多いのではないでしょうか。
いわゆる「パワハラ防止法」が、大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月から施行され、パワハラ防止策を取ることが企業の義務となりました。しかし、厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和2年度)によると、過去3年間に発生したハラスメントは、割合が高い順にパワハラ(48.2%)、セクハラ(29.8%)、カスタマーハラスメント(19.5%)でした。
ハラスメントが絶滅していないどころか、把握されているだけでも半数近くの企業でパワハラが起きている実態に驚かされます。
気を遣ったつもりでもNG。業務上のハラスメント7つ
ハラスメントといってまず想起する場所のは、職場でしょう。上司と部下、先輩と後輩といった力関係の非対称性が、ハラスメントを生みやすい状況を作り出しています。
1. マタニティハラスメント(マタハラ)/パタニティハラスメント(パタハラ)
妊娠中や出産前後の女性と、そのパートナーに対するハラスメント。「うちの部署、年度末は忙しいから妊娠しないでね」「子どもを産んだら辞めてね」は当然NG。気を遣っているつもりで「産後は仕事を頑張らなくていいからね」と声かけるのもアウトです。
また、近年は男性育休の取得率が上がりつつある影で、育休制度の利用を邪魔したり、育休取得を理由に不当な扱いをするなどのパタハラも続出しています。中には、裁判にまで発展した例もありました。
2. プレマタニティハラスメント(プレマタハラ)/プレパタニティハラスメント(プレパタハラ)
働きながら妊活や不妊治療をしている人に対して、嫌がらせをしたり治療を妨害したりするハラスメント。体外受精で生まれた子どもは年間7万人弱(2021年時点)と、全体の11.6人に1人が体外受精によって生まれた計算です。2022年4月に人工授精や体外受精が条件つきで保険適用となってからは、さらにクリニックに通う人が増えていると考えられます。
不妊治療が一般的になってきている一方で、不妊治療と仕事を両立するのは非常に難しく、負担が大きいのも事実です。精神的にも経済的にも大きな負荷がかかり続ける不妊治療中に、職場でプレマタハラを受けたことでメンタルダウンしてしまうケースもあります。
3. ケアハラスメント(ケアハラ)
働きながら介護をしている人に対するハラスメント。介護も不妊治療と同じく、仕事との両立が難しいものです。なお日本は少子高齢化が激しく、2025年には75歳以上の後期高齢者が人口の約18%を占めるといわれています。今後、介護にまつわる問題はさらに深刻になっていきそうです。
4. モラルハラスメント(モラハラ)
モラルに反する態度や言葉の暴力などによって、相手を追い詰めることです。例えば、ほかの人がいる場所で大声を出して叱ったり、人格を否定したり、無視したりする行為がこれにあたります。夫婦間でもたびたび起きるハラスメントで、精神的暴力といわれます。
モラハラは相手の心身に大きな傷を負わせますが、殴る・蹴るといった身体的な暴力よりもわかりくく、被害者ですら自分が被害者であると自覚できないケースも多いのが特徴です。
5. ロジカルハラスメント(ロジハラ)
相手に正論を突き付けて、自信を失わせ、ねじ伏せようとするハラスメント。発言者の主張が正しく理にかなっていても、攻撃的な言葉やトーンで相手を傷つけ、威圧している場合はロジハラにあたります。ロジハラを受けて、仕事のパフォーマンスが落ちてしまうケースはよく見受けられます。
被害者のメンタルが弱っているときや、加害者と被害者の立場に差があるときほど攻撃性が増します。完璧志向な人やプライドの高い人が加害者になりやすいため、注意が必要です。
6. ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
性別に応じて特定の業務を押し付け、性別役割分担を強制するハラスメント。性的な言動、行動をするセクハラとは別物です。例えば「女性社員だからお茶を入れて」「男性なのにこれができないの?」などが該当します。
今でも、男性だからという理由で残業時間の多い部署に配属されたり、飲み会で女性たちがお酌したり、といった風景が残っていませんか? なお、LGBTQへの差別もジェンハラに該当します。
7. セカンドハラスメント(セカハラ)
ハラスメントの被害者がそのことを相談したり訴えたりした際に、周囲が二次被害を与えること。例えば「あなたも悪かったよ」「それくらい受け流せなきゃダメだよ」などの発言が典型的です。ハラスメントの事実や内容を言いふらしたり、被害者に嫌がらせをしたりといった行為も該当します。
苦しい思いをしながらも勇気を出して被害を訴えた被害者に、二重に辛い思いをさせ、精神的に追い込む行為です。深刻な場合は心身に支障をきたしたり、職場にいづらくなり離職してしまったりします。
業務以外のことも要注意、日常にひそむハラスメント9つ
ハラスメントが生まれるのは、職場だけではありません。家族や友人同士、コミュニティの中でも発生しうるハラスメントを9つまとめました。
8. マリッジハラスメント(マリハラ)
独身に対する「早く結婚しなよ」「独身は気楽でいいよね」といった発言がこれにあたります。根底には、「結婚することこそ幸せだ」「独身はみんな結婚したがっている」という偏った価値観があるといえます。
加害者は冗談や雑談のつもりでも、被害者は深く傷ついている場合があります。マリハラは親戚や親しい友達の間柄でもよく発生するので、軽い一言で相手を不快にさせていないか、自分の会話を振り返ってみましょう。
9. エイジハラスメント(エイハラ)
相手の年齢や世代を理由に差別したり、不快な発言をするハラスメントです。2015年にテレビドラマ『エイジハラスメント』(テレビ朝日)が話題を呼んだことで一般化しました。
例えば「最近の若い子はダメだね」「50代以上にはわからないでしょう」といった発言が典型的。必ずしも年下が被害を受けるわけではなく、上の世代が被害を受けることもあります。
10. フォトハラスメント(フォトハラ)
相手の顔や家などが写っている写真、声が入っている動画などを撮って、勝手にSNSにアップする行為をいいます。本人だけでなく、家族の写真も含みます。SNSに対する感覚は人それぞれ。若い世代でも、SNSに自分の顔や声を晒すことに抵抗感がある人はたくさんいます。
そして、自分の顔や声がアップされていることに気づいても「投稿を消してほしい」とは頼みにくいもの。相手に許可を取らず気軽にアップすると、フォトハラの加害者になってしまい、思いもよらなかったトラブルに発展しかねません。
11. スメルハラスメント(スメハラ)
香水や柔軟剤などの強い香りで、周囲に迷惑をかけるハラスメントです。口臭や体臭、タバコがあるのにケアせず、放っておくこともスメハラに該当します。誰でも、自分のニオイには気づきにくいものですが、誰かに嫌な思いをさせないよう最低限のケアはしておきたいところです。
12. アルコールハラスメント(アルハラ)
相手の体質や意向、その日の体調などを無視して、無理やりお酒を飲ませるハラスメント。ひと昔前は、職場の飲み会で頻発していました。自分自身が酔っぱらって暴れたり大声を出したりして、周りに迷惑をかけることもアルハラに含まれます。
13. ソーシャルハラスメント(ソシャハラ)
LINEやInstagram、XなどのSNS上でコミュニケーションを強いるハラスメントです。相手に「いいね」を強要したり、コメントするよう迫ったりすることが挙げられます。とくに仲のいい友達や先輩などに言われると断りきれず、しぶしぶ対応しているというケースが後を絶ちません。
14. ブラッドタイプハラスメント(ブラハラ)
相手の血液型によって性格を決めつけ、差別的なことを言うハラスメント。「O型だからこうだね」「AB型ってこうだよね」と決めつけるのはやめましょう。いわゆる血液型占いは、シンプルでわかりやすいことから広く知られていますが、科学的根拠はないようです。
15. リーガルハラスメント
法律や司法の力を利用して、合法的に嫌がらせをするハラスメントのこと。典型的な例は、夫婦が別居や離婚をする際に、親権や財産分与をめぐって(元)パートナーに嫌がらせ目的で訴訟をするケース。長期間かかることも多く、精神的にも経済的にも相手に大きな苦痛を与えます。
16. レリジャスハラスメント(レリハラ)
特定の宗教に入信している人に対して、差別や嫌がらせをするハラスメントのこと。一般的に、とくに新興宗教に対する偏見が激しく、信者に対して強い拒否反応を示す人が多いといわれます。
逆に、宗教関係者がその宗教に入信するようしつこく誘ったり、イベントへの参加やグッズ購入などを迫ったりすることも、レリハラの1つです。
盲点?社外の人に対するハラスメント3つ
ビジネスに関連するハラスメントは、社内の相手に限った概念ではありません。取引先や採用候補者など、社外の人を相手にした問題行為もたくさん見られます。
17. カスタマーハラスメント(カスハラ)
顧客が不当なクレームや、過剰な要求などをいいます。とくにサービス業や接客業など、BtoCビジネスで起きやすいハラスメントといえるでしょう。カスハラは、顧客に向き合う現場任せではなく、会社が毅然とした態度で対応することが必要です。
先日、JR東日本グループが、カスハラが行われた場合「対応をいたしません」と宣言したことで話題を呼びました。なお、厚生労働省が「ハラスメント悩み相談室」を設置し、メールやSNSでカスハラ被害の相談を受け付けています。
18. 就活ハラスメント(就ハラ)
社員が、就活中の採用候補者に対して行うハラスメントです。面接の前後やインターンシップ参加中、OB/OG訪問時などに、パワハラやセクハラをするのが典型的な例。
なお東京都産業労働局によると、候補者の4人に1人は就活セクハラの経験があります。圧倒的に有利な立場を利用した悪質な行為ですが、たくさんの人が被害に遭っています。
19. 就活終われハラスメント(オワハラ)
企業の採用担当者が候補者に対し、内々定と引き換えに「今この場で、他社に断りの連絡を入れて」と迫るハラスメント。内定を辞退されたくないという一心で、追い詰められた社員がやりがちとされます。被害者がSNSなどで告発すれば、自社のイメージを大きく棄損します。
2023年4月、政府が出した通達の中でも、「就職をしたいという学生の弱みに付け込んだ、学生の職業選択の自由を妨げる行為」としてオワハラが強く言及されました。
立場が弱い側だって、加害者になりえる!コンプラ時代の産物
20. ハラスメントハラスメント(ハラハラ)
何の問題もない発言や行動に対して、受け手が「ハラスメントだ!」と騒ぎ立てたり嫌がらせをしたりする行為を指します。例えば、上司が部下に対して仕事の進め方を注意したところ、パワハラを訴えられてしまうというケースです。
発言者はハラスメントを訴えられることを恐れて萎縮し、適切なコミュニケーションを取れなくなってしまいます。後輩や部下など立場の弱い側が、過剰な被害者意識を持っている場合に発生しがちです。
防止策としては、どんな行為・発言がハラスメントにあたるのか、そもそもハラスメントの定義とは何なのか、全員に周知することです。ガイドラインを作るのもいいでしょう。
以上、各場面で起こりがちな20のハラスメントをご紹介しました。職場や家庭ではもちろん、友人関係や趣味のコミュニティなどでも発生しうるのがハラスメントです。誰もが加害者にも、被害者にもなりえます。
被害者が声を上げづらいために我慢を強いられたり、周囲が黙認するケースも多いのが現状です。無意識のうちに加害者になっていないか、今一度振り返ってみませんか?