「次を決めずに仕事を辞める」なんてとんでもない!……そう思い込んでいるあなたに向けた、「キャリアブレイク」という提案。欧州では一般的とされる「キャリアブレイク=キャリアのお休み」について、経験者や転職エージェントのインタビューを通してメリット・デメリットを解説してくれる1冊をご紹介します。
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存在していたのに見えていなかった「キャリアブレイク」という選択肢
「キャリアブレイク」という言葉をご存じでしょうか。
キャリアをブレイクする……つまり、「キャリアを壊す」っていうこと? と受け取る人もいるかもしれません。正しくは、「キャリアを休むこと」です。
具体的には、一時的に雇用から離れる離職・休職などの期間を指します。「つまり、無職ってことでしょ?」と思われるかもしれませんが、キャリアブレイクは必ずしもネガティブな意味ではありません。疲れた心身を休めたり、自分を見つめ直したり、新しい挑戦をしたり。「自分らしい生き方」を実現するための、キャリアの1つの選択肢なのです。
ブランクが人間の価値を下げるという一般的な呪いに対して、ブランクが人間の価値を上げる場合もあるのでは、と違和感を覚えたのが私の活動のスタートです。――『仕事のモヤモヤに効くキャリアブレイクという選択肢』より
日本では、キャリアブレイクという言葉はまだあまり知られていません。日本社会ではまだまだ、「キャリアは中断してはいけない」「無職期間が長くなると転職に不利になる」という不文律が根強いからでしょう。
『仕事のモヤモヤに効くキャリアブレイクという選択肢』の著者は、一般社団法人キャリアブレイク研究所代表理事の北野貴大さん。
北野さんのパートナーが、商社でバリバリと働いていた最中、「少しのあいだ無職になってみたい」と宣言してキャリアブレイクを経験したのが、このテーマに取り組むようになったきっかけだとか。「転職先を見つけずに離職する」という決断をしたパートナーを見守るうち、「キャリアブレイクは、人生を好転させる転機になりうる」と確信し、研究所を設立するまでに至ったといいます。
本書の中では、多数のキャリアブレイク経験者・企業の人事担当者・転職エージェントへの率直なインタビューが紹介されています。キャリアブレイクのきっかけ、決断するまでの葛藤、ブレイク期間中の過ごし方、仕事を再開するときに考えたこと、お金の話、採用する側の本音……。
「次を決めずに辞めてしまうなんて、人生どうなっちゃうの?」という不安が拭えない読者の目線で、気になることを漏らさず押さえた構成になっています。
あなたはどれが当てはまりそう?「キャリアブレイク」の4つの類型
一言で「キャリアブレイク」と言っても、人それぞれ色々な形があります。本書の中では紹介されている、「キャリアブレイクの目的」から分類した4類型をご紹介します。
今の仕事にモヤモヤしている人がいたら、自分はどれに当てはまりそうか考えてみて下さい。
- 「ライフ(LIFE)型」
産育休や病気の治療、パートナーの転勤や移住など、ライフイベントによって発生する離職期間のことです。予想できないタイミングで発生することも多く、本人にとっては葛藤が多いと想像されますが、一方で、世間や職場・家族の理解を得やすいという面もあります。
- 「グッド(GOOD)型」
「グッドに働く」ことを目指すという意味で、HSP(ハイリ-・センシティブ・パーソン、とても繊細な気質を持って生まれた人)などの生来の特性、ストレスによるメンタルダウンなどを休んで改善するための離職期間のことです。忙しく働いていると、自分の性質や適性について考える余裕もなくなってしまいます。そんなときに、離職期間を設けてじっくり回復し、自分を見つめ直すことが目指されます。
- 「センス(SENSE)型」
進学も就職も大きな問題なくクリアし、一見順風満帆にキャリアを進めてきた人が、「人生をゆっくり考えてみたい」と決意して離職するのが「センス型」です。順調にキャリアを積んでいるように見えて、実は心をすり減らしていたり、人生が楽しめていなかったり……。「自分の感性=センス」がつぶされてしまっているように感じている人はいないでしょうか。この型は、周囲に理解してもらうことがなかなか難しく、著者によると「いちばん市民権が低いキャリアブレイク」とのことです。
- 「パワー(POWER)型」
ワーキングホリデーや海外留学・ボランティア活動など、大きな挑戦をするために離職するパターンを指します。他の型と比べて、「自分の可能性を試したい」というエネルギーにあふれているところが特徴で、自分なりにキャリアブレイクを前向きにとらえられている人が多いかもしれません。
4類型とはいっても、タイプの横断も頻繁に発生します。産育休をとった人(ライフ型)が、仕事を離れたことで人生を見直し、センス型に移行したり……。「自分はこのタイプ」と決めつける必要はなく、「自分にもキャリアブレイクの選択肢があるんだ」と感じてもらえればと思います。
キャリアブレイク後の働き方
本にはたくさんのキャリアブレイク経験者が紹介されていますが、それ以外で、「離職」によって有名になったのはエール株式会社の篠田真貴子さんでしょうか。
篠田さんは、慶応義塾大学卒業後に株式会社日本長期信用銀行(現・株式会社新生銀行)入社。1995年に退職し、米国でMBA取得。帰国後はマッキンゼー・アンド・カンパニーで経営コンサルタントとして働いた後、製薬会社ノバルティスファーマを経て、2008年10月に株式会社東京糸井重里事務所(現・株式会社ほぼ日)に入社。……と、「ザ・エリート」な経歴の持ち主です。
そんな篠田さんが、2019年に「ジョブレス宣言」をして話題になりました。ジョブレス=無職なので、キャリアブレイクと同義と捉えてよいのではないでしょうか。
最後まで全力で走りたいという気持ちから、次を決めて辞めるという発想はありませんでした。また、辞めてすぐ次の仕事をするのではなく、この機会に少し立ち止まって、自分自身を振り返る時間を作ろうと考えました。
――LIFE SHIFT JAPANインタビューより
ほぼ日で約10年走り切り、「やり切った」と転職先は決めずに退職。人に積極的に会ったり、本を読み漁ったりしながら、「人生は自分に何を求めているのか」という視点で「自分の役立て方」を探したと言います。そして1年3カ月のジョブレス期間の後、社員たった6名のベンチャー企業(オンライン 1on 1 を提供するエール株式会社)の取締役に就任。
篠田さんが新しいキャリアを見つけたきっかけは、たくさんの人に会って対話したこと。「聴く」がビジネスパーソンにとってより重要になっていくだろうと思い至り、「聴き合うこと」をテーマに掲げるエール株式会社に出会ったとそうです。
キャリアブレイクという文化は、世の中にある出来事の意味づけを変えるツールだと思っています。――『仕事のモヤモヤに効くキャリアブレイクという選択肢』より
キャリアブレイクとは、自分の感性を取り戻すための期間です。仕事もプライベートも、人生に起こるすべての出来事を、「感じ直す」ために必要な時間……。
著者の北野さんは繰り返し、「キャリアブレイクは万能薬ではない」と書いています。しかし、「キャリアブレイクという選択肢もある」ということを知るだけで、楽になったり視界が開けたりするのではないでしょうか。