女性がキャリアを選択するにあたって考えるべきことは非常に多く、そうした中で「今後どのようにキャリアを進めていけばいいかわからない」と悩む人も多いかもしれません。本記事では、伴走型キャリアコーチプログラム『キャリパト』を運営する、株式会社Your Patronum(ユアパトローナム)代表取締役の森数さんにインタビュー。後編となる今回は「先が見えないキャリアとの向き合い方」について聞きました。前編「起業家・森数美保さん、“やりたい”ことがなかった私が行き着いた“ありたい”姿を叶えるキャリア」は、こちら!
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いつでも“選べる自分”であることは、心身ともにヘルシーな状態
——前編では、これまで結婚や出産を経験した中での森数さんのキャリア戦略について聞きました。働く女性の中には、ライフイベントによってキャリアを継続できなくなる可能性を考えて「今こんなに頑張っても報われないのではないか」と、キャリアにブレーキをかけてしまう人も多いのではと思います。女性が子育てをしながら働くために社会がまだまだ整っていない中で、キャリアとどのように向き合えばよいと思いますか。
壮大な話になってしまうかもしれませんが、人間の生きる目的が「幸せになること」だとしたら、 働くことはそのための手段のひとつではないでしょうか。 もし自分にとっての幸せの中で、“働くこと”のウェイトが高いのであれば、私はキャリアにブレーキかけなくてもいいと思うんです。今すぐ止まるべき状況になっていないなら、アクセルは踏み続けた方がいい。
しかし労働に対する価値の重さは人それぞれなので、幸せになるために仕事よりも大切なものがある人の場合は、その大切なものを大切にできるのはどのような状態か?ということを考えて、キャリアと向き合うのがいいかもしれませんね。
私はパートナーと子どもがいますが、そういう存在がいると自分自身が見ている世界だけでなく、自分以外が見ている世界が2つ、3つと増えるんです。それを素敵なことだなと思う一方で、いつか自分の世界だけになるかもしれない可能性についても考えています。
少なくとも、子どもはいずれ自分たちのコミュニティを作って巣立っていきますが、「そうなったときに自分には何が残るんだろう?」と考えると、自分自身の世界を持っていないことを、私はすごく怖いと感じるんです。
だから私自身は、パートナーや子どもがいようがいまいが関係なく「キャリア上自立できている女性になりたい」という考えのもとに、キャリアと向き合っている気がします。もし今後、今とは違う道を選択したいとなったときに、自分が経済的に自立していないとか、望んだ仕事を選べないという状況よりも「自分には選択肢がある」と思えている状態のほうが、心身ともにヘルシーですよね。
未来の目標はなくても、過去は誰にでも必ずあるもの
——いつでも選べる自分であることは、大切なことですよね。しかし、今の会社に満足していなかったり、その先のキャリアが見えなかったりするものの「自分の実力では他に働ける会社がないのでは」「この会社にしがみつくしかない」と考え、動けなくなっている人もいると思います。そのような人が現状を変えるには、最初の一歩としてどのような行動を取ればよいのでしょうか。
まずは事実の整理をして、今の自分が持っている武器を一つひとつ確認することが大切です。目標やありたい姿はピンとこなかったとしても、誰にでも生きてきた分の過去は必ずあるので、最初に取り組みやすいんです。
キャリアって変数が多いので本当に難しくて、今やっていることは苦手なことではなくて、むしろパフォーマンスできるものなのに、上手くいかなくておかしいな?というふうに、天職に出会えている人ですら、会社が変わるだけでしぼんでしまうこともあるんです。もし今いる会社で結果が出せていないとしたら、評価制度が整っていなかったり、上司や環境との相性が悪かったりといった、自分だけの問題ではない場合もあります。
事実を整理してみると、今後のキャリアを見通せない原因が自分の実力が足りないからなのか、それとも身を置いてる場所が悪いからなのかが見えてくると思います。よく「自己分析をしましょう」と言いますが、自分のことだけを知ったとしても、仕事って誰かと共同することによって成り立つものなので、周りから受けた影響やフィードバックを通じて自分の立ち位置を知って、今の自己評価に繋がっているはずです。
なので、自分で自分に貼ってしまったレッテルを剥がして、正しい評価に戻していく作業をすると、その先の選択も広がっていくと思います。その上で、今後の理想のキャリアは現職だけで実現できるのか、転職すべきなのか、副業でもいいのか、もしくはボランティアでもいいのかなど、いろんな可能性を検討しつつキャリアを設計できたらいいですね。
仕事の中に輝く1%を見つけられたら、それがその仕事の意義だと思う
——今すぐやりたいことはない、という人でも「仕事にやりがいはなくてもいい」というわけではないと思います。やりたいことがない人は、どのような視点をもって仕事に取り組めば、充実感や納得感を伴いながら働けると思いますか。
現時点で自分のキャリア戦略が明確な人ならば「今これをやるとここに結びつく」というのが逆算でわかるので問題ないかなと思うのですが、まだキャリア戦略がない場合は、仕事の中に何かしらの“面白ポイント”を探すようにすると、仕事に充実感を持てるんじゃないかと思いますね。
私の場合で言えば、仕事ってほぼ苦しくて楽しいと思ったことはほとんどないけれど、「仕事を通じて相手を幸せにしたい」という気持ちがあります。相手に喜んでもらえた!という嬉しい瞬間のために、息を止めて走っているようなイメージです。だから、つまらなかったり苦しかったりする仕事の中に、ものすごく輝く1%を何か見つけられたら、それが仕事の意義なのかなとも思います。
——森数さんのような方でも、仕事って苦しいと思っているのだと、少し安心しました(笑)。
働く中での不安ってその時々で形を変えて常にあると思うのですが、そうしたものは私もずっとありました。過去の私は「私じゃない誰かがマネージャーのほうが、みんなは幸せなんじゃないか」とか「別の人が責任者だったなら、もっと事業を伸ばせたんじゃないか」と考えたり、起業した今でも「この会社にいて、果たしてみんなは幸せなのだろうか。このままでいいんだろうか」とか考えたりして……やっぱり苦しいことはあります。
でも、不安や苦しさって悪いことではないと私は思うんです。不安だから頑張るし、苦しいからそこを脱却しようと思う。不安な気持ちを持っているということは、違和感に気づいてるとか、現状を変えないといけないとか、もっとやらないといけないと思ってるサインです。だから、不安という感情の原因にはきちんと向き合った方がいいと思っています。
不安な感情は“もっと頑張りたい”自分からのいいサイン!
——現状を良くしたいと転職活動に踏み切ったものの、入社してみて「こんなはずじゃなかった」と後悔するケースもあると思います。仕事や会社選びで後悔しないためには、どのようなことに気を付けるべきでしょうか。
まずは、転職先を見るときに「自分の違和感のもとになるものが転がってないか」ということを、必ずレビューポイントに入れることです。
仕事を探すときって条件で検索しないといけないので、条件面に気を取られがちなのですが、先ほどの話のように、自分が過去に感じた負の感情と場面を言語化して、そのパターンに陥らない環境や価値観の組織かといったことを、面接の場などでチェックするといいと思います。
もうひとつは、自分のキャリアにおけるテーマや、目指したい状態という自分なりの物差しを持つことです。転職活動において求職者と企業は対等と言えども、どうしても求職者が「選ばれる側」だと思ってしまい、必要な情報を聞けないまま意思決定に追い込まれてしまうことが結構あります。なので、自分が決めた物差しに沿った情報をどのように取るかを決めておくと、必要な情報の漏れが見えてくるので、それをきちんと網羅してから意思決定することがおすすめです。
ここまでしっかりやった上で決めて入社して、何か予想外のことが起こっても「あそこまでやって考えて出した結論だしな」と思って、意外とみんな頑張れるんですよ。転職活動って、入社してみないとわからないことも多いから難しいとも言うのですが、事前にここまでやっておけば、転職において防げる不幸はたくさんあると思います。
——最後に、キャリアに対して漠然とした不安を抱えている方や迷ってる方に向けて、メッセージをお願いします。
キャリアへの不安を感じている人って、働くことを頑張りたいだとか、諦めたくない人だと私は思っていて、どうでもよかったらそんな感情すら持たないはずなんです。「自分はなぜそう思ってるんだろう」と紐解くことで、思わぬ発見があると思います。
不安な感情は、自分が頑張りたいと思っている“いいサイン”だとポジティブに捉えてもらって、最初の一歩を踏み出してみるだけでも気持ちが晴れてくるのではないでしょうか。「何からしたらいいかわからない」という人でも、次のステップが見えると頑張れる人も多いので、キャリアの棚卸しや転職活動をするにあたって、プロの手を借りるのも方法のひとつかもしれません。
森数 美保(もりかず みほ)● 株式会社Your Patronum(ユアパトローナム)代表取締役。新卒で人材紹介会社JACリクルートメントに入社。最年少マネージャーを経験。大手企業で人事を経験した後、株式会社Misoca(現:弥生株式会社)にジョイン。ゼロからエンジニア採用を推進し、人事制度構築、広報PRなどを担当。2018年11月 株式会社キャスターに入社。翌3月に採用代行サービスCASTER BIZ recruitingの事業責任者に就任。2021年4月 同社執行役員に就任し複数事業を管掌。2022年5月 株式会社ミライフに執行役員として入社。キャリアコンサルタント/人事/事業経営の経験を活かして、本質的なキャリア構築や組織づくりを推進。2024年に株式会社Your Patronumを創業。社会保険労務士有資格者。