“自傷行為”という言葉を聞いて、どのような気持ちになりますか?自傷行為=リストカットと想起する人や、自分にはまったく遠い話だと感じる人もいるかもしれません。実は、自傷行為がなかなかやめられない大人が、世の中には多く存在します。本記事では、自傷行為に及んでしまう理由や、その対処法についてお話しします。
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自傷行為とは?
自傷行為とは、自分自身に対して意図的に傷をつける行為すべてを指します。代表的な行為にはリストカットがありますが、それだけではありません。具体的には、皮膚を切ったり、叩いたり、頭を壁にぶつけたり、爪を噛んだり、引っ掻いたり……身体に対して物理的な損傷を与えるさまざまな行為が含まれます。またアルコールや薬物の過剰摂取といった、自分の健康を損なう行為も自傷行為なのです。
自傷行為に関する調査
自傷行為に及んだことがある人の割合や人数は、地域や調査の対象年齢、調査方法によって異なりますが、世界的に見ると10代〜20代の若年層では、10~20%の人が自傷行為の経験があるとされています。また日本の調査結果では、中高生の約10~15%が何らかの自傷行為を行ったことがあるという報告があります。
大人になるとこの割合は低くなる傾向にありますが、それでも生涯で少なくとも一度は自傷行為を経験する人の割合は、数%ほど存在するとも言われています。
このように、自傷行為は私たちにとって実は身近な問題なのです。しかし、なかなか人に打ち明けることができず、多くの方が悩みを一人で抱えていると言われています。
自傷行為をしてしまう理由
自傷行為は、さまざまな背景や感情から起こるものであり、誰もが同じ理由で行うわけではありません。ネットニュースなどでは、パートナーの前で「死んでやる!」と手首を切るというようなケースが報じられることがありますが、そのような場合は極めて少なく、95%以上が一人のときに自傷行為に及んでいます。勘違いされがちですが、自傷行為を他者へのアピールのためにしている人は少ないのです。自傷行為に及ぶ理由としては、以下のことが挙げられます。
感情の解放や不安定な気持ちの解消
自傷行為をする人の中には、心の中で抱えているつらい感情を解放する手段として、自分を傷つけることを選ぶ場合があります。心が苦しいとき、体に痛みを与えることで、一時的にその心の苦しみを「痛み」として感じ、少しだけ楽になると感じる人もいるのです。この行動は、感情が抑えられないほど強くなったときや、うまく言葉で表現できないときに出やすいとされています。
自分を責める気持ち
過去の経験や人間関係などから「自分は価値がない」と感じている人は、何かに失敗したとき自分に罰を与えなければと感じ、自傷行為をしてしまう場合があります。この場合、自分に対しての失望や悲しみ、否定、怒りを抱えており、その気持ちを「傷」という形で表現しようとするのです。
孤独感や無力感
孤独や無力感も自傷行為の引き金となります。心に抱えた苦しみを他の人に分かってもらえないと感じたとき、とくに周囲の人とのつながりが薄く感じられるとき、苦しみを一人で抱え込みやすくなり、自傷行為に走ってしまうことがあります。
感情の確認や実感
心の状態が非常に不安定になり、自分の感情がよくわからなくなったとき、自傷行為を通して「自分がここにいる」という実感を得ようとする人もいます。この場合、痛みを感じることで「自分が生きている」と思い直し、感情を確かめる手段とするのです。
自傷行為をやめるための方法
自傷行為は、やめようと思ってすぐにやめられるわけではありません。しかし、一生やめられないわけではなく、時間とともに克服できる可能性があります。ゆっくりと自分に合った方法を見つけていくことが大切です。
代替行動を見つける
自傷行為の代わりに、気分転換できる方法を見つけます。本来は、自分がリラックスできる活動や楽しめる趣味を見つけられれば良いのですが、感情が高ぶっているときにこれをするのは、かなり難しいのが本音だと思います。
そんなときは、氷を握ったり、冷水で顔を洗ったり、お腹から叫んでみたり、少し刺激になるような行為がよいでしょう。痛みを伴わずに自傷行為の代わりになることがあります。
専門家のサポートを受ける
カウンセリングや心理療法を受けることも、自傷行為をやめる手助けになります。専門家と一緒に、自傷行為の背景にある感情や思考パターンを見つめ直し、それに対処する方法を学ぶことで、少しずつ自傷行為が減っていくことが期待できます。
自傷行為はその行為自体をやめようとしても、あまり上手くいきません。それよりも、行為の裏側にある背景に目を向け、なぜその行為に至ってしまうのかの原因解明と、その心を和らげることに目を向けるべきです。しかし、自分一人でそこにたどりつくのは至難の業ですから、プロの力を借りるのも一つの手です。周りの理解とサポートが、自己受容や心の安定を促す助けになるかもしれません。
日記をつける
自分の感情や行動を記録する日記をつけることで、自傷行為をしたときの自分の状態を振り返ったり、感情を整理したりできます。これにより、どんなときに自傷行為が起こりやすいのか、どう対処すればいいのかを考える手がかりになります。スケジュール帳に行動だけを書くのではなく、そのときどのような感情を伴っていたかも記しておくことが大切です。
信頼できる人に話す
信頼できる家族や友人に気持ちを伝えてみることも大切です。自傷行為の理由をすべて話さなくても、心の中にあることを少しずつでも共有することで、孤独感が和らぐかもしれません。周りの人が自分の気持ちを理解してくれると感じられるだけで、前向きな気持ちになれることもあります。
自傷行為をしている人への接し方
自傷行為をしている人が身近にいる場合、どのように接すればよいか戸惑うこともあるでしょう。相手の気持ちを理解し、支えとなることは非常に大切です。以下に、周りの人が気を付けるべきポイントを挙げてみます。
責めずに優しく寄り添う
自傷行為をしている人に対して、無理に行動を止めようとすることは逆効果になります。過度な心配も同様で、過剰な反応を示さないことが一番大切です。とくに「どうしてそんなことをするの?」と問い詰めたり、責めたりすると、相手はより一層孤立してしまいます。
その代わり、相手がどのような気持ちでその行動をしているのか理解しようとすることや、「話したいときはいつでも聞くからね」と寄り添い、どんなことがあっても味方でいるという姿勢を示すことが大切です。
感情を受け止める
自傷行為をする人が抱える感情は、単純に「やめよう」と言われるだけでは対処しきれないものです。否定することや軽くあしらうような言動を避け、相手がつらいと感じている感情や理由を受け止めます。「それはとてもつらいね」「一緒に考えたい」という態度で接することで、「この人になら話したいかも」と思えるような信頼関係を築くことが大切です。
専門機関の利用を促す
周りの人がどれだけ支えたいと思っても、自傷行為に向き合うのは難しいことです。支える側も無理をせず、必要に応じて専門の相談機関や医療機関に頼ることを提案しましょう。カウンセリングや精神科の診療を受けることで、心のケアやサポートを受けることができ、少しずつ行動が変わっていく可能性もあります。
まとめ
自傷行為をやめることや、それに向き合うことは非常に難しいプロセスですが、少しずつ気持ちや行動を変えることで、前に進む道が見えてくるかもしれません。大切なのは自分を責めすぎずに、前向きなサポートや手助けを少しでも受け入れようとすることです。少しずつでも笑顔が増えるような日常を送りましょう。
また、自分の周りに自傷行為がやめられない人がいるという場合は、相手が安心できる環境を提供し、専門家の力を借りながらゆっくりと一緒に歩んでいく姿勢を示しましょう。