Paranaviトップ お仕事 メンタル 西村創一朗さんが目指す「メンタルダウンしても、何度でもやり直せる社会」

西村創一朗さんが目指す「メンタルダウンしても、何度でもやり直せる社会」

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2024年3月、メンタルダウンからの回復と再挑戦を支援するサービス「リカバリーキャリア」を立ち上げた、Mentally代表取締役の西村創一朗さん。かつて、3回にわたってメンタルダウンを経験し、ベッドから起き上がれなくなる生活を余儀なくされたそう。しかし今では、その経験を糧に、新しいビジネスチャンスを手にしています。

「メンタルダウンは弱さではなく、むしろ頑張った証。そしてキャリアの終わりではなく、新たなスタートの始まり」。そう語る西村氏に、これまでの壮絶な経験と、リカバリーキャリアに込めた想いについてインタビューしました。

「今苦しんでいる人の力になりたい」思いの原点は、母の存在

――起業後、一度は事業のクローズという挫折も味わった西村さん。それでもやり直そうと思える底力、強さはどこから来るのでしょうか。

原点はやはり、母親の存在だと思います。私は小学6年生の時に両親が離婚し、母子家庭で育ちました。母親は重度のうつ病になり、その後生活保護を受けるようになりました。母親には本当に感謝していて、「僕を産んでくれてありがとう」と思っています。その母親が苦しんでいるのを間近で見てきましたし、それを救えなかったことへの後悔と、自分の力不足を感じました。

Mentally代表取締役
西村 創一朗さん

なぜ母親はメンタルダウンし、社会から「社会不適合者」とみなされなければならなかったのか? という問いが、僕の原点にあります。かつての母親のように苦しんでいる人たちの力になりたい。メンタルダウンした人が、何度でもやり直せる世の中にしたい。そのための仕組みや場所をつくりたい。この思いは非常に強いです。

2023年11月に母親が急逝したことで、この気持ちがより強くなりました。僕が母親に直接恩返しすることは、もうかないません。だからこそ、違う形で「恩送り」をしていきたいと思うようになりました。

メンタルダウンでの休職は「自分をバージョンアップするチャンス」

――そして2025年3月、新サービス「リカバリーキャリア」をリリースされました。どういう経緯で着想したんですか?

メンタルヘルス領域でビジネスを成功させるには、ユーザーがお金を払ってでも解決したいほど強いニーズ、いわゆる「バーニングニーズ」に応える必要があります。では、カスタマージャーニーにおいて、最もバーニングニーズが高まるのはどこか。それは、メンタルダウン後の「回復期」だと考えました。

出所:リカバリーキャリア サービス資料

メンタルダウンには、強い抑うつ気分、不安・焦燥、睡眠障害、集中困難などの強い症状が出る「急性期」と、気分の波はあるがセルフケアが効きやすく、活動量が回復する「回復期」、そして症状はほぼないがまだ揺らぎやすい「再発予防期」の3フェーズがあります。

急性期はまだ精神的に追い込まれていますから、メンタルケアサービスにアクセスするための十分な気力もなく、未来のことを考える状況にはありません。そこで、僕が役に立てるのは「回復期」にいる人たちだと思いました。

回復期には、体調が安定してきた分、未来に対する猛烈な不安に襲われます。「復職後、以前のように活躍できるかな」「またメンタルダウンしてしまったらどうしよう」といった不安です。そしてこの不安の裏側には、それをどうにかしたい、現状を変えたいという強いニーズがあるわけです。

しかし、そのニーズに応えるサービスが日本にはまだありませんでした。ならば僕がつくればいい。さらに、メンタルダウンしてお休みしている期間を、単なるネガティブなものではなく「自分自身をバージョンアップする機会」と捉えたい。そう考えました。

――メンタルダウンでの休職に新しい付加価値をつけるということですね。

そうです。休職は、自分自身と向き合い、本当にやりたいことや自分にある強みを見つめ直す機会です。その中で、例えばメンタルダウンのメカニズムと予防法を学べれば、メンタルダウンする前よりも生き生きと活躍し、パフォーマンスを高められます。そういう独自の価値をつけてバーニングニーズに応えられれば、広く支持されるサービスにできると考えました。

――具体的には、どんなかたちでユーザーをサポートしているんですか。

具体的には、コーチング形式でセッションを行っています。ユーザーの現状や悩み、課題をヒアリングした上で、ありたい姿と現状のギャップ、それを埋める上での障害物などを明確にします。そして僕が一緒に計画を立てて、必要なスキルを獲得し、課題をクリアしていく。ユーザーからすると、自分の武器が一つひとつ増えていくような感覚で、自己効力感も高まっていくと思います。

「メンタルダウンを0にする」は理想ではない

――先ほど「メンタルダウンの再発をゼロにしていきたい」というお話がありました。メンタルダウンそのものをなくすことは難しいのでしょうか。

僕は、メンタルダウンをゼロにすることは不可能だと思いますし、むしろ望ましくないとすら考えています。企業が成長し事業を伸ばすためには、メンバーに成長してもらう必要があり、そのためにはある程度タフな業務負荷が不可欠だからです。すでにできることだけを繰り返していたら、成長できませんよね。

そして、一定以上の業務負荷をかける以上、メンタルダウンのリスクは避けられません。一度メンタルダウンしたメンバーを「使えない人」「弱い人」として切り捨てるのは、組織にとっても経済的損失が大きすぎます。最近はどの業界も人手不足ですから、なおさらですね。

メンタルダウンの期間を「成長のためのリハビリ期間」と位置づけ、再び活躍できるルートを作ることができれば、経済損失を最小限に抑えられるはずです。そして、従業員も「万が一メンタルダウンしても、この会社なら大丈夫」と安心して挑戦できるようになる。それは、組織にとっても大きな価値になると信じています。

研究と経験をベースに編み出した「7つのスキル」

――リカバリーキャリアの資料には、リカバリーメソッド(「7つのスキル」)が整理されています。これは、どうやって編み出したものですか?

リカバリーキャリアが展開している「メンタルとキャリアを整える7つのスキル」

弊社が独自に作ったメソッドですが、もちろん、まったくのゼロから生み出したわけではありません。メンタルヘルスやウェルビーイング、マネジメントなどに関する世界中の文献や研究がベースになっています。

もともとは、僕が自分自身のメンタルを安定させるために情報収集していたもので、いわば“脳内データベース”として貯めてきました。質も量もいいものになっていたので、これをどうすればユーザーに伝えられるか考え、わかりやすくなるよう改めて編集したものです。リカバリーするために大事なことはほかにもたくさんありますが、中でも重要な7つに絞り込んで、「リカバリーメソッド」として定義しました。

ダイエットの理論と同じで、リカバリーメソッドは、テキストとして理解するだけでは不十分です。弊社のほうで、お客様が実際に自分の力で使えるように伝え、実装のサポートをしています。

メンタルダウンは誰もが経験しうるもの

――数回のメンタルダウンや事業の失敗といった経験は、西村さんご自身のキャリアや人生において、どんな意味を持っていますか。

まだ人生の道半ばですが、過去の辛い経験も含めて、今の僕だからこそ生み出せたサービスが「リカバリーキャリア」だと思っています。まずは、このサービスを世に広めて、「リカバリー」という概念を当たり前にしたい。そして、メンタルダウンはメンタルが弱い人だけがなるものではなく、誰にでも起こりうることだと、日本中に伝えていきたいです。

メンタルダウンは、高い負荷をかけて毎日頑張っている人ほど経験するものであり、そこから学びを得てリスタートすることで、より高いステージに行ける。そういう認知をつくれたら、「自分の人生は間違っていなかったな」と感じられると思います。

――行政とも連携して、この概念を広めていってほしいと感じました。

現時点ですぐに行政との連携まで行けるかはわかりませんが、直近では大学や研究機関とは共同研究を進めたいと考えています。リカバリーキャリアを受けた人とそうでない人を比較して、再発率や復職後の自己効力感がどう違うのかなどを実証実験していきたいです。

究極的には、リカバリーキャリアというサービスを受けなくても、社内の認知が変わり、「メンタルダウンしても大丈夫」という雰囲気が醸成されることが理想です。

どん底から立ち上がる第一歩は「自分を大事にする」

――お話を聞いていると、メンタルダウンの経験自体が悪いわけではなく、むしろ頑張った証であり、そこから学ぶことで新たな強みが生まれるのだと感じます。

まさにそう思います。極端な話「マネージャー昇進の条件は、メンタルダウン経験があること」くらいの認識になってもいいのではないかとさえ思います。自分のメンタルが落ち込んでしまったとき、メンタルダウンした経験のある上司とない上司、どちらに安心して相談できるでしょうか。間違いなく、経験のある上司ですよね。部下にとって、むしろ心強い、頼れる上司像の1要素になると思います。

――どん底の状態にいるビジネスパーソンが、立ち上がるために必要なことは何でしょうか。

大きく2つあると思っています。1つはマインドセットです。メンタル不調やメンタルダウンは決して、弱さゆえになるものではありません。過度な負荷をかければ、誰にでも起こりうる自然な反応です。

そして、メンタルダウンしたからといって人生やキャリアが終わるわけでもありません。リカバリーして、以前よりもイキイキと活躍している人はたくさんいます。そのことをまず認識してほしいです。

もう1つは、リカバリーメソッドの中にもある「コーピング」です。これは、ストレスや困難、問題に直面したときの対処行動や思考プロセスのこと。自分がどういう時にストレスを感じやすく、どうすればストレスを解消できるのか知っておくことで、受けたストレスを能動的に解消できます。

この力は、現代を生きる僕たちにとって必須スキルだと思います。パラナビ読者の皆さんも、ぜひ「マイコーピングリスト」を作って、自分のストレスと向き合う習慣をつけてほしいですね。

組織に勤める人も、起業家も、責任感が強い人ほど自分を大事にしなくなりがちです。いわゆるセルフネグレクトです。そうではなく、よく食べ、よく眠り、よく遊ぶ。当たり前のことですが、そういう日々を過ごすことが結果的に自分を守り、仕事のパフォーマンスにつながるのだと思います。

ーー2記事にわたり、たっぷりお話を聞きました。ありがとうございました!

>メンタルダウンからの回復と再挑戦を支援するサービス「リカバリーキャリア」はこちら!

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さくら もえ
Writer さくら もえ

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