自分の“好き”や“得意”を活かした仕事がしたい。自分のスキルを指名してくれる人にサービスを提供したい。そうした働き方を実現する方法のひとつとして「オンライン講師」という形があります。個人がインターネットで簡単にサービスを販売・運営できるプラットフォーム『MOSH』を運営するMOSH株式会社は、2025年7月に語学系クリエイター交流会を開催しました。代表取締役社長の籔和弥氏が聞き手のトークセッションでは、登録者数100万人を超える英語系YouTuberでありながら、英語教育事業を運営するタロサック氏が登壇し、YouTuberの傍らオンライン講師を始めた背景や、「1対多」の指導を実現している方法について惜しみなく語りました。
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YouTubeの登録者数が増えても、いつまで人気が続くかわからない不安や焦りがあった
——YouTuberであるタロサックさんが、英語教育事業を始めるまでの歩みについて教えてください。
YouTubeチャンネルを開設したのは今から約5年前、コロナ禍の2020年5月のことでした。『タロサックの海外生活ダイアリーTAROSAC』というチャンネル名で、英語学習コンテンツや外国人のインタビュー動画を配信し、現在は登録者数100万人を超えるチャンネルに成長しました。それに加えて3〜4年前からは英語教育事業を開始し、2023年12月には現在のメイン事業である『TEP英語コーチング』をローンチしました。
YouTubeを始めた当時は「インフルエンサー2.0」という言葉がビジネス系YouTuberの間で広まっていて、これからの時代は自分で商品やサービスを持って売っていく“個の時代”になると言われていました。それを聞いて、最初はYouTubeの傍らアパレル販売をしていたこともあったんですよ。でも今思えば、どう考えても私のチャンネルの視聴者さんは私から服を買いたくて見てるんじゃない(笑)。
もともとはYouTubeも「自分が得意なことって英語ぐらいかな」と考えて始めましたし、さまざまなことをやっていく中で、やっぱり自分がやるなら英語だということで、比較的低単価の英会話スクールのような形で走り出したのが、英語教育事業の初期段階でした。

——その後、現在のメイン事業である『TEP英語コーチング』をローンチしたんですね。2023年12月当時、YouTubeはどれくらいの規模感だったんですか?
登録者数50〜60万人ほどでしょうか。それくらいの規模であれば、広告収入で儲かっているんでしょう?と思われるかもしれません。確かに、広告収入も少なかったわけではありません。しかし私がYouTubeを開始した2020年頃は、パンデミックの影響もあって非常に多くの人がYouTubeに参入したタイミングでした。自分と同じようなコンテンツを配信している人が増え続ける中で、人気が衰える不安や「何か別のこともしなければならない」という焦燥感が常にありました。
YouTubeを始めた当時、有名なバラエティ系YouTuberさんが「広告収入や案件でこれぐらいお金を稼いでいる」という話をしているのを見たんです。その話の信ぴょう性はさておき「自分もYouTubeで少しでもお金が稼げたらいいな」なんて思っていました。しかしある程度チャンネルが成長し、実際に自分のところに案件依頼のお話が来た際には、チャンネルの規模感を考慮して交渉しても、なかなか思うようにはいきませんでした。
そこで「YouTubeだけでは稼げない」という現実にぶち当たり、「自分はYouTubeだけでは終わらない。ここからどんどん展開していくんだ!」と思いましたね。そこから、英語教育事業に本格的に注力していく形になりました。
第1期生は350人!「1対多」を実現するタロサック流スクール運用方法

——タロサックさんが1人で運営し講師を務める『TEP英語コーチング』では、何人くらいの受講生を教えているのですか?
第1期は360人、第2期は230人ほどの方に受講いただきました。TEP英語コーチングは6ヶ月間の英語学習プログラムで、修了後さらに継続コースを受講する方もいらっしゃいます。第1期の方々が継続コースを受講しながら、同時に第2期の方も受け入れていたので、さまざまなプレッシャーがありました。
——たった1人で360名を同時に教えるんですか!語学学習においては「1対1」の指導がスタンダードというイメージがあります。
私も英語コーチングを始める前は、漠然と「1対1でなければ語学コーチングは成り立たないのではないか」と考えていました。しかし、そもそもそれは自分の思い込みではないか?と思ったんです。
——「1対1」が本当に必要なのか、という問いですね。
そうです。「1対1」のレッスンは何のために必要だと思いますか?おそらくモチベーションの維持や、受講生の苦手な部分を見つけてあげるため、と考えるかもしれません。しかし卒業してコーチがいなくなった後のことを考えると、受講生が自発的に学習できる状態を、コース受講中のうちに身につけなければならないと思うんです。そう考えると、必ずしも「1対1」が正義ではない、と私は考えました。
——受講生が学習において自走できる状態を目指す、ということですね。

そうです。YouTubeも運営しながら、講師として「1対1」の面談もしていくとなると、自分が教えられる人数にかなりの制限がかかってしまいます。たとえば一般的な英語コーチング会社では、1人のコーチが20人くらいを見ると思うのですが、それでは私から学べない人がたくさん出てきてしまいます。だからあえて「1対1」をなくして、より多くの人に受けてもらえる“仕組み”を作ったほうが、結果的に多くの人のためになるのではないかと考えました。
——具体的には、どのような学習コンテンツが用意されているのですか?
まず、6ヶ月間のプログラム期間中は基本的に24時間、私に質問し放題です。いつでも質問できる環境でありつつ、このプログラムでは自分で問題解決できる力を身につけることも重視しています。そのため初日のオリエンテーションでは、ChatGPTの使い方なども含め自分で調べる方法から教えていきます。
自己解決能力を身につけてもらうことは、受講生が自走していくためにも「1対多」の運営を実現するためにも必要なことです。「まずは自分で調べてみて、それでもわからない場合はいつでも聞いてくださいね」と、丁寧に必ず一言伝えるようにしています。
他には、英作文の添削や、音声での添削。ほぼ毎週、1時間半〜2時間ほどのライブコーチング(全24回)も実施しています。70本ほどある動画講義は、移動中や隙間時間にも視聴しやすいよう、1本あたりの時間は約8〜10分にしています。発音講座に始まり、中学英語や総合英語、シャドーイングや英会話、そしてライブコーチングのアーカイブ動画などがおもな動画コンテンツです。
動画コンテンツの制作は非常に大変でしたが、一度作れば自分の財産になってくれます。加えて、グループチャットやオフラインでの交流会もあります。受講生同士の交流会は、モチベーション維持のためにも重要です。

——受講生のやる気や英語レベルは人それぞれだと思いますが、どのように対応されていますか?
まず受講生のレベル分けについては、受講開始時にテストとアンケートを実施し、個々の英語レベルに合わせた参考書やテンプレートを渡しています。
やる気の面については、講師としては熱量の高い方に受講していただきたいですよね。私の場合は公式LINEや長尺の動画を活用し、高い学習意欲を持った方だけが私のプログラムにたどり着ける仕組みにしています。受講生は、YouTubeを見て「タロサックさんから学びたい」と来ていただいている方が多いです。まさにMOSHが提唱する“指名経済”ですよね。
——大手スクールだといわゆる“担当者ガチャ”のような要素もありますよね。語学系YouTuberのような“推し”を直接指名して学べることは、受講者にとっても講師にとっても大きなメリットがあると思います。
ある種のスクリーニングを設けることで売り上げ面では少し落ちるかもしれませんが、学習意欲の高い受講者が集まるのでトラブルやストレスが発生しにくくなり、非常に健全な運営ができています。
ただ人間ですから、どんなにパッションをもって教えたとしても途中でモチベーションが下がってしまう人は絶対に出てきます。しばらく連絡が来ていない場合は一週間を目安に、テキストではなく音声や動画でメッセージを届けるようにしています。
YouTuberの自分と、講師の自分。タロサック氏はどう向き合っている?
——YouTubeでの発信と、サービス販売との間でジレンマを感じることはありませんか?フォロワーが離れてしまうのではないか、といった懸念です。
今は全くありません。世の中には、発信者がサービスやモノを売ることに対してマイナスなイメージを持つ人もいると思いますが、それを気にしたところで何も良いことはないと思っています。私は受講生から毎日のように喜びの連絡をいただいていますし「人の人生をプラスに変える良いことをしている」という自信を持っています。
ただしサービスに関する情報は、YouTubeなどのオープンな場では大々的に言いませんし、公式LINEのようなクローズドな環境で届くべき人にだけ届けるべきだと考えています。情報の届け方については、私たちのような「個」の発信者は一般企業の事業とは別で考えるべきです。
私のプログラムでは、皆さん楽しく学んでくれていますし「本当に入ってよかった」と言ってもらえます。 英語力が伸びたことはもちろんですが、「タロサックさんが真面目に向き合ってくれるから、こんなに継続できた。自分がこれほど頑張れる人間だとは思わなかった」と、人として成長できたことについて感謝されることが多いです。 私自身もYouTubeだけでなく、講師として英語を教えることによって他のこともできるんだなと思えるので、楽しいですし自信がつきます。

——コーチングを運営するにあたって、何を削り、何に集中されていましたか?
シンプルに、コーチング期間中はYouTubeの制作ができなくなります(笑)。週に1本程度しか投稿できない期間があることをわかった上で、事前に2〜3ヶ月分の動画を撮り溜めるなどして、コーチング開始前に準備しました。
「1対多」だと、大量の質問メッセージが来るんじゃないか?と皆さん思うかもしれませんが……めちゃくちゃ来ます(笑)。第1期の最初の1ヶ月は、朝起きてLINEを開くとメッセージが60〜70件くらい来て、お昼過ぎに一度落ち着いて、ランチを食べ終わって見たらまた30件くらい来ている……といった状態でしたね。でも、皆さんも絶対にできますよ、他のことをしなければ!(笑)。でも基本的に質問のあとはまた課題に取り組むので、その間メッセージの量は減りますし、全員が毎日送ってくるわけではないです。
——期間中はコーチングにかなり集中されているのですね。
はい、その通りです。サポートスタッフを入れて、運営をより簡単にすることもできるかもしれません。しかし受講生は「タロサックさんから学びたい」と思って入ってくださっているので、そこは質を高め続けることにこだわっています。私の場合、個人面談はありませんが、深夜0時や1時でもLINEを返したり、ボイスメッセージを送ったりしています。受講生は朝返ってくるだろうと思っているところで、すぐに返信が来ると驚いて、それだけで満足度が上がるんです。1人での運営だとしても、実は満足度を上げることはそんなに難しくないんですよ。
オンライン講師というキャリアは「なんでもできる」という自信をくれた

——コーチングを始められて、タロサックさんご自身の良かったことや変わったことはありますか?
語り尽くせないほどあります。一番覚えているのは、第1期のローンチのときです。10日間連続で、長時間のライブコーチングを複数回行いました。多くの方々が入ってくれて本当に嬉しかったのですが、実際に目の前に受講料を支払ってくれた360人がいるという状況は、計り知れないプレッシャーでした。
私が小学校5年生のとき英語を好きになるキッカケとなった、オアシスというバンドの「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」という曲があるのですが、ローンチが終わったとき、その曲をかけながら床に大の字で倒れて、1時間号泣しました(笑)。
疲れているのか、嬉しいのか、辛いのか、怖いのか……自分でも何の涙かわからないんですけど、涙が止まらない。「ここまで来たんだ、自分で」と思いながら、さまざまな感情が入り混じって感動した経験をしました。
実は、最初は「自分に英語コーチングができるのだろうか」と自信がなかったんです。そこでビジネスコーチングを受けてみたところ、コーチに「なんでやってないんですか?」と言われ、自分でも「確かに、なんでやらないんだろう」と思い……思い当たるあらゆる不安を潰した上での挑戦だったんです。そこまで準備をしてもいざ始めてみたら苦しいこともありましたが、その結果、今では「なんでもできる」と思っています。

——最後に、これからオンライン講師を始めたいと考えている方々へメッセージをお願いします。
おそらく多くの方が「今の自分のレベルで、こんな(強気な)価格で提供していいのか」と考えていると思います。 しかし、自分がやっていることが正しい、自分が得意なことを教えることで、相手の能力を上げられると自信を持ってやっているのであれば、きちんとした対価をいただいてそのサービスにフルコミットできた方が良いと思います。だから私はたとえ高単価だとしても、適正な対価をいただくことが重要だと思っています。その分、受講生にも新たな形で還元できますし、私たちも事業にコミットできるので、結果が出やすくなります。
もし「本当はやりたいけれど怖い」と思っていることがあるのであれば、何が自分を止めているのか冷静に考えて、どうすれば解決できるのかを考えてみてください。たとえば私であれば、サービスを開始するにあたっては決済手段が課題のひとつでしたし、ローンチ後は運用面での不便さも一部出てきましたが、それはMOSHを利用することによって解決でき、安心して挑戦することができました。とくに語学ジャンルの発信者では、私のようにMOSHを活用する人が増えてきていますよね。
思い切って挑戦をしてそれを乗り越えたら、さらに自分のことを好きになれるはずです。そして決して綺麗ごとでなく、より多くの人の笑顔を作っていけると思いますので、ぜひ自信を持ってどんどんチャレンジしてほしいと、私の経験から伝えたいです。“可能性は無限大”ですから!