こんにちは。中学生と小学生を持つ、作家・教育ジャーナリストの佐野倫子です。「アラフィフになって働きながら大学院に通ってみたい」というふんわりとした思いつきをリアルにするまでの顛末を書きたいと思います。2回目は、「前途多難な情報収集編」です。
Contents
外的要因から決まっていく社会人学生の志望校
46歳で、何を血迷ったか、「久しぶりに勉強したいなあ……大学院ってどうやっていくんだろう?」と考えて深夜に検索を繰り返すこと数ヶ月。
仕事との両立を考えると、都心にキャンパスがあること、そしてこれから教育費がかかる中学生・小学生の母として学費を抑える必要があることから国立が条件。そう思って東大大学院について調べていくと、ちょうど説明会が申込受付中。
「大学院の説明会って、その大学院に縁もゆかりもない素人(?)が行っていいのか!?」
と思いつつ、えいやで申し込んだ経緯は前回のとおりです。

さて、当日。
どうにか仕事の都合をつけて、生まれて初めて東京大学本郷キャンパスに足を踏み入れました。校内地図を見て、右往左往。そもそも説明会の案内もシンプルで、「あー、これはすでに東大に通っている人とか、何らかの形で東大大学院にコンタクトしたことがある人向けなんだろうなあ」などとびくびくしながら、どうにか建物にたどりつきました。
説明会はホールで行われていましたが、そこには人が収まりきらず、外にも椅子やモニターを出してくださっていて、私はどうにかすみっこに座って聞くことができました。ウェルカムな雰囲気なうえに、欲しかった情報がたくさん盛り込まれている説明会で、最初の危惧は杞憂となりました。卒業生の進路、出身学部、研究内容、ゼミの内容、卒業後の進路、そして入試情報などをひたすらメモしていきます。

記事を読んでくださっている方で、大学院進学を考えていらっしゃる方、学び直しに興味がある方は、とりあえず説明会に飛び込むことをおすすめします。百聞は一見に如かず。ウェブサイトだけだとイメージしにくい雰囲気も、肌で感じることができました。
私が興味を持った東京大学大学院情報学環と学際情報学府というのは新しい機関で、社会人にも門戸を開いていると聞いていましたが、行ってみるとその通りでした。参加している人の中にも社会人とお見受けする方がいて一安心。
説明会のあとは研究室ごとに、所属の先輩が少人数で質問に答えてくれるパートがあり、私は思い切ってそこにも参加してみることに。
知り合いもおらず、前知識も何もない私は、終始きょろきょろ。学部から東大の若者たちが眩しい……。彼らはすでネットワークがあるようで、自信いっぱいに見えます。
「説明会ではとりあえず疎外感は感じないけれど、ここでは果たして何をすれば!?場違いすぎない!?」
と、弱気になりながらも、事前にウェブサイトで見て興味がある研究室の先輩がいるエリアに移動しました。

ここにも社会人らしき人がいて、その点では少々安心しましたが、興味があると思っているテーマについて、ここで深い議論をする前知識がありません。
「どのくらい求められるレベルと乖離があるのか、それだけでも知ってからまた来年来よう!」
そう思って、ドクターに在籍している方に思い切って話しかけてみました。皆さん知性があふれ出ているばかりか、親切なこと限りなし。
私が恥を忍んで「学部で書いた卒論が最後で、学術論文をネットで読んだり、研究計画書の書き方について調べたりしてはいるものの、書いたことがない」と打ち明けると、「こんな感じですよ」とご自身の研究計画書を少し見せてくださいました。

……これは、仕事の片手間にはとても作れない。物書きの端くれですから、この文書にどのくらいの時間がかかるか、調査を要するかはすぐにわかりました。
甘かった!これは予備校があるというのも納得です。
もちろんこれまできちんと段階を踏んで論文を書いてきていれば、時間をかければひとりで書きあげられると思います。しかし社会人20年以上、その間象牙の塔には縁もゆかりもない私には、付け焼刃で乗り切れるものではありませんでした。
せめて社会人入試をしているところで、これまでのフィールドでの実績を評価していただける入試でないと勝ち目ナシ。生憎、私が興味を抱いているコースでは、社会人優遇のようなものはありませんでした。つまり現役東大学部生の院進志望者と同じレベルでの研究計画書が求められます。
結果、私はしょんぼりと説明会をあとにしたのでした。
「私、場違いだな…」打ちひしがれる現実
その後、説明会で教えていただいた研究室訪問会にも参加しましたが、やはり私の今の働き方で修士コースにトライするのはハードルがとても高いことを悟りました。仕事を2年間セーブする覚悟あれば可能性はあるのですが、それをしたとしても子育てと両立する必要もあり、全てをとるのは難しい。
「やっぱりね……甘かったよね」
と、うなだれましたが、せっかくだからやっぱり勉強をしてみたい。今年や来年は修士コースは難しいけれど、あと数年、子育てがもう少し余裕ができたら、仕事がもう少しゆとりができたら、できるかもしれない。その時までにちょっとでもいいから勉強をしておこうと思いました。

ゼロか100かで考えずに、柔軟に構えてできることを探そうと考えよう。大人になって新しいことを始めようとしたり、新しい人間関係に飛び込んだりしようとするとき、柔軟であることはとても大切な気がしました。
自分の望みや優先順位を整理したら、あとはその最適解を探せばOK。ベストがだめならセカンドベストでよしとする。それがいい方向にいく鍵になるかもしれません。
そんなわけで往生際悪く、さらに調べ続けていると、ひとつの募集要項が目に留まります。
「東京大学大学院情報学環教育部研究生、募集のお知らせ」
すでに入試は終了していましたが、私はその募集要項を開いてみました。それがまた次の扉を開けることになります。
——次回は、超短期間で試験に挑戦することになった経緯と実際の試験の様子をお伝えします!