バンドマン、アイドル、俳優、アスリート……表現者として表舞台で活動する人々の「引退後」のキャリアについて語られる機会は、そう多くありません。ステージから降りたその後のキャリアを、彼ら彼女らはどのように歩んでいるのでしょうか。
2025年11月14日、東京・有楽町のTokyo Innovation Baseで開催されたイベント『せかきゃり!サミット』には、総勢11名の豪華ゲストがトークセッションに登壇。表現の世界から次なるキャリアへと踏み出した人々、そして現役の表現者として活躍するスペシャルゲストが集結し、キャリアの歩み方について語り合いました。
イベントレポートの前編では、3部構成のトークセッションより、第1部の様子をお届けします。
Contents
『せかきゃり!』とは?

『せかきゃり!』は、元ビジュアル系バンドマンで現在は株式会社SmartHRのインサイドセールスとして活躍するつつみ/MIHIRO氏を中心に、「ライブハウスでビジネスイベントをやったらおもしろいのでは?」というアイディアから始まった企画です。
2023年7月に阿佐ヶ谷ロフトAで開催された第1回目のトークイベントでは、ビジネスパーソンに転身した元バンドマンなどが「どのように異業種のセカンドキャリアで成功したのか?」を語り合いました。
また、イベントの開催に伴い『インサイドセールス・ラプソディ』の楽曲とMVも制作。アーティストとしての楽曲・映像制作やパフォーマンスのスキルを活かしたユニークな発信も、せかきゃりの特徴です。
『ヴィジュアル系インサイドセールス』として発信活動を行うつつみ/MIHIRO氏は、せかきゃりの活動について「セカンドキャリアという概念すらも超えて、多様なキャリアを築く人々の社会的な受容を促すことを目指している」と語ります。今回の『せかきゃり!サミット』は、せかきゃりの取り組みに共感した企業の参画により、前回よりも規模を拡大して開催されました。
【第1部】セカンドキャリアは夢の延長戦 — 決意や行動について

<MC>
鈴木純太(ジェイ)(株式会社StartPass COO)
<登壇者>
ヴィジュアル系インサイドセールス つつみ/MIHIRO(株式会社SmartHR)
たら(Advertising Planner/UI&UX Web Design アートディレクター/代表取締役)
インテツ(日本写真家協会 写真家)
齋藤ヤスカ(株式会社リジュエ 代表取締役/テアトルアカデミーモデル講師)
桜のどか(株式会社ツギステ 取締役)
——表現の世界から、どのように次のキャリアへの一歩を踏み出したのか。その決意をした瞬間について、まずは元ヴィジュアル系バンドマン(ex.シリアル⇔NUMBER)のつつみさんから聞かせてください。

<MC> 鈴木純太(ジェイ)さん
つつみ/MIHIRO:僕の場合は、何かを断ち切ってセカンドキャリアの道に進んだというよりは、グラデーションのように移り変わっていきました。キャリアチェンジのきっかけは、最後のバンドのときに音楽だけで生計が立てられなくなり、営業会社でアルバイトを始めたことです。
商談のときに、普段の自分から“スーパー営業マン”の自分に切り替える。それが、バンドマンの“MIHIRO”としてステージに上がるライブに近い感覚があって、営業の仕事におもしろさを見出しました。その後いろんなことが上手くいかなくなったタイミングで、アルバイト先の会社にそのまま就職したのが1社目です。
そこから10年間ビジネスパーソンとしてキャリアを築いてこられたのは、13年間のバンドマン時代に努力し続けてきたことが大きいと思います。僕はどんなに忙しいときでも、毎日ギターの練習を欠かすことはありませんでした。
それがビジネスパーソンになって、たとえばマーケティングの勉強をすることだったり、本や日経新聞を読むことに形が変わっただけで、「何かをコツコツ続けて努力する」力は、どこの業界へ行っても通用するものだと思います。

つつみ/MIHIROさん
——ちなみにつつみさんは、ビジネス系のカンファレンスに登壇するときもこの(ヴィジュアル系の)格好なんですよね。
つつみ/MIHIRO:そうです。普段は周りがスーツの中、一人このメイクとファッションで。だから今日はヴィジュアル系の仲間がたくさんいて心強いです(笑)。
——では、同じく元ヴィジュアル系バンドマン(ex.176BIZ)からキャリアチェンジした、たらさんはいかがでしょうか。音楽からデザイン・クリエイティブの世界へと進まれました。
たら:僕がバンドをやっていた当時は今と違って、音楽をしながら他のことをするのにすごくネガティブなイメージがあった時代でした。なので僕の場合は、音楽はスパッと辞めましたね。ただ、バンド活動で世界観を創造することと、現在のデザイン・クリエイティブの仕事はかなり近しいですし、クライアントワークにおいても活きていると実感しています。
今は企業案件以外だと、バンドやアイドルなどアーティストのクリエイティブを制作させていただくことが多いのですが、自分の制作物を通じてそのアーティストが大きくなっていく瞬間に立ち会えるのは、この仕事をしていて本当に幸せな部分ですね。
音楽もデザインも新しい素敵なものがどんどん出てきて、時代とともに変化していくものなので、常にアンテナを張って新しいものを取り入れていかなければと日々仕事に向き合っています。現状に満足することなく“ポジティブな焦燥感”を持って挑戦し続けることが、どのようなキャリアを歩んで行くうえでも重要だと思います。

たらさん
——元ヴィジュアル系バンドマン(ex.彩冷える)から写真家に転身したインテツさんは、どのような思いからキャリアチェンジを選択したのでしょうか。
インテツ:バンド活動を続ける中で、メンバーの脱退を経験したことや、「みんなで決める」ということに疲れてしまったことがありました。僕にとっては、バンドマンの仲間たちと一緒に何かを作れることが幸せなんです。
だから自分がベーシストから写真家に立ち位置を変えることによって、好きな人たちやクライアントさんとお仕事ができたり、大切な作品を一緒に作れたりするかも……と思ったのが転身のきっかけでした。あとは、一人で決めるフリーランスの“自己責任”という在り方も清々しいなぁと思って。

バンドでデビューするとき、バンドマンは1枚のアーティスト写真に人生のすべてをかけます。僕はそれを自ら体験したことのある珍しい写真家だと思うので、そうした想いを汲みながら一緒にひとつのものを作ることが、今のキャリアの喜びだと感じています。ステージに立つベーシスト時代は「自分が前に出なきゃ」という意識が強かったですが、今は裏方としていろんな人とセッションできるソロ活動をしている感覚です。
実は写真家になると決めたとき、「もう後ろを振り向かない」という決意を込めて音楽の機材をほとんど売りました。ベースは大切なものなので、友達に無期限で貸し出す形にして。そうやって、自分を追い込みましたね。

インテツさん
——元戦隊ヒーロー俳優(轟轟戦隊ボウケンジャーなどに出演)で、現在は株式会社リジュエの代表取締役を務める齋藤ヤスカさんは、キャリアチェンジの際にどのような覚悟がありましたか?
齋藤:覚悟というと怖いところへ“飛び込む”感覚だと思うのですが、僕にとって起業は自分の居場所をより大きく広げて魅力的にする作業という感じだったので、正直覚悟という覚悟はなかったんですよ。16歳で芸能活動を開始して以降、一度も企業に就職したことがなくてずっと“ピン”だったので、自分をプロデュースする感覚が根底にあって、それは俳優でも経営者でも変わらないんですよね。

齋藤ヤスカさん
——桜のどかさんは、元アイドル(ex.仮面女子)から転身し、現在はアイドル経験者の転職を支援する株式会社ツギステの取締役を務めています。どのような経緯で現在のキャリアに至ったのでしょうか。
桜:私は年間1,000本のライブをこなすグループで、約9年間アイドルとして活動していました。1日3〜4ステージ、365日休みなくライブをする生活です。しかしそれだけハードな生活をしてきたにも関わらず、アイドルを辞めたらその先のキャリアがない。「今までの時間と努力は、一体なんだったんだろう」と思いました。
周りの子たちも努力家でいい子たちばかりなのに、アイドルを辞めてしまったら「就職ができない」「やりたいことがない」「手っ取り早く稼げる仕事をするしかない」みたいな子が多く、現状を変えたいと問題意識を持ちました。
そこで当時のメンバー(代表取締役の橋本ゆき氏)と、アイドルのセカンドキャリアを支援する会社を立ち上げたんです。起業の決意があってというより、アイドルをやってきた延長線上で「こんなにみんなが困っているのはおかしい」「それなら自分がやるしかない」という思いから、セカンドキャリアを歩み始めました。

桜のどかさん
現在のキャリアの原動力は、支援したアイドルの方の笑顔や感謝の言葉です。正社員として入社した1ヶ月後くらいにお会いすると、本当にキリッとした表情に変わっていて、目もキラキラして、内面もすごく前向きになっていて。
「社会との接点ができて、私の人生本当に変わりました!」といった嬉しい言葉をいただく瞬間が、この仕事のやりがいです。キャリア支援を通じて皆さんの多彩な生き方や夢を知ることで、私自身もまた別の夢を追えていると感じています。
——セカンドキャリアのエピソードでありつつ、皆さん“セカンド”感がないですよね。キャリアの「やり直し」ではなく、表現者としてのキャリアが進化して形を変え、さらなる人生の豊かさや夢へと続いていることがわかりました。ありがとうございました!
>>後編では、スペシャルゲストに十束おとはさん(キャリアコンサルタント/ex.フィロソフィーのダンス)、彩雨さん(摩天楼オペラ)、HIROTOさん(Alice Nine.)を迎えた、トークセッション第2部・第3部の様子をお届けします!










