「推し活」ブーム真っ只中の現代。私たちの推しであるエンタメ業界で働く表現者たちは、現役を引退した後のキャリアをどのように歩んでいるのでしょうか。2025年11月14日、東京・有楽町のTokyo Innovation Baseで開催されたトークイベント『せかきゃり!サミット』には、登壇者として元・バンドマン、アイドル、俳優、アスリートが集結。スペシャルゲストには現役で活躍するアーティストを迎え、表現者のキャリアについて語り合いました。
イベントレポートの後編では、3部構成のトークセッションより、第2部・第3部の様子をお届けします。
>>セカンドキャリアは夢の延長戦!表現者たちが次のキャリアへ踏み出した瞬間とは?『せかきゃり!サミット』イベントレポート【前編】
Contents
【第2部】「アーティスト×人事担当者×人材エージェント」の本音〜求める人物像とアピールすべきスキル〜

<MC>
<登壇者>
ヴィジュアル系インサイドセールス つつみ/MIHIRO(株式会社SmartHR)
彩雨(摩天楼オペラ)
梅田翔五(株式会社セレブリックス キャリア&リクルーティング事業本部 部長代理)
鈴木純太(ジェイ)(株式会社StartPass COO)
安藤リチャード正寛(株式会社ツギステ COO)
——第2部では「夢を追うことと社会で働くことがどのように繋がるのか」をテーマに、表現者、企業担当者、そして転職エージェント、それぞれの視点から話を掘り下げていきたいと思います。
まずは「企業で働く」という選択をどのように捉えているのか、彩雨さんからお聞かせください。彩雨さんはヴィジュアル系バンド『摩天楼オペラ』のキーボーディストとして活躍する現役のアーティストでありながら、京都情報大学院大学の客員教授を務め、さらにWeb3やAIの領域で個人活動も行うなど、まさにパラレルキャリアを体現しています。

<MC> 十束おとはさん
彩雨:僕は大学卒業時、企業に就職しようという気持ちは1ミリもなく、すべてを捨ててバンドの道でやっていくという考えでした。しかし今は世の中が多様化し、生き方もさまざまになってきていますから、後輩の世代には「音楽をやるならすべてを捨てろ」といった価値観は押し付けたくないですし、バンドマンの生き方もいろいろで、柔軟なキャリア観があっていいんじゃないかと思います。

彩雨さん(摩天楼オペラ)
——過去にバンドマンとして活動してきて、現在は株式会社SmartHRでインサイドセールスとして働いているつつみさんはいかがですか?
つつみ/MIHIRO:彩雨さんのおっしゃることはよくわかります。僕は彩雨さんよりも少し前の世代のバンドマンなので「バンドマンでダメだったら死ぬしかないみたい」な、大げさではなく本当にそんな風潮がある世界でした。今、僕が働いているIT業界は、転職・副業・出戻りも多い業界であるため、従来の枠組みにとらわれることなく、キャリアについて柔軟に考えられています。

画像左:彩雨さん、画像右:つつみ/MIHIROさん
——続いて、採用する企業側や、求職者と企業の間に立つ転職エージェントは、どのような目線で表現者たちを見ているのか。株式会社StartPassでCOOを務めるジェイさんはいかがでしょうか。
ジェイ:僕がいるスタートアップやベンチャー企業では、ユニークなものに価値があるという考え方なので、多彩な才能を持つ表現者の方々にはぜひ力になってほしいという思いです。しかしその一方で、「どのように採用したらいいのか」「何で測ったらいいのか」がわかりにくいことは、課題だと思っています。
——人材系のサービスで事業統括を務める、株式会社セレブリックスの梅田さんはどのように思いますか?ご自身も、ブレイクダンサーという表現者からビジネスパーソンに転身された過去をお持ちです。
梅田:現代は人手不足で、企業側は採用に悩んでいます。しかし、いざ表現者が転職活動をするとなると、苦戦するのが正直なところです。そのため今後は企業側が、セカンドキャリアを歩んでいきたい表現者たちにもっと可能性を見出していくべきですし、表現者側も、これまでのキャリアで得たものを企業でどのように活かせるかアピールできるようになる必要があり、双方の努力が不可欠だと思います。

画像左:鈴木純太(ジェイ)さん、画像右:梅田翔五さん
——アイドルの転職支援を行う、株式会社ツギステのリチャードさんはいかがでしょうか。
リチャード:梅田さんのお話しとつながりますが、表現者たちが持つスキルと、企業が求めるスキルが「共通言語化されていない」ことが大きな課題だと感じています。企業は、定量的な情報やビジネス的に分かりやすい表現を求めているため、表現者の経験や強みを企業向けに“翻訳”する作業が必要です。それをサポートするのが、私たち転職エージェントの役割だと思います。

安藤リチャード正寛さん
——表現者ならではの“強み”について、彩雨さんはどのように感じていますか?
彩雨:“強み”というのは、要するに“自信”なんですよね。強みの発見とは「何をやってきたか」という自信を言語化する作業かなと思います。長く表現者として活動されている人であれば、その人にしかできないことって突き詰めていくと必ずあると思うんです。僕の場合、自分の強みは何時間でも語れますけど(笑)、そもそも「自分の強みを言語化できる」ということ自体がなかなかの強みであり、多くの人にとっては難しいことなんだと思います。
——つつみさんは、自分の“強み”を転職活動でどのようにアピールしましたか?
つつみ/MIHIRO:僕はバンドマンを13年間やったあと、ビジネスパーソンは10年ぐらいになりますが、今までいろんな仕事をやった中で、バンド時代が間違いなく一番大変だったし努力していました。しかし、そのバンド時代の努力を「言語化していい」「面接でアピールしていい」という意識が、かつての自分にはなかったんです。バンドの経験を言ったら非常識な人だという印象を持たれて不利になると思い、転職活動で隠した結果「空白の13年間何やってたんですか」みたいになっちゃって、50社くらい落ちまくったんですけど(笑)。

つつみ/MIHIROさん
——企業側としては表現者の“強み”についてどのように考えていますか?
梅田:過去に表現者の方のセカンドキャリアについてインタビューしたときに得た気づきなのですが、表現者にとっては強みのアピールよりも「弱みの克服」のほうが実は難しいんです。たとえば、これまでの生活が不規則すぎて会社員の朝9時から18時で働くような生活に順応できないとか、バンドマンであれば髪の毛を黒に染めたくないとか。
会社員になるには、ときに「表現者としての自分のアイデンティティを捨てる」といったことが必要になるので、ここを自分の中で許容できるかが僕はすごく重要じゃないかなと思っています。……と、この話をした後につつみさんを見たら髪がピンクで、全然言ってることと違うじゃん、ってなっちゃったんですけど(笑)。
つつみ/MIHIRO:ちなみに昔より今のほうが派手です(笑)。

——最後に、第2部のまとめとして彩雨さん、ご感想をお願いします。
彩雨:僕は『音楽とテクノロジー』という授業を京都情報大学院大学でやっていまして、学生たちの分野はそれぞれですが「一生学べ」という話をよくしているんです。学び続けることは、キャリアの可能性を広げてくれると思います。
冒頭でも言いましたが、人生も働き方も今後さらに多様化する社会になっていくはずです。表現者の人も、セカンドキャリアやパラレルキャリアなど、働き方について語りやすい世の中になっていくと思うので、企業側も積極的に採用や人材の活用について考えていただけたら嬉しいなと思います。
【第3部】バンドマンや元“ヒーロー・アイドル・アスリート”が企業や地域でできること

<MC>
<登壇者>
ヴィジュアル系インサイドセールス つつみ/MIHIRO(株式会社SmartHR)
HIROTO(Alice Nine.)
山本朝陽(合同会社Zefore メンタルトレーナー)
たら(Advertising Planner/UI&UX Web Design アートディレクター/代表取締役)
齋藤ヤスカ(株式会社リジュエ 代表取締役/テアトルアカデミーモデル講師)
十束おとは(キャリアコンサルタント)
——表現者としての経験は、企業や社会との関わりの中でどのような形で貢献しているのか。第3部では、6名の登壇者とともに語っていきたいと思います。まずは、元サッカー選手で、現在はアスリートのメンタルトレーナーとして活躍する、山本朝陽さんに伺います。

<MC> 桜のどかさん
山本:現役時代は、自身やチームが達成すべき目標といつも隣り合わせでありつつ、パフォーマンスは常に一定の水準を超えなければいけないという状況でした。その中で「心の状態がパフォーマンスに影響する」ことを実感していた経験から、日々強いプレッシャーに晒されているアスリートたちをサポートする、メンタルトレーナーの仕事に辿り着きました。
ビジネスの世界に出てみて、アスリートが持っている能力の中でも“成し遂げる強さ”というのは、大きな価値であると感じています。アスリートはどうしてもアスリートの社会しか知らない人が多く、セカンドキャリアというとネガティブに捉える方もいらっしゃいます。今後はアスリートの強みを生かして社会で価値発揮できる人が増えるよう、サポートしていきたいと思っています。

山本朝陽さん
——元戦隊ヒーロー俳優の齋藤ヤスカさんは、当時の経験が今の経営者の仕事にどう活きていると感じますか?
齋藤:俳優は、ヒーローだったり悪役だったり、台本に書かれた自分の役割を演じます。「この役割のマインドから行動する」「このマインドで人と接する」という姿勢は、経営者として仕事をする上でも大いに役立っています。
では社会の中での役割でいうと、おそらく普通の人たちがブレーキを踏むところで、アクセルを思い切って踏むのが僕ら表現者なんです。どのようなときも前を向いて、社会の中で第一線としてリードしていく存在であるのも、表現者の役割なのかなと考えています。

齋藤ヤスカさん
——元アイドル(ex.フィロソフィーのダンス)で、現在はキャリアコンサルタントとして求職者のサポートをする十束おとはさんは、アイドル経験が活きていると感じるのは、どのような場面ですか?
十束:ここでは愛をもって“オタク”と言いますが、オタクの皆さんの人生を明るく照らすために、一緒に走る存在がアイドルだと思っていて。キャリアコンサルタントの支援でも、「誰かの人生の伴走者である」というマインドは変わっていません。また、キャリアコンサルタントは「初めまして」の場が多い仕事ですが、「どのような方にも好印象を持ってもらいたい」という“アイドル根性”は、社会人としても活きていると感じています。
気軽なキャリア相談がまだ定着していない日本において、日常的にキャリアの話ができるよう、元アイドルのキャリアコンサルタントとして、親しみやすい“ポップ”な存在でありたいです。

十束おとはさん
——ヴィジュアル系バンド『Alice Nine.』のギタリストで、ソロとしても活動する現役アーティストのHIROTOさんは、バンドと社会の関わりについてどのように感じていますか?
HIROTO:正直、僕たちアーティストが社会に対して直接的な影響を及ぼしていることって、ほとんどないと思うんです。しかし僕たちの作品や演奏は、社会でそれぞれ活躍するファンの心に、温度や感動をもたらします。それが新たな活力へと変換され、ファンを媒介して社会に間接的な影響を及ぼしているのかもしれないですね。

——バンドマンとして活動していた、たらさんはいかがでしょうか?
たら:HIROTOくんがおっしゃったように、音楽活動はたとえば一次産業のように直接的に届けるものではないのですが、間接的に人の人生を変えるものであるとバンド時代に感じていたので、そうした価値をもたらす仕事は本当に幸せですし素晴らしいものだと思います。

画像左:たらさん、画像右:つつみ/MIHIROさん
——登壇者の皆さんのようにさまざまな才能が交わることによって、社会はよりよいものになっていくのではないかと感じますね。異なる才能との出会いによって、社会で何か新しい可能性を見出した経験など、HIROTOさんはありますか?
HIROTO:僕は、バンドという形態がまさにその縮図だなと実感しているんです。担当するパートをはじめ、それぞれのやれることが違う。それが合わさると、いわゆる“バンドマジック”と言われる、ミラクルが起こるんですよね。僕らは10年目以降、自分たちで会社を作って活動していたのですが、各自が会社での役割も持ったときにそれがより色濃く見えてきて、自分の立ち位置を今まで以上に意識するようになり、チームそのものだなと思ったんです。

HIROTOさん(Alice Nine.)
あとは僕個人の話だと、能登の震災の復興支援に行ったときのご縁で、金沢に古くからある木材屋の社長さんと親しくさせてもらっていて。その方は、職人さんの後継者不足に陥っている現状をなんとかしたいという想いから、能登のヒバ材を使った楽器のプロジェクトを立ち上げているんです。
僕はその木材で作ったギターを演奏したり、情報を拡散したりすることで、表に出ていない人の想いを乗せて世の中に届けることはできるはずなので、そうしたアーティストならではの社会貢献の仕方も模索していけたらと考えています。

——最後に、せかきゃりを代表してつつみさん、このせかきゃりは今後どのように広がっていきますか?
つつみ/MIHIRO:今回はイベントとして開催しましたが、これは始まりに過ぎません。今後もさまざまなコンテンツを通じて、セカンドキャリアや多様なキャリアについて皆さんが考えるきっかけを提供していきたいです。バンドマン時代の「いつか武道館に立ちたい」という夢も、もしかしたらせかきゃりで叶えられるかもしれない。僕たちのセカンドキャリアは、まだまだ“夢の延長戦”です!











