副業解禁企業が続々と増えるなか、一部では副業の「消極的容認」にとどまらず「積極的活用」につながる画期的な制度を打ち出し始める企業もでてきました。その一つがネットイヤーグループで、2020年4月24日、「兼業社員制度(通称・カケモチ社員制度)」という人事制度を発表し、「社外での兼業を活用して社員の主体的なキャリア形成を奨励する」という方針を示しています。この制度の目指すところや、パラレルキャリアが会社にもたらす効用について、ネットイヤーグループ人事部の木村絵里香さんに聞きました。
Contents
自社以外とのカケモチで新たな付加価値を
――ネットイヤーグループは、創業当時の21年前からすでに「複業」を推奨する制度があったとのことですが、どのような背景があって設けられていたのでしょうか?
まず、当社は、企業のマーケティング活動を主にデジタル面からサポートしている会社です。顧客を増やしたい、売上を伸ばしたいといった企業のニーズに対して、システムやサイト構築などを中心に、オフサイトの広告活動など企業のマーケティング活動を多岐にわたって支援しています。
そうした多様な支援を求められる点で、創業当時から社員の主体的で幅広いキャリア形成を「複業」制度という形で応援してきました。この制度は全社に浸透していて、「複業している社員がいて当たり前」という文化が醸成されています。近年は、常時10%以上の社員が複業をしているという状況です。
最近は若手や中堅社員はもちろん、経験豊富なワーキングマザーの流出が大きな課題になっていますよね。どんどん多様化する働き方に適応した制度設計をすることで、従来の人事制度が適用しづらかった応募者やワーキングスタイル、将来のキャリアビジョンにマッチせず、退職を検討せざるを得なかった方達の離職抑制も狙いとしています。
――複業が制度として根付いているだけでもすごいのですが、今回の「カケモチ社員」制度は、さらに一歩踏み込んでいますね。どういったことをこの制度に期待されていますか?
はい。こうした文化をベースに、社外の高度な専門性を有する人材がさらに活躍できる場や仕組みを提供しようというのが「カケモチ社員」制度です。ほかの仕事で得た新たなビジネスやアイディアなどをオープンイノベーションの創出や価値創造につなげてもらうには、従来の「メンバーシップ型」から「ジョブ型」の働き方を支援する新しい人事制度を考える必要がありました。
「カケモチ社員」は、希望すれば正社員と同じように無期雇用、保険や福利厚生などの制度も利用できます。この点がフリーランスや業務委託で、お仕事をしていただくこととの違いで、今までなら転職や退職、起業しないとできなかったようなことにも安心してチャレンジできる体制が整いました。
今、世間的には、コロナショックによる解雇や雇い止めを危惧する声があちこちで聞かれています。だからこそ、こうして他社よりも一歩踏み込んだ決断をすることで、ハイスキル人材の獲得へつなげたいという思いがあるんです。
また、既存の社員や中途入社の社員に対しても、本業だけに限らず、兼業での多様な経験・広い知見・新たな人脈から、より高付加価値なサービスを提供できるクリエイターとして成長を遂げてもらいたいです。当社社員がこれまで以上に働きやすく、新たなアイディアが生まれる環境づくりにも取り組んでいきたいと考えています。
ジェンダーフリーの新しい働き方を推進
――安心して兼業できるのが素晴らしいですね。「カケモチ社員制度」を利用されている方の兼業先の職種はどういったものですか?
2020年4月に制定したばかりなので、カケモチ社員は現時点では1名で、当社での仕事以外に「地方創生プロジェクト」や「IoTビジネスの立ち上げ」などの分野で活躍されています。また、すでに既存社員やOB社員からも複数の問い合わせが入っています。例えば、兼業制度でイベンターをやっているけれど週末や休日だけの兼業ではなくもっと本格的にカケモチにしたいとか。ライターやコンサルタント、そして役者など多岐にわたります。今後、カケモチ社員が増えることは間違いないと考えています。
——「カケモチ社員制度」以外にも、特徴的な人事制度や女性に寄り添った人事制度などがあれば、お聞かせください。
創業当時からジェンダーフリーの考え方が根付いており、特に女性に寄り添った制度というものはないのですが、社長が女性でもあり、女性の働きやすい社会・女性が活躍しやすい環境というものを常に意識して、会社を経営してきています。
男性だから、女性だからという仕事や意識の違いはなく、育児休業制度も男性が活用している実績もありますし、フルタイムの60%、80%で働くという「ワークスタイル選択制度」も男女問わず活用しています。
人事制度ではありませんが、働き方の変革は今回の新型コロナへの対応でより進みましたね。当社は、実は昨年「テレワークデイズ」と称し、テレワークを積極的に推進する期間を設けましたが、その時の実施率は30〜40%でした。ところが、4月8日に出た緊急事態宣言を受けて社員の96%がテレワーク勤務になりました。ただ、世の中的にはテレワーク実施率はまだ2割程度とも言われていますので、このカケモチ社員制度含めて新しい働き方のできる企業であるということを世の中にアピールしていきたいです。
多様化する働き方で、よりプロフェッショナルな人材育成に
——新しい働き方を実践する社員の方達の活躍を通して、実現していきたい展望などがあればお聞かせください。
今後、より多様化する働き方に対して、様々な雇用形態に柔軟に対応していきたいと考えています。今回のコロナで明らかになったのが、成果さえあげれば、時間や場所を制約することにこだわらなくてもいいということ。例えば、海外にいて昼夜逆転する働き方をしたっていいと思うんです。過去、実際にご主人の転勤でメキシコに移住したIT業務担当の社員がいました。日本時間の夜に、彼女に仕事を依頼すると翌朝にはできていて、すごく生産性が高まったんです。マッチさえしていれば、場所はどこでもいいという点でいうと、海外だけでなく福岡や愛知、札幌など、地方で働いているメンバーも在籍していました。
多様性のある働き方を実践していただくことで、将来的にさらに多くの社員が自身のキャリアをもっと自由にデザインできるようになることで、会社としても自律したプロフェッショナル人材による高付加価値なサービスを提供できるようにしていきたいですね。
――木村さんご自身、ネットイヤーグループで日々、働いていてどのように感じておられますか?
実は私はもともと金融業界にいて、数年前に転職してきたんです。ネットイヤーグループに入社してみて、制度としてここまで「複業」が浸透しているのに驚きました。
ただ、今回の「カケモチ社員制度」でも、「副業」ではなく「兼業」としているように、「なんとなく副収入を得たい」という気持ちでやる「副業」は、本業に還元できるとは考えていません。主従ではなく、どちらのキャリアにも愛と誇り、ビジョンを持って取り組んでいくことで初めて、私たちが期待する相乗効果が生まれるんだと思います。やりたいことがある人こそ、ぜひ、この制度を利用して、チャレンジに踏み出すための土台にしていただきたいですね。