Paranaviトップ お仕事 起業/独立 「このままママだけの人生?」女性のモヤモヤ解決で始めた事業は、ウィズコロナでどう進化していくか?

「このままママだけの人生?」女性のモヤモヤ解決で始めた事業は、ウィズコロナでどう進化していくか?

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出産・育児と仕事の両立という自身の体験から「ママだけの人生」ではなく「自分の人生」をスタートしたいと女性のエンパワーメント支援に本格的に乗り出した矢上清乃さん。女性のための学びのコミュニティを「学び舎mom」として運営・起業し、軌道に乗せてきたところでコロナという状況変化が! 法人を対象とした持続化補助金申請という大変な作業をプロボノで支えたのは、グロービス経営大学院を卒業した黒田真由さんでした。女性のための未来に向けて進む矢上さんの活動を黒田さんとの関わりも交えてお聞きしました。

みんな自分の夢に蓋をしてママ人生を送っていた

――「学び舎mom」には、矢上さんご自身の出産・育児の時の体験から立ち上げた前身のコミュニティがあったそうですが、それはどんなものだったんですか?

矢上  リーマンショック真っ只中の2008年当時、切迫早産で出産しました。私は日本IBMに勤めていたんですが、1年間の育休中に上司が4人も変わり、リストラの嵐も吹き荒れてちょっと鬱になりそうな中、会社はほとんど助けにならなかったんです。そんな時に精神的な回復を助けてくれたのは、近所のママ友や行政の仕組みでした。

さらにその後、夫の単身赴任が重なってほぼワンオペの状況に。会社か育児かどちらかという選択肢しかない生き方に疑問を持った時に、かつて自分を助けてくれたママ友たちも同じ状況だということに気づいたんですね。それで2009年に助成金なども得て、親子両方が楽しむ暮らしのための「ママスタート・クラブ」というママ友サークルを作ったら、半年であっと言う間に何百人という人が集まりました。親子で一緒に楽しめるイベントなどの場も、当時はまだ珍しかったんです。

このママ友サークルを作って、1年ほどで参加が1000組にもなり、ボランティアも増えました。そこで集まったママたちも、みんな輝かしいキャリアの持ち主で、かつてはいろんな職業で活躍しいた方ばかりでした。でも、みんな自分の夢には蓋をして、出産後は「ママ人生」送っている人が多かったんです。ママ人生のスタートを応援するところから作ったサークルでしたが、自分の夢やキャリアを追いながら子育てはできないものだろうかという思いが強くなりました。女性が「自分の人生を送る」ための居場所づくりをミッションワークにしたいと思ったのです。

矢上さんJWLI集合写真

JWLI Bootcamp 名古屋での集合写真。 出典:JWLI Bootcamp

――大きくなったボランティア組織のマネジメントやミッションの実現をどうしようかと思っていた時に、JWLIでボストンでの研修に参加されたんですね。

矢上 はい、非営利組織の運営と海外留学という経験があったため、インキュベーターや社会起業家に学ぶ海外でのプログラムに興味を持ったんです。6期生として応募、合格後に、当時4歳の息子の育児を夫や両親の協力を取り付け、ママ友にも支えられながら、ボストンで1カ月研修を受けました。JWLIでは、大・中・小と非営利組織を視察。アメリカの非営利組織が、いかに企業や政府などを巻き込むのが上手いかというのを実感し、とても参考になりました。

ママ友サークルは、会員がもう3000人ぐらいと大きくなっていたのですが、本来なら何十万円の対価をいただいて受けるような企業の「100人のママの声を集めたい」といった依頼も、ちょっとしたお土産程度で応じたりしていました。そうすると、どうしても「企業の下請け」といった感じが出てきてしまって。アメリカの「非営利組織でもソーシャルセクターとして課題の最前線として立つ」という意識と大きな差があるのを感じましたね。

きちんとミッションを固めて、経済的にも回るような活動をし、ママの経済的自立をサポートしたい。そう思った時、ボランティア組織では限界を感じるようになったんです。

リアルイベント事業がコロナで打撃

矢上さんプレゼンの様子

JWLI Bootcamp 名古屋では主催者側として参加。 出典:JWLI Bootcamp

――そこで「学び舎mom」を立ち上げたのですね。

矢上 はい、当初の社名は「グローバルママ・ゲートウェイ」でした。ちょうど国の創業補助金が出るタイミングもあって、安く借りられる場所をママたちのコワーキングスペースとして利用するというプランで補助金をもらい、2013年7月に起業しました。

最初は「託児付きママの自習室」ということでの起業だったのですが、こうしたスペースは求められていたものの、有料でのニーズは厳しく、半年でセミナーや交流会開催などの業態に変えました。専業主婦や育休中の人は「このままの人生でいいのか」「これで食べていけるのか」というモヤモヤを抱えている人が多く、そんなニーズに応えられるキャリアカウンセリングや女性の自立に応えるセミナーを始めたわけです。

――自分の人生にモヤモヤを抱えた女性に対してのサポートがどのように事業になっていったのですか?

矢上 そんな時にセミナー登壇で出会った金融公庫から「主婦層をはじめとした女性の起業相談の集客に困っているので、何かやってもらえませんか」と声を掛けられて。SNSで声がけしただけでも1日で20名があっという間に集まったんですね。モヤモヤから一歩踏み出す、何をやりたいかを明確にするようなワークショップを開催したりしました。

さらに2017年5月に経済産業省の「女性起業家支援ネットワーク構築事業」の東海3県代表機関の事務局を受託することになりました。2年間で金融公庫や商工会議所など86機関の女性起業支援のネットワークを構築し、起業やパラレルキャリアなどいろんな働き方を知ってもらうという活動をしてきました。

進めていくうちに参加者の女性からお金をいただくto Cのビジネスモデルではなく、女性の起業ニーズを求める企業や自治体にスポンサーをしてもらうto Bのビジネスモデルに変えていきました。今は、パラレルキャリアや働き方の相談事業、ロールモデルのセミナー、などの起業支援などを行っています。ただ、事業のほとんどをリアルイベントでやっていたので、今回のコロナの影響が直撃してしまったんです。

――大変な状況を迎えられたところに、持続化補助金の申請のため、黒田さんがプロボノでサポートされたんですね。黒田さんは、矢上さんとJWLIで出会われたのですか?

黒田さんグロービス卒業写真

今回のプロボノに一緒に参加したグロービスの仲間との卒業写真。

黒田 いえ、実は私がMBAを取得したグロービス経営大学院で講師をしている柴沼俊一先生がJWLIプログラムのエグゼクティブメンターをしていたんです。先生は、グロービスの卒業生に向けて、学んだ経営を実践的な場でアウトプットする場として、プロボノでサポートしてみたい人を募集されていたんですね。

持続化補助金を受けるには、事業計画書の提出などを求められます。JWLIの卒業生は100人ほどいますが、そのなかで4社から持続化補助金を申請したいという希望があり、そのうち2社が選ばれて、サポートをすることになりました。

――事業計画書の作成は、どんなところが難しいのですか?

矢上 3月以降イベント開催が難しくなるなど、withコロナでどのような事業展開をすべきかを考えなければならないのに、日々、目の前の経営に追われて考えもまとまらず困っていました。

そんな時に、先ほどの柴沼先生の90分のセッションを受けて、ずいぶん考えがまとまりました。そして、やはり、事業計画の作成にはアイデアの壁打ち相手やアドバイスが必要だと実感し、JWLIに継続的なサポートを求めて黒田さんをご紹介いただきました。

「助け合いのマッチングで事業をサステナブルに

――黒田さんがアドバイスされた点や、黒田さんにとってのメリットは?
黒田
 経営者から事業プランをアウトプットとして出してもらうと本当にたくさんのものが出てくるのですが、もちろん全部やることはできません。やりたいことの中で何を残し、何を切り捨てていくか、優先順位をつけて絞りこんでいくことをアドバイスしました。経営者の方はアイデアも豊富で、いろいろやりたい! という情熱に溢れている方が多くて、逆に切り捨てていくのがなかなか難しいんですね。私としては、2019年2月に事業コンサルタントとして起業もしたところだったので、理論として学んだことが実践で試せる場をいただけて、ありがたかったです。

コロナの状況下、イベントなどをオンラインに置き換えていく際には、何をするか。宣伝にはyoutube を使おうとか、その作り方や予算感も一緒に考えました。実務的には5月末に初めてオンライン上でお会いしてから、6月5日には提出という超タイトなスケジュールでしたが、なんとか最終的に書類にまとめることができ、無事伴走することができてホッとしています。

矢上 プロボノやボランティアというと、どうしても「無償で捧げる」というイメージですが、単な人手の1つになってしまうと長続きはしません。そこには、「この人じゃないと」というリスペクトがあって初めて成立するもの。今回は、まさしく黒田さんにしかできないサポートをやっていただきました。

その結果、中小企業庁の「小規模事業者事業化補助金」「コロナ特別対応型(第2回締切分)」の補助事業者に「親子向けオンラインイベント開催のインフラおよび体制の構築」として無事採択されました。これを足がかりに、コロナで打撃を受けた事業を進化した形で進めていけます。わずか1週間で提出できたのも、黒田さんたちとの出会いのおかげです。

グロービス柴沼先生との集合写真

今回のプロボノの呼びかけ人でもあるグロービスの柴沼俊一先生(真ん中)

――今後はこの関係をどう生かしていきたいですか?

黒田 私たち個人のつながりはもちろん、グロービスやJWLIといったイノベーションに積極的なコミュニティ同士のつながりがあることで、助け合いのマッチングが継続的に続けられるといいですね。この関係がプラットフォームになることで、多くのビジネスをサステナブルなものにする。そうすることで、私たち自身もグロービスで学んだ恩を返していけるようにしたいですね。

矢上 落ち着いたら、黒田さんとJWLIとしての報告会をしたいと話しています。JWLIの中でも情熱を持ちながらやっているけれど事業としてやっていくのは大変という人も多く、そこに黒田さんのように経営を学んだ上でのアドバイスというのはとても役に立ちます。そうした出会いの場になって、お互いがプラスになっていけばと思っています。

矢上清乃(やがみ きよの)●学び舎mom株式会社代表取締役。米国テキサス州立大学オースティン校にてMBA取得。金融情報サービス、日本IBMにて製造業コンサルティング、マーケティング業務等に従事、2009年育児休業中に親子支援団体(名古屋市の最大級の団体ママスタート・クラブ)を立ち上げ、事業推進のために2013年創業。日本財団のママインターン事業、経済産業省の女性起業家等支援ネットワーク構築事業”Myスタイル起業”の受託等を経て女性のライフステージに合わせたキャリア支援、活躍推進事業を展開中。夫の単身赴任中5年の名古屋でのワンオペ育児生活を経て埼玉へ転居し家族3人暮らしながら月の約1/3を名古屋へ出張する2拠点生活中。JWLI2012年卒業生、JWLI Bootcamp名古屋2019共催。

黒田真由(くろだ まゆ)●MooN SHOT株式会社代表取締役社長。グロービス経営大学院にてMBA取得。富士ゼロックス子会社で法人営業のキャリアを積んだのち、AIG及び国内生保でLearning & Developmentを担当。インストラクショナルデザインモデル(「学習」と「成果」を結びつけるトレーニング開発モデル)に基づいたニーズ分析、プログラムデザイン、教材開発、トレーニング実施に従事。カスタマーセントリックカルチャーの醸成、Relocationに伴う採用・社員及び管理者教育・パフォーマンスマネジメント・オペレーションプロセスのスタンダード化などに携わる。2019年グロービス卒業後に独立し、現在は国内保険グループの業務移管プロジェクトにトレーニング領域のコンサルタントとして参画中。

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小野アムスデン道子
Writer 小野アムスデン道子

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