コロナ禍をきっかけにリモートワークが加速し、場所や時間にしばられない働き方が浸透しつつあります。副業やパラレルキャリアを考える女性が増えた一方で、「興味はあるけど、始め方がわからない」「自分にできるのか自信がない」と不安な声も聞かれるようになりました。働く子育て女性の「個」としての幸せを探求するメディア『Molecule(マレキュール)』編集長・井上千絵さんと、これからのパラレルキャリアのあり方、新たなキャリアを踏み出すヒントについて、パラナビ編集長の岡部が対談しました。
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「個としての」幸せを考えようという思いからスタート
井上
ありがとうございます。マレキュールは、英語で「分子」という意味。分子=必要最小単位=私の「個」としての幸せを考えよう、というメッセージを込めて2018年に立ち上げました。
岡部
「個としての幸せ」、すごくいい言葉ですね! 選択肢が多い今の社会、「個としての幸せ」はまさに人それぞれ。そこが曖昧なまま人と比べてしまって、悩んでいる女性も多いように感じます。
井上
はい。でも、「家族として」「親として」どうあるべきかはよく語られるものの、働く子育て女性の「個」としてのやりがい、楽しさには当時そこまでフォーカスされていない世の中でした。
子育てや介護など、家族のために考えることももちろん大切だけれど、まずは女性に自分軸で生きることを楽しんでほしい。家族のために自分の何かを我慢したりすることではなく、自分軸をもって生きることが結果として家族の幸せにも還元され、伝わっていく。自分のキャリアや幸せについて考えるきっかけを、メディアで提供していきたいという想いで発信しています。
岡部
自分の人生をもっと楽しむ、というテーマはパラナビでも大切にしていることなので、とても共感します。
井上
パラナビさんでも、「パラレルキャリア」という軸で、働き方・生き方をカスタマイズして楽しむ女性像を打ち出していますよね。
岡部
パラナビでは、副収入のおこづかい稼ぎではなく、時間や場所にとらわれず自分のやりたいことにチャレンジする「複業」に近いものとしてパラレルキャリアを定義づけていまして。読者が新たな選択肢を一歩踏み出しやすいように、等身大のロールモデルを見せることにこだわっています。
井上
どういう経緯でメディアが立ち上がったんでしょうか?
岡部
きっかけは、友人たちと女性起業家コンテストに応募したことです。以前一緒にお仕事をした方が審査員を務めることを知り「面白そうだな」と興味を持って。でも2年連続で最終選考に落ちてしまい……。2019年に「女性のパラレルキャリア支援事業」を提案して、3度目の正直でグランプリを獲れました。
井上
すごいですね! なぜ、女性のパラレルキャリア支援事業をやろうと?
岡部
3回目のビジネスプランを考えていたときに、私たちがこうしてやっているような社外活動をサポートできるサービスがあるといいね、という話になったんです。当時、仕事が終わってから社外の仲間たちと集まって、よなよな新規事業を考えるのがとにかく新鮮で刺激的で。社会人になると毎日が自宅と会社の往復になりがちじゃないですか。それ以外にも頑張れる第三のフィールドがあると、人生がより楽しくなるんだと身をもって知りました。でも当初はメディアを立ち上げる構想はなかったんですよね。
井上
そうだったんですね。そこからメディアへはどういう経緯で変わっていたんですか?
岡部
最初は、副業したい女性と企業のマッチングサービスを考えていました。でも、事業を練っていくうちに、そもそもパラレルキャリアに関する情報が世にほとんど出ていないと感じたんですよね。新しい働き方に対して、「そんな選択肢を考えたこともなかった」「何から始めたらよいかわからない」というリアルな声もたくさん聞いて。
井上
たしかに、会社と自宅の往復だけでは得にくい情報かもしれませんね。
岡部
女性は特に、結婚や出産などのライフイベントにどうしてもキャリアが影響されがちです。場所や時間にしばられず、世の中の女性にもっと自由で柔軟に仕事を楽しんでもらいたい。そんな思いや実践的なノウハウを届けたいと生まれたのがパラナビなんです。
目の前の仕事に全力を尽くせば、仕事がどんどん広がっていく
井上
コロナの影響でリモートワークが普及して、従来のような働き方の前提が崩れつつありますよね。同時に、副業やパラレルキャリアに興味を持つ人が増えたと聞きます。私自身も感じますが、パラレルキャリアとして複数の仕事を持っていると、「事業の1つを手放す」という判断が自分の意思でできるんですよね。もしその事業だけで自分の仕事を回していたら、辞める勇気がなかなか出ないかもしれません。
岡部
「手放す」という選択肢が持てるのはいいことですよね! いつでも辞められるけどそれでも続けているというのは、「やりたい」という自分の意思があるからこそ。仕事に対して能動的にコミットしていれば、アウトプットや生産性がまるで変わってくると思います。自分のやりたいことで成果を出して周りの役に立てたら、全員がハッピーですよね。経済的にも精神的にも自立した人生を楽しめるのが、パラレルキャリアの醍醐味だなって感じています。
井上さんは、パラレルキャリアを始めたきっかけは何だったんでしょうか?
井上
きっかけがあったというより、気づいたらパラレルキャリアになっていたというのが正しいかもしれません。テレビ局を退職してPRで独立した当時は、再び会社員になる道をまったく想定していませんでした。
岡部
個人でのお仕事に加えて、会社員としても働かれているんですね!
井上
現在、週3会社員・週2フリーランスで活動しています。テレビ局時代の時間も体力も惜しまずコミットする働き方から一転、今の会社では「結果をきちんと出していれば、フルリモート・自由な勤務スケジュールでOK」というのが社長の考え。こういう働き方もあるんだと、新たな視点をもらえましたね。時間や場所に制約がなくなったことで、活動の場を広げやすくなっていって今の働き方になりました。
岡部
私も、気づいたらパラレルキャリアになっていたパターンです。出版社から転職したときに、前職の上司からレポーター兼ライターのような仕事を紹介されたのが最初でしたね。その後、勤めていたベンチャーではメディアの新規立ち上げをしていたこともあって、転職してからも「メディアの運営についてアドバイスが欲しい」と知り合いから声をかけていただくことが増えていったんです。今まで、継続的なメディアの運用支援から単発の編集・ライティング案件までいろいろお手伝いしてきました。
井上
人とのつながりの中で新しい仕事が生まれていって、それが結果パラレルキャリアになっていったんですね!
やりたいことを実現している現在と、夢に向かって歩んでいるという未来像を同時に実感できるのがパラレルキャリアのいいところですよね。私自身、会社員として10年以上働いてきた中で、現在と未来の両方をワクワク感じながら仕事をする、というのは奇跡に近い働き方なんじゃないかと思っていました。例えば、今やりたいことができていなくても、未来のために我慢してしまったり、今は楽しくても、将来の働き方に漠然とした不安があったり……。でも、それは「パラレルキャリア」という手段を選択することで比較的ハードル低くクリアできることなのではないか、と今の働き方になって考えています。
岡部
本当にそうですね! 私も、ずっと夢だった書籍の仕事がパラレルキャリアでできることになってそれを実感しています。これも以前、在籍していたメディアで連載を担当させてもらっていた著者の方から「今度出す書籍のライティングをぜひお願いしたい」と嬉しい依頼をいただけたことがきっかけです。当時は、取材から執筆まで全部自分でやっていて大変だったんですが、自分自身がその方の話が好きだということもあり、ほかのライターさんに依頼するよりも自分がいちばん上手く書けるという気持ちがありました。その経験のおかげで声をかけてもらえたのかなと思うと、あの時に頑張ってよかったです(笑)。
井上
いいエピソードですね。今のお話、まさにパラレルキャリアを始めるヒントがあるなと思います。「副業するには、まずクラウドソーシングに応募!」と考えてしまいがちですが、まずは目の前の仕事を一生懸命やって周りから信頼を得ていくこと。そして信頼を積み重ねることで、新しいチャレンジの場が生まれていくのではないでしょうか。
岡部
本当にそう思います。周りを見ても、「パラレルキャリアになろう!」と思って始めるより、本業にコミットしていたらいつのまにか活躍の幅が広がっていった人がうまくいってるなという印象です。
パラレルキャリアやフリーランスの世界では「SNSのフォロワーを増やして発信力をつけろ」なんてよく言われますけど、方法はそれだけじゃないし、苦手な人は無理してやらなくてもいいと思っていて。今の仕事をちゃんとやっていれば、それが誰かの目に留まって、次の仕事に結びつくチャンスが必ずあるはず。
井上
私も同感です。パラレルキャリアはあくまでも理想の働き方・生き方を実現するための手段。パラレルキャリアになること自体が目的になってしまうと、本末転倒ですよね。私の場合、働き方を自分自身で柔軟に選べるようになったことで、未来に向けてやりたい、叶えたいと思ったことも「いつか」にせず貪欲に挑戦できていると感じます。
岡部
パラレルキャリアに対して、「本業がイヤ、向いてないから始めるもの」というイメージを持たれることがあるんですけど、むしろそれだと失敗してしまうという話もよく聞きます。副収入を得るためだけではなく、時間や場所にとらわれずに自分のやりたいことにチャレンジできるのがパラレルキャリアのメリット。それをもっと伝えていきたいですね。パラレルキャリアとして幅広く働くうえで、気をつけていることはありますか?
パラレルキャリアは失敗と対策の繰り返し
井上
管理ツールを使って「この曜日のこの時間に何をやるか」をきっちり決めるようにしていますね。パラレルキャリアを始めたばかりの時期は、来た依頼を全部受けてしまいコントロールが利かなくなってしまって。これではダメだと、やるべきことをきちんとスケジュールに落とし込むようになりました。
岡部
失敗した経験があると、そこから学んで対策が打てるようになりますよね。私も、今でも失敗と改善の繰り返しです(笑)。
井上
岡部さんはいつもパワフルで、失敗知らずな印象があるので意外です。会社員と個人の活動を両立される中でどんなことを心がけていますか?
岡部
ダメダメな自分でもできるだけ、効率と生産性を高めるために意識していることは2つあって。よく言われていることですが、依頼や事務連絡が来たときにできる限り「即ジャッジ・即レス」ですぐ片付けるようにしています。それから「完璧を目指さない」ことですね。
井上
「完璧を目指さない」……というと?
岡部
私は考えるより先に行動することが得意で、反対に細かい経費処理とかすっごく苦手なんですよ(笑)。だから、それはもう得意な人にお任せしちゃいます。
気が重いことに取り掛かるのって、つい腰が重くなっちゃいますよね。でも、すべてを自分でやろうとせず潔く諦めることで、スピード感を持って得意な業務に集中できるんです。
井上
自分にしかできないことを生産性高く取り組むようにしているんですね。
岡部
はい。それに、私の不得意はきっとだれかの得意でもあると思っていて。得意な人にお任せすることで、それぞれが得意分野を活かし合える環境をつくっていけます。
井上
個人の強みを活かせるよう、チームで動くのもポイントだと。パラレルキャリアを始めることが不安な方も、まずは周りに声を掛けたり頼ったりしてみると、物事が良い方向に進みそうですね。
「私らしく生きたい」と願う、すべての女性に
岡部
固定観念に縛られず自分らしいキャリアを実現している人たちがこんなにたくさんいるんだと、マレキュールさんを読んでいて勇気をもらえます。パラキャリに踏み出そうとしてモヤモヤしている女性たちにぜひメッセージをください。
井上
ありがとうございます。パラレルキャリアは、理想の生き方を実現するための手段のひとつ。今の働き方・生き方にもし疑問やモヤモヤを感じていたら、まずは自分はどういう未来を求めているのか、何に今挑戦したいのか、棚卸しして言語化してみるとよいかもしれません。私は結果的にパラレルキャリアとなりましたが、これから先、選択肢を狭めずに柔軟な生き方・働き方をしていけたらと思っています。
岡部
パラナビでは読者同士で交流会を開いたり、定期的に情報交換をしたりしているので、今後イベント開催もご一緒できたらいいですね。つながりを深めていくことで、“働く”を自由に楽しむ女性をもっと増やしていきましょう!
岡部
世の中でパラレルキャリアに関心が高まる中、Molecule(以下、マレキュール)さんでは、肩書きや役割にとらわれず人生を楽しむ女性がたくさん登場されていますよね。井上さんご自身も、広報・PRとして独立しながら、メディアの運営やPRパーソンが集うコミュニティの主宰など幅広く活動されています。メディア立ち上げは、どういう経緯だったんでしょうか?