『自分のことは話すな』というインパクトのあるタイトルの著書が19万部ものベストセラーになっているイメージコンサルタントの吉原珠央さん。少し前に流行っていた「雑談本」と一線を画す内容は、まさに副題となっている「仕事と人間関係を劇的によくする技術」について、強い説得力をもって教えてくれます。その中には、もちろんパラナビ世代の女性も参考にしたいヒントがたくさん! タイトルとは裏腹に、ふんわりとした柔らかい語り口が印象的な著者の吉原さんに、仕事や人間関係をよくするために、すぐに実践できるコツについて教えてもらいました。
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話しかけるタイミングを見極める
――今の時代に、19万部の大ヒットはすごいですね! どのあたりが多くの人の心を掴んだのでしょうか? 読者の方からはどんな反応が来ていますか?
ありがとうございます! ずばり、タイトルのインパクトではないでしょうか。本には「読者カード」という感想文を書くカードを同封してあって、たくさんの方から返送いただいているんですが、読者の方の年代の幅広さにもびっくりします。10代から80代まで、中には95歳くらいで現役の営業マンという方もいらっしゃいました。
大きく分けると、2パターンの反応がありますね。1つは、自分のモヤモヤが晴れました! というもの。今までずっと身近な人が「話しすぎ」なことに多少なりともストレスを受けていて、それをよくぞ言語化してくれたという感想です。もう1つは、自分自身が稲妻に打たれたかのように気づかされたというもの。自分が「話しすぎ」であることに自覚的になって、これからはもっと丁寧に人の話を聞いていきたいです、という謙虚なご感想も多かったです。
これを読んで、仕事に生かしたいとか、今後の生き方を変えていきたいといった決意表明のようなものも多くて。あまりにもポジティブな反応ばかりだったので、編集さんに、これってひょっとして辛辣な内容のものは外していませんか? と確認してしまったほどです(笑)。
――それだけ熱いメッセージが来ると、すごく勇気づけられますね。世代も満遍ないのでしょうか? また、営業や接客をしている方にとってはすごく勉強になりそうな内容ですが、やはり、そういったお仕事の方が多いですか?
新書なので、40代以降の働いている世代の方が多いですね。男女比は半々くらい。営業や接客の方はもちろんですし、会社経営の方、主婦の方、就職活動や転職活動中の方、学生さんなどもいらっしゃいます。興味深かったのは、接客業の方からとそれ以外の方からの反応の違いです。
本の中に「話しかけるタイミングを見極める」という節があって、その中で「相手が今にも食べ物を口に入れようとしているときなどのタイミング」で相手に話しかけることは避けましょう、という話をしているんです。相手の状況をまったく考えず、自分の都合だけで話しかける人は、相手に対して、「配慮がない、気が利かない、興味がない」というふうに思われても仕方がないということを書いたんですね。
接客業の方からは、自分がいかにお客様のタイミングじゃないところで話しかけていたかという気づきがあったという感想をいただいたんですが、逆に接客業以外の方からは、吉原さんの視点は細かすぎるというお声も数件ですがございました。
もちろん、気にしない方もいるというのはその通りなんですが、私が伝えたいのは、もし、自分が逆の立場だったとき、自分自身がそれをしていないかどうかということ。
例えば、友人のホームパーティーに招かれたとして、ホストの方が大きな塊のお肉を切っていて、あともうちょっとで切れそうというタイミングで、イエスかノーで答えられない質問をしてしまうとか。
ちゃんと相手の状況を気にかけることができていれば、万が一そういうシーンがあっても「ごめんね、お肉を切ってるときに〜」という一言が言えるはず。それだけで、印象は変わりますし、むしろ良くなることもありますよね。
「気づいてもらえる」人になるほうがストレスがない
――細かいところで、「ごめんね」と「ありがとう」が言えるって、人間関係を円滑にするうえで本当に大切ですよね。
よく気がつくことで、相手にとって適切な反応ができるようになりますよね。「この人はなんで怒っているんだろう?」「この人はなんで困っているんだろう?」といったことがわからないと、重い荷物を必死で持っている人に、「素敵な洋服ですね〜」と声をかける残念な人になってしまいます。
ただ、むやみに褒めることがコミュニケーションではなくて、「ちょっとお持ちしましょうか?」と言えるどうか。それがすぐ仕事につながるというわけではありませんが、そういう配慮ができる人だということは、周りは覚えていてくれるんですよね。すると、何かあったときに、じゃああの人を紹介しようとか、チャンスが巡ってくる確率が高くなるんです。
――そういった気配りは、吉原さんのキャリアの中で徐々に身に付いていったのでしょうか?
そうですね。私は26歳まで大手企業で客室乗務員として接客業を経験した後、独立してからずっと個人事業主でやってきました。個人事業主って、良くも悪くも「吉原珠央」として評価されて、点数もつけられるし、収入にも直結するので本当にシビアなんです。そういえば、最近あの方から連絡が来ないな〜と思ったら、それは前回の仕事が良くなかったということ。
あとは、もともとの性格もあると思います。私、4人きょうだいの3番目なんです。3番目はわりと放っておかれやすくて(笑)。自分のことをアピールしないと愛情の言葉をかけてもらえないんですよね。どうすればもっと振り向いてくれるか、どうすれば喜んでもらえるかというのを人一倍考えていたかもしれません。
――自己アピールしないといけない状況で生み出された方法論が、結果的として「自分のことは話さない」になるのが、まるで「北風と太陽」のような話ですね。
まさに! もちろん、子どものときは、自分のことをストレートにアピールしていたと思うんですが、大人になって個人事業主の仕事をしていく中でそうなっていった感じですね。
パラナビを読んでいる方の中には、これから本業以外の仕事に踏み出そうとしている人も多いと思います。例えば、ハンドメイドのアクセサリーショップをするという場合、きっと1人でも多くの人に売ろうと思って、たくさんの人に笑顔を振りまいてアピールしなきゃって思うかもしれません。
でもそれよりも、たった1人の人からでも「新しいこと始めたの?」とか「今忙しいの?」と聞いてもらえるチャンスを作るために、日頃から丁寧なコミュニケーションを心がけていくことが大事です。
自分から「アクセサリー売ってまーす!」というやり方ではなく、誰かから「かわいいね、それどこの?」と気づいてもらえる人になる。その方がよっぽど購買・購入の可能性が高いので、そちらを頑張った方がストレスがないですよね。
――会社以外でお仕事をしていると、個人の名前を売らなきゃというプレッシャーもあって、SNSなどで自分から強くアピールしなきゃいけないと思っている人も多いです。
もちろん、フォロワー何万人というのを目標にしていい人もいます。例えば、SNSで広告の仕事を受けたいという場合は、ワンフォロワー1円としたら、1人でも多い方がいいですよね。
ですが、最終的な目的は何かと考えたときに、フォロワー数が多いことが目的ではない人の方が圧倒的に多いと思うんです。重要なのは、どれだけ本気の人を捕まえられるか。例えば、私の場合は本気で私のことを好きになってくれる人が10人いれば仕事が成り立つんです。でも、ただなんとなく吉原さんのことが好きという程度の人が1000人いても、その人たちはおそらく、私にお金を託してくれるまでの関係性にはならないんです。
なので、みんなの人気者になる必要はありません。本当に自分のことを求めている人との深いマッチングが何件あれば仕事として成り立つかと考えると、SNSで欲張りすぎなくても、うまくいくのではないでしょうか。
「空白を埋めるため」の雑談はもったいない
――「自分のことは話すな」を読んでいない人にも簡単にできる仕事や人間関係のコツがあれば教えてください。
1つは「好かれる人より少し緊張させる人」を目指すこと。ここは、読者カードでもトップ3に入るほど、実践したいというご感想を多くいただきました。「緊張させる」という意味は、怖いという意味ではなくて、明るくて穏やかで、柔らかい感じの中にも、1つでいいから何か徹底している芯を持っていること。
例えば、会社員時代に一度も上司のリクエストに対して、「いや、それはできません」と言ったことがありません、なんていうのでもいいんです。人から見て、この人すごい! って緊張させる何かを自分で一生懸命見つけるといいです。
2つめは、「アピールじゃなくて提案せよ」ということ。これは、私の失敗談でもあるのですが、20代のときに知り合いの人に、ある会社の社長をご紹介いただいたことがあったんです。
その場に行く前には、「吉原さん、あそこの会社は勢いに乗っているから、きっと任せてもらえるよ」と言って、連れて行ってもらいました。ですが、当時の私は話を聞くのが精一杯で何も伝えられずに終わってしまいました。すると、後から「なんで何も言わないの?」と怒られてしまって。
――確かに、すごい人の前で自分のことを話すのは緊張するし、何を喋ったらいいかわからなくなってしまいますよね。
思い返せば、自分のことをアピールする必要はなくて、ただ目の前の人のために何が役に立てるか、という提案をすればよかったんですね。提案があれば、それはもう十分アピールになります。提案というのは、決して自分がこういう経歴で大手企業で○年働いていて〜ということではありません。
「今の私なら、これだけの期日をいただいて、これだけの価格をお支払いいただければ、ここまでのことができます」「ですが、ぜひ実績にさせていただきたいので15%オフのこの価格でいかがでしょうか?」と、その人のためだけに伝えることができれば、それが提案です。
チャンスは2度ありません。1回目で提案ができなければ、次につながらないかもしれない。会っているときにすべて言えなくても、「よろしければメールでも資料をお送りいたしますので、ぜひ一度ご検討ください」と言えればいいんです。そうすれば、忙しい相手だったとしても、この人は1回のミーティングでここまで準備してくれたんだ、と助かりますよね。
ただの「雑談」で終わってしまうのは、お互いにとってちょっともったいないですよね。ただ、空白を埋めるために天気の話をしただけで終わってしまっては、結局その人との貴重な時間も、相手のことを何もわからないままですよね。いつも、その時に会っていることが、どういう目的かということを意識しておくことが第一歩なんだと思います。
吉原珠央 (よしはら たまお)● 短大卒業後、某国内航空会社で客室乗務員として約4年間勤務。退社後に英国留学。帰国後、証券会社IR部門勤務での経験でプレゼンテーションの重要性を感じたことをきっかけに、プレゼンテーションを専門としたコンサルタントとして2002年より独立。企業や団体向けの講演、研修、また企業や個人向けのコンサルティングなどを行っている。受講者が体を動かして参加するオリジナルのトレーニングメソッドに定評があり、今までにない講演スタイルを確立している。AICI(国際イメージコンサルタント協会)NY支部会員を経て、十文字学園女子大学の非常勤講師として「キャリアプランニング」の担当経験など。著書にベストセラー『「また会いたい」と思われる人の38のルール』、『人とモノを自由に選べるようになる本』(ともに幻冬舎刊)など。新刊『その言い方は「失礼」です!』(幻冬舎新書)が9月30日に発売!