兵庫県の南、瀬戸内海に浮かぶ淡路島。穏やかで温暖な気候と豊かな自然、美味しい食べ物に恵まれた淡路島は、その過ごしやすさから「兵庫県のハワイ」とも呼ばれるほど。2018年、人材大手のパソナグループで働いていた4人の若手メンバーが東京からこの淡路島に移り住み、“農”を通じた持続可能な社会の実現を目指す「タネノチカラ」という新会社を設立しました。
Contents
“想像できる未来”に違和感を持った
「タネノチカラ」が取り組んでいるのは、島にある耕作放棄地を、3年以内に1,000種類以上もの多様な生物が共生する豊かな土地にしようというプロジェクト。その場にある土を使った家をその場に集まった人達と造ったり、無農薬無肥料の自然栽培農に取り組んだり。日々「共創循環型ファームビレッジ Seedbed(シードベッド)」の構築に取り組んでいます。
メンバーの1人、金藤早貴さんは関東圏の出身。移住する前は淡路島の場所さえわからなかったと言います。
「入社6年目でここに来るまでは、営業や人事(新卒採用)の仕事をしていました。ごく普通のOLとして東京で働いてたのですが、結婚をして子どもを産んで、働きながら子育てをするという“想像できる未来”しかないことに違和感を持って。このままなんとなく人生が過ぎていくのはもったいないんじゃないかって思ったんです」
東京時代からは、まさに“想像できない”生活を送っている金藤さん。朝8時には畑の水やりや畝を整える作業をして、それが終わればデスクワークで同社が提供する体験型研修のプログラムを考えたり……、かと思えば、イノシシに荒らされてしまった畑のケアをしたり、毎日同じ仕事はない状態。
「もともとは、ヒールしか履いたことがないくらいの“シティガール”。振り返れば、ここに来るまでは一般的に正解とされるような生き方しか選んでこなかったように思います。いろいろなことを試したりして失敗もしながら実験して生きている今は全力で生きているな、っていう感じがします」
「多様性」が新しいものを生み出す
金藤さんたちが作ろうとしている「Seedbed(シードベッド)」は、都会の「衣食住」の当たり前を見つめ直すきっかけを提供する施設として、様々な体験や宿泊のプログラムを提供しています。その一つが、淡路島の土でできた「アースバッグハウス」と呼ばれる建物を作るプログラム。白くてかわいらしいお家は土嚢袋を積み上げて土台を作り、砂利や石灰などで固めてできたものです。
「アースバッグハウス」を取り囲む、あえて整えていないという畑には青々とした草が生い茂っていて、ちらほらと何種類かのお花も咲いています。
「“農”はゼロからの初めての経験。地元の人や栽培に詳しい人に教わりながら、日々試行錯誤しています。カボチャだと思って育てていたらヒマワリだったり、ジャガイモがイノシシに食べられてしまったり、ハプニングも多いです(笑)。その中でも、例えば、パプリカは単体で育てるよりもインゲンと一緒に育てると、互いの成長によい影響を与え共栄しあって、お互いによりよい実がなる、など発見もありますね」
畑だけでなく、多様な存在が共生して、エネルギーが生まれているのは「タネノチカラ」メンバーも同じだと金藤さんは語ります。
「ここには本当にいろんな人がいます。家族みんなで移住してきた人、奥さんと子どもを置いて単身赴任してきた人、旦那さんだけ置いて、子どもと一緒に来た人、そして独身の私。みんな違う価値観で、バックグラウンドもバラバラ。フラットな関係性で、流行りのティール組織みたいな感じです。みんな違ってみんないい。だからこそ、新しいものが生まれるんだと思います」
周りがちょうど結婚ラッシュで東京には頻繁に行き来しているという金藤さんは、淡路島との対比ができるからこそ、都会の良さも実感するそう。「どちらか」ではなく「バランス」が重要と話す金藤さん。多様な価値観こそ、正解のない人生を何倍も楽しむのに必要なものなのかもしれません。