磯川涼子さんは、3児のママにして、星野リゾートOMO大塚の総支配人。ホテル業と育児の両立……、想像するだに超! 多忙な毎日を送っているにもかかわらず、そんなことを微塵も感じさせないおっとりとした雰囲気をまとっている磯川さん。ホテルの総支配人と言えば24時間気が抜けなさそうに思えるのに、いったいどうやって? そして、今までどんな人生の歩き方をされてきたかを伺いました。磯川さんの登壇するパラナビ1周年オンラインイベント 「幸せの正解は一つじゃない!」はこちら。
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最初はずっと働き続けるという気はなかった
――新卒で入社されて以来ずっと星野リゾートで働いてきて、今では総支配人にまでなられているのですが、そもそもどうして星野リゾートを選ばれたんでしょうか?
私は2000年入社なのですが、1999年と言えば超就職氷河期時代。もともとサービス・接客業に興味を持っていたので、就職先はホテルかな? と考えていたものの、採用自体が全然ない状態。とりあえず、合同説明会で小さなブースを出していた星野リゾートに名前だけ残しておいたら、後日会社説明会に呼ばれたんです。まだ新卒採用に力を入れはじめて4、5年というところで、星野代表が先頭に立って話されて、それがほかの大手ホテルの支配人による話とまったく違ったんです。
「なぜ弊社は、顧客満足度重視なのか」「いろんなステークホルダーにどう対応すべきか」といった話が、ロジカルで具体的でわかりやすく興味が持てました。まだ軽井沢にしか施設がなかった頃で、内定も出ていないのに何度も軽井沢に呼ばれて、ホテルプレストンコートって素敵だな……と観光気分でした(笑)。そのうち「社風がフラットで若いときからいろいろやらせてくれる」というところに惹かれて入社することに。
――入社してみてどうでしたか?
入社した時は、正直ずっと働き続けるという気負いもなかったんです。ですが、入ってみると、代表はじめグループ全体でガンホーな組織(※)、フラットな企業文化というのが浸透していて、仕事を続けやすかったというのがあります。社員それぞれが仕事を楽しみながら切磋琢磨もしていて、チーム一丸で仕事に臨み、共有する風土があるんです。最初の社員研修から、年一回の全社員集会(今はオンラインですが)で流れる動画にもこの「企業文化」は登場しています。
(※)ガンホー Gung-ho は、 アメリカ海兵隊で使用される、士気を上げるための掛け声で、がむしゃらで熱心に取り組むこと。ケン・ブランチャードの1分間モチベーションにて、成果を生む組織の理想的なあり方として提唱されている。ここでは、熱心に仕事を楽しみ、成果を生む組織という意味。
ライフイベントを考えて計画的に仕事を選択
――仕事を続けるうえで結婚や出産というライフイベントとの兼ね合いはどう考えていましたか?
よく、入社した時点で5年先を考えろと言われますが、若い頃はそこまで考えたくないものですよね。私も働き始めてから考えようという感じでしたが、2007年ぐらいに一度、東京に住んでいる人との結婚を考えたことがあったタイミングで、ちょうど2005年に「星のや軽井沢」の開業と時を同じくして東京営業所ができたので、東京に異動を希望し全社広報を担当したりもしました。
結局そのままゴールインではなく、結婚したのは入社してから9年目の2009年。異動の機会は一年に1回だけ。30歳にもなれば、ある程度ライフイベントとの兼ね合いを考えて仕事を選択していかないと、自分の思うようにいかなくなると思いました。
子育てでいうと私は「子供を産みたい」という思いがありましたが、子育てか仕事かという二者択一ではなく、それが両立できる前提で計画を考えていました。それは「仕事を続けたい」「仕事と私生活を両立している自分でありたかった」んだと思います。仕事をしている自分が好きなのかもしれませんね。出産時もいつ戻ってくるか、次の出産がいつかを宣言していました。
26、27歳とウェディングの衣装室マネジメントをして、仕事の面白さを知ったあたりからそう思うようになりました。私の場合は、ラッキーなことですが、2人目を産んだ頃から夫がフリーランスになって時間の都合がつきやすく、私の仕事への理解もあってサポートをしてくれるようになったんです。
ただ、子どもも増えてさらにサポートが必要になることを考えて、両親が住んでいる家の近くに住むようになりました。いろんなことに根回しを考えて行動するようになりましたね。
子育てのストレスは仕事で、仕事のストレスは子育てで解消する
――それにしても3人の子育てだけでも大変だと思います。どんな毎日で、ストレス発散などはどうされているのですか?
そうですね。10歳の長男、7歳の次男に5歳の長女がいる生活は、確かに常に忙しくてバタバタはしているので、起きるのは早くなりました。朝は5時前に起床、その代わり寝るのは子供が寝る時間に合わせて21時半です。子育てをするまでは、夜は12時すぎに寝て、朝は7時半に起きるという生活でした。
朝、子ども達が起きてくるまでに、宿題を見たり、連絡帳を片付けたりで。上2人は学校でのことはありますが、自分のことは自分でできるようにはなっています。でも、自分の時間は正直、通勤時間のみで、読書をするぐらいですね。ストレスについていうと、子育てのストレスは仕事で、仕事のストレスは子育てで解消している感じです、どちらもそのときに全力投入することで発散できるんです。
――ホテルの総支配人というと、ゲストも部下もいてものすごく長時間労働なイメージですが……。
ホスピタリティ業界の弊社もコンプライアンス(法令遵守)のために残業管理はきっちりしていて、余計な休日出勤や超過勤務などがないようにしています。今はそんな時代になっていますね。
土曜日が忙しいとか、不在の時はいろいろなことが起こるもので、学校の休みと合わせにくかったりはしますが。第一子が産まれた時には、すでにマネージャーになっていて、管理職の方が裁量労働はしやすいですよ。部下のスタッフは、どうしてもシフトには縛られますが、時間で出勤管理ができるので。
都市観光を打ち出す新しいブランド“OMO”を創造していく
――OMOは実際、画期的なホテルで都心にいながら星野リゾートの世界観が味わえるのがとてもいいですよね! アラサー世代の女性が多いパラナビの読者さんでも行ったことがあるという声を多く聞きます!
OMOは、星野リゾートではじめて都市観光を打ち出した、4番目のブランドになります。新しいブランドを創るにあたり、2年ぐらい先行してプロジェクトが進んでいました。私は開業半年前くらいから参加して、「旅のテンションをあげるホテル」というコンセプトをどう具現化するかということや、リーズナブルな価格にする分、備品から何からどこを削ってどこにお金を使うかなどチームで考えて工夫してきました。
町を楽しみ尽くすということで、MAPを作るという構想に加えて、ご近所を案内するOMOレンジャーを提案したり、お客様にどんな付加価値を提供したりするかを具体に進めていきました。星野リゾートの従来の施設では、ホテルの中での滞在に対して魅力づけをしてきたのを、OMOではお客様に街に出て楽しんでいただくために、街との連携も図りました。
また、スタッフを1からトレーニングしてDJナイトを始めたのも実験的な試み。今までにないカルチャーに挑戦しています。今年に入って20〜30代の女性のグル―プ利用が増えたのが、うれしいですね。
マネージャーとして大事にしていること お互い様という気持ち
――女性マネージャーとして感じておられることや、努力されていることはありますか?
よく子育てのことなどもあって「マネージャーはいつも早く帰る」とか言われませんか? と聞かれるのですが、それは「自分の貢献度がほかの人と同等だと感じられないから」だと思います。お互い様だとチームで感じられることが大事なんです。
女性支配人だから、ディレクターだから結婚できないとか子どもを持てないとかというのは、とても悲しいことです。そうなると、若い女性スタッフがマネジメントを目指すのに不安を感じてしまいます。そうならないように、お互いに譲り合えるというコミュニティづくりに努力しています。
――これから様々なライフイベントを迎えるパラナビ 読者へのエールをお願いします!
幸せの正解は、ほんとに一つじゃないと思います。仕事にしても子育てにしても“楽しんでやるのがいちばん”。会社勤務だけ、子育てだけと一方だけではない居心地のいい環境を作ることです。そのために、待っているのではなくて、まずは実現に向けて行動することですね。
磯川 涼子(いそかわ・りょうこ)●慶応義塾大学卒。2000年、新卒で株式会社星野リゾートに入社。ブライダル広告として広告事業に携わった後、ホテルブレストンコート衣裳美容ユニットディレクター、星野リゾート広報、星のや軽井沢スパユニットディレクター、界マーケティングユニットディレクタ―等、幅広い業務に携わる。プライベートでは3児の母として、 3回の産休・育休を取得。その後、社内立候補制度を経て2017年12月『星野リゾート OMO5 東京大塚』総支配人に就任。