ホワイト企業として有名な大手企業でエンジニアとして働いていた小島未紅(こじま みく)さん。学生時代から求めていた“安定した働き方”を手に入れたものの、残業中のブラの締め付けにストレスを感じるように。同時に自分のキャリアを見つめ直した結果、会社員を辞めてノンワイヤーブラ専門ブランドを立ち上げることを決意。コネなし、実績なしーー普通のOLだった彼女がどのようにして、日商1000万円を売り上げる人気ブランドを作り上げたのでしょうか。ゼロから事業を立ち上げるまでの背景、そしてプライベートとキャリアの両立に対する思いを聞きました。
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起業のきっかけは、OL時代に抱いていたにブラの悩み
――2014年に新卒で、離職率が低く福利厚生も手厚い“ホワイト企業”として有名な大手通信会社に就職されましたが、もともと大手志向だったのでしょうか。
中高校生時代から漠然と、「将来、結婚や出産をしてもキャリアを止めない働き方をしたい」と思っていました。だから就職活動でも、社内の制度が整っていて福利厚生も充実している大手企業を中心に受けることに。その中の一社にエンジニアとして入社しました。
おっしゃる通りホワイト企業ではあったのですが、私の所属していた部署は会社の中でも割と忙しい部署で。残業が多く、体のストレス、特に“ブラジャーの締め付け”が苦痛になっていました。当時からノンワイヤーブラはありましたが、地味なものがほとんど。気分が上がったりつけたいと思うようなデザインはなく……。「だったら自分で作ればいいのでは?」と思ったのが起業のきっかけです。
――とはいえ、安定している大手企業を退職して起業するのは、なかなか勇気がいる決断だと思います。
そうですね。そもそも退職する人は少ないですし、退職後に起業している人もほとんどいない環境でした。
ただ、自分の担当している業務が将来のキャリアにつながらないかもしれない、という不安を感じてはいたんです。というのも、所属していた部署は大きな社内システムの一部を開発するところで、携わる業務は限られていました。だから、もしほかの会社で働くことになった場合、自分のスキルや経験が役に立つイメージがなかったんです。
下着メーカーへの転職も検討しましたが、たとえ入社できたとしても、商品開発部に配属されて自分の作りたい下着を作れる保証はありません。なので最終的に「起業をするしかない!」という結論にいたりました。両親からは「もう一度考え直したら?」と言われましたが、私の挑戦的な性格は誰よりも知っているので(笑)、最終的には応援してくれました。
収入を安定させ、事業に集中するため派遣社員に
――入社2年目の2016年に退職するも、その後は起業準備と並行して派遣社員もしていたんですよね。
起業したからといって当然、すぐに商品が作れて、すぐに売れるわけではありません。収入を安定させて経営に集中できる環境にするため、商社で半年ほど派遣社員をしていました。
派遣社員を選んだ理由は2つあります。1つ目は、業務時間が14〜23時だったので午前中を自由に使えること。その時間を使って、融資に必要な書類を用意したりサンプル作成をしたりしていました。また、平日を1日休みにして休日出勤にしていたので、平日に工場や取引先へ出向くことができました。
2つ目は、社内行事に積極的に参加しなくていいこと(笑)。大手企業を退職して初めて、歓迎会や飲み会が苦手だと気づいたんです。実務以外に時間も気もつかうと、疲弊してしまいパフォーマンスが悪くなってしまう。派遣社員という適度な距離で社内行事から離れられたため、企業準備に集中することができました。
――「前職のスキルや経験が役に立つイメージがなかった」とおっしゃっていましたが、起業する際に前職の業務で活きたことはありましたか。
お取引先や扱っているサービスはまったく違いますが、“ものづくりに携わる”という点では共通しています。システム開発はざっくり、企画→設計→開発→納品というフローで業務が進行します。実は下着を作るフローもほとんど同じ。デザインの設計でつまづいたときは「どこに原因があったのか」を考えるとイメージが沸きやすいんです。だから、外部のデザイナーさんや工場への指示出しに困ることはあまりありませんでした。
あとはプログラミングをある程度習得していたことで、コーポレートサイトやサービスページの作成は外注せず、自分で実装することができたのも前職の業務が活きた点ですね。
部屋いっぱいにブラの在庫。「『売れなかったらどうしよう』と不安でいっぱい」
――起業から1年。2017年にノンワイヤーブラ専門ブランド「BELLE MACARON」をオープン。いざ発売、となったときの心境を教えてください。
工場選びからデザイナー探し、PRやマーケティングなどすべての業務を自分ひとりでやっていて、ずっと大変だったので「やっと販売できる!」という嬉しさはありました。それと同時に同じくらいプレッシャーもありました。最初に発注したのは200セットだったのですが、当時倉庫は実家の自室だったので、ブラジャーが部屋いっぱいに埋まっていて。「全然売れなかったらどうしよう……」という不安な気持ちはずっとありました。
――その心配をよそに、クラウドファンディングでは30万円の目標を達成し、100セットが完売。順調なスタートを切っていました。
ありがたいことに目標を達成することができました。ただ、クラウドファンディングは初期ファンを獲得するのが大きな目的なので、商品が長く愛されるために次の施策を用意しなくてはなりません。その「次の一手」をどうすればいいか、なかなかつかめずに苦戦しましたね。
当時はショッピングモールが全盛期だったので、私も出店していました。ですが、商品が1つしかない弊社は大手メーカーに埋もれてしまい、見つけてもらいにくい。アパレルと親和性の高いInstagramも活用してみたのですが、撮影できるレパートリーが少なかったためあまりパッとせず。1年半ほどマーケティングに苦しみました。
そんななか、活路を見出したのがTwitterです。2019年あたりからTwitterの口コミでD2C商品が売れる流れができていたので、本格的に運用してみることにしてみました。
「BELLE MACARON」はデザイン性のあるノンワイヤーブラというのが大きな特徴。「ノンワイヤーブラを求めている女性は、ブラに悩みを抱えているのでは?」という仮説を立て、自社製品の紹介だけでなく、ブラに悩みを解決するTipsも投稿するようにしました。
最初に感触があったのは、“ブラジャーの干し方”という投稿。当時フォロワー1000人ほどのアカウントにも関わらず、4.9万いいねつきました。その日に10万円ほど売り上げが伸び、「これだ!」と確信しました。その後もTwitterの運用を行い、今はフォロワー約1万7000人。下着に関する情報を積極的に提供し、商品の売り上げにもつなげています。
――事業が順調に伸びている中で、「将来、結婚や出産をしてもキャリアを止めない働き方をしたい」という目標には近づいていますか。
昨年、起業後に出会った会社員の男性と1年交際したのちに結婚しました。私の仕事はオンラインですべて完結できるので、たとえ夫が転勤になっても続けられます。また、ひとり経営者だからこそ、もし妊娠や出産などのライフイベントがあっても、無理のないよう進行を調整しながら事業を続けることができます。これからもライフスタイルに合わせながら、お客様に求められている商品を提供できるよう、自分のペースで事業と向き合っていきたいと思います。