読者の皆さんには、「自己肯定感を上げたい!」と思ったことがある方、いるでしょうか。私が、カウンセリングや診察の際にいちばんよく聞かれるのが「自己肯定感をあげるにはどうしたらいいですか?」という質問です。今回は、この疑問を一緒に解決していきましょう。
Contents
「自己肯定感」ってそもそも、何?
「自己肯定感って何ですか?」と尋ねられたら、あなたはどう答えるでしょうか。多くの方が、“自信があること”、“ポジティブに考えられること”と答えます。ネットで検索すると、「自尊心、自己存在感、自己効力感、自尊感情などの言葉が当てはまり、あらゆる肯定的な心理を多義的に包括している言葉」といった内容が出てきます。このように、自己肯定感という概念は、結構あいまいなものなんです。
では、自己肯定感の逆は何でしょう。これもネットで検索してみると、「自己否定感」と出てきます。自己否定と言われると、なんとなく「自分なんてダメだ……」とか「自分は何にもできていない」という感情が浮かんできそうですね。自己肯定感を上げたいと考える人の多くは、この「自己否定感」が強いことが特徴です。
この”自己肯定感は自己否定感の逆である”という視点で、もう一度、自己肯定感を考えてみましょう。そうすると、確かにさきほどの “自信”や“ポジティブ”が思い浮かぶのも納得いくと思います。(自分はダメじゃない)(私ならできる!)といった感情です。
さて、この気持ちを高めていくのが、本当に正解なのでしょうか?
自己肯定感とは「あらゆる自己を受け入れること」
私が考える自己肯定感の意味は、「ポジティブな自分もネガティブな自分も、(そんな自分もいていいじゃない!)と、全部まとめて受け入れること」です。よくポジティブシンキングって大事だよね、という話を耳にします。もちろん、ネガティブよりもポジティブな状態でいられるに越したことはありません。
しかし誰だって、24時間365日ポジティブ思考なわけではありませんよね。ネガティブな自分がいるのも当たり前。悲しい、辛い、疲れた、苦手、嫌い……こうした感情がまったくない人なんて、いません。自己肯定感を、先ほどのような(私はだめじゃない、できるんだ)という解釈で捉えてしまうと、マイナスの感情を押し殺してしまうことになりかねません。
最初のうちは、それでも頑張れると思います。でも、人間の体ってすごく正直なんです。無理やり自分を鼓舞していると、自分が感じているストレスに鈍感になってしまう。気が付いたら本当に何にも頑張れない、興味がわかないところまで気分が落ちてしまったり、起き上がれなくなったり、いきなり涙がぽろぽろ出てきてしまったりするようになります。それでは、自己肯定感を上げるどころか、反対に下がってしまうかもしれません。
だから、疲れたっていいし、自分のことを嫌いだっていいし、(私なんてだめだー!)って泣いちゃうときがあったっていいんです。そんな自分もいていいよね、とありのままの自分を肯定してあげる、受け入れてあげることが、本当の自己肯定感の意味だと考えてください。
自己肯定感を上げることは、ゴールじゃない
私は、「自己肯定感を上げよう」という類の自己啓発本が多く出回りすぎているのではないかと思います。こうした本のゴールは、「自己肯定感を上げること」ですよね? 実際、私が患者さんたちからよく受ける質問も「自己肯定感を上げるにはどうすればいいか?」です。
しかし、本当にそこがゴールなのでしょうか。大切なのは、「自己肯定感を上げてどうするのか、自己肯定感を上げて何をしたいのか」ということではないでしょうか。自己肯定感は上げようと努力して上げるというよりも、目標に向かって頑張る過程で自然と身につくものだと、私は考えています。
目標に向かって邁進する中で、少しずつ自分のできることとできないことがわかっていく。まずはそんな自分をじっくり見つめて、ありのままを受け入れる練習をする。ここですべてを受け入れることができないと、成長にもつながりませんよね。自分の現状を受け入れて、試行錯誤して少しずつ改善を図る。これを繰り返すことで、自信そして自己肯定感もおのずとついてくることでしょう。
自己肯定感は無理に上げるものではなく、気が付いたら上がっているもの、そう考えてください。
まずは、目標を言語化すること
前述したとおり、自己肯定感を高めるには、自分の目標をしっかり立てられていることが重要です。これ、「自分で立てる」ところがポイントで、人から言われた目標だと効果は半減します。
小学生の夏休みの宿題を思い返してみてください。先生からたくさん出された宿題を、親に「早くやりなさい!」と言われ、いやいやながらやる。終わったあと残るものは、ああようやく終わったー、疲れたー、という気持ちだけ。達成感のようなものは残りますが、そこで私は私でいいんだ、という自信なんてまったくつきません。自信をつけるには、能動的に自分で考えた目標に向かって頑張ることが必要なんです。
目標がわからなかったら、自分ごとに言い換えよう
とはいえ、なかなか自分の目標なんてわからないよ、という方も多いと思います。そういう方には、誰かに指示された内容を「自分ごとに言い換える」ことをお勧めします。
例えば、Aという仕事を頼まれたとき、頼まれたからやったのは事実ですが、これをやることで、自分がどんなふうに成長できるのか考えます。そうすると、このAという仕事に、ただ頼まれたというだけじゃない「自分だけの意味」が生まれます。ただこなすのではなく、自分の成長のためにやる。この“意味付けをする”という行動1つが、自己肯定感アップへの大きな第一歩です。
いつも100%の自信を持って行動しなくたっていいんです。完璧な人なんていないし、常にポジティブな人だっていません。まずは、ありのままの自分を受け入れてあげることを意識して、自分の気持ちを大切に生きていきましょう!
木村 好珠(きむらこのみ)● 精神科医、漢方医、産業医、健康スポーツ医。学生時代からタレント活動を始める。現在精神科医として常勤する傍ら、都内企業の産業医、ブラインドサッカー日本代表のメンタルアドバイザーを行なっている。最近は、アカデミー年代のメンタル育成の普及について積極的に取り組んでおり、レアル・マドリード・ファンデーション・フットボールアカデミーやMIFAサッカースクールのメンタルアドバイザーとしても活動中。