Paranaviトップ ノウハウ 制度/法律 男性育休 子育て支援事業家・千葉祐大さんに聞く、「男性育休がママだけじゃなく、会社のためになる理由」

子育て支援事業家・千葉祐大さんに聞く、「男性育休がママだけじゃなく、会社のためになる理由」

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2022年4月からスタートした改正版育児休業法。男性にも育児休業の申し出や取得がスムーズになるよう義務化され、企業側は男性も育休を取りやすい環境づくりを迫られています。ですが日本の現状は、まだまだ男性育休が定着しているとは言えない状況。今回の改正によって、男性育休が一般的になる見込みはあるのでしょうか? ベビーテックと呼ばれる分野で育児支援を行っていて、自身も子育て支援事業家として活躍している、ファーストアセント社・CMO千葉祐大さんに話を聞きました。

母親だけが育児をする時代は終わった

――最近では、「フェムテック」に続き、Baby(赤ちゃん)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた「ベビーテック」という言葉が注目されているんですね。どういったものが「ベビーテック」に含まれるんでしょうか?

男性育休・ファーストアセントCMO千葉さん

 ファーストアセント社は赤ちゃんの睡眠リズム形成をサポートする、
「スマートベッドライト ainenne(あいねんね)」などを開発している
出典:https://first-ascent.jp/

「ベビーテック」は、「CES」というアメリカで開催されている世界最大のテクノロジーの展示会で、2016年に登場した言葉です。2019年には日本でも「ベビーテックアワードジャパン」が開催されるなど、徐々に認知を広げてきています。

「ベビーテック」に厳密な定義はなく、私自身は、ママやパパの子育て負担を軽減して、生活を助けてくれるものならば「ベビーテック」と言っていいと考えています。例えば、ルンバや食洗機などもそうですね。より直接的な、わかりやすいところで言うと、赤ちゃんのうつ伏せ寝防止のためのベビーセンサーやベビーモニター、授乳室探索アプリや育児記録アプリなどがあります。

――ファーストアセントさんはベビーテック関連のプロダクトを開発しながら、最近では男性育休についてのセミナーも積極的に配信していますね。

当社では、「ベビケアプラスfor Business」という企業向けの子育て支援サービスを、4月の法改正に合わせてスタートしました。育児中でも働きやすい環境づくりのために企業側も求められることがある中で、多くの企業がまだ何もできていないというのが現状です。

私たちは「テクノロジーで子育てを変える」というのをミッションに掲げていますが、「子育てしやすい社会」を実現するためには、テクノロジーは手段の一つでしかありません。もはや、育児は母親だけがするものではなく、パートナー、ひいては社会全体でするもの。男性育休のセミナーは、テクノロジーだけでなく、意識の面からも子育てを変えられるような啓蒙ができればと考えて始めました。

男性育休・ファーストアセントCMO千葉さん

2人の女の子のパパでもあり、「子育て支援事業」をライフワークにしている千葉さん。

さらに私自身、子どもが2人いて、育休も2回取っている経験から、男性育休がもっと世の中に広まってほしいという想いがあります。当時から時代も変わり、男性育休もだいぶ浸透してきました。2022年4月には、法改正というターニングポイントもあったので、よりその社会の流れを加速させたいと思っています。

育休取得のハードルになっている「罪悪感」

子どもの手を握る大人の手

――一方で、世の中には、まだまだ男性育休が取りづらいという声も多く聞きます。

実際には、男性育休の法改正自体、2022年3月末時点では知らない人が8割もいたという新聞社の調査結果(※)もあります。一方で、企業の担当者も、認識はしていても、具体的に何から手をつけたらいいかわからないという状態だということも多く聞きます。

(※)出典:朝日新聞デジタル  https://www.asahi.com/articles/ASQ3X5RH8Q3XULFA00T.html

――いちばんの壁はなんだと思いますか?

ベビーテックもそうですが、ベビーシッターや男性育休が広まらない理由の根底には、「罪悪感」という日本独特の共通点があると考えています。ベビーシッターに関しては、補助金や助成制度などもあるものの、利用率はそこまで高くありません。また、男性育休に関しても、日本の法制度自体は実はすごく充実しているんです。

どちらも、論理的に考えれば、利用できるなら利用した方がいい。なのに、浸透していないのは、「育児は母親が頑張るものだ」「親世代と違って楽しようとしている」といったプレッシャーや同調圧力に対しての罪悪感があるからです。そのために、選択肢として上がってきづらい。そういった心理的ハードルを払拭しないと、現状はなかなか変わらないと思います。

――今後、少しずつでも変わっていく見込みはあるでしょうか?

会社に関しては、変わっていかないと、相対的に採用力が落ちてしまうリスクがあります。実際に、転職エージェントの方に話を聞いていると、ここ数年で育児休業中の方の転職活動が増えているそうです。復帰して育児をしながら働くのに、週5出社をしないといけないなどの労働条件があると、同業界の働きやすい他社に目移りしてしまいますよね。テレワークしやすい会社は、コロナ禍で増えているので、そういった会社に人材が集中してしまう可能性はあります。育休の取りやすさに関しても同様です。

多様な人材が働きやすいような環境を整えることは、既存の従業員に対しても離職率の低下につながります。また、強調したいのは制度と空気の両方が必要だということ。先程の話にもあったように、制度だけ整えても、心理的ハードルが高いと意味がありません。

「選ばれなくなる」のは国も企業と同じ

育児をする父親

――「言いづらい」空気を変えていくのは、なかなか難しそうですね。

私自身、過去2回の育休は、ITベンチャー企業で取得しましたが、その企業では初めての男性育休となりました。当時、私はマネージャー職だったのと、すでに子育てに関する発信をしていたので取ることができましたが、これが新卒や若手の立場だったら、さすがに言い出しにくかったと思います。

その会社の空気は、結局は、マネージャーや経営陣の考え方が変わらない限りは変わりません。従業員満足度を上げることで、一人ひとりのパフォーマンスも上がり、企業としてのサステナブルな成長につながる。それに経営者が気づくことが重要です。

実際、男性育休が浸透している会社は、そのほかの面でも変化への対応が速く、労働環境への投資も積極的に行なっている印象です。フルリモートはもちろん、自宅のオフィス環境の整備を会社の福利厚生で補助していたり、経営者自身が男性育休を取ったことをnoteで発信していたりする会社もあります。

――男性育休の普及を促すためにはどのようにすればいいとお考えでしょうか。

大きく3つあると考えています。1つは、男性育休を取得した人がもっと情報発信をしていくこと。実際に、男性育休を取得している人というのはまだまだ少数派ですし、体感した人が身近にいなければ、どんなものかわからないままです。体験談が広がっていけば、興味を持って、行動に移す人も増えていくはず。

もう1つは、「取るだけ育休」にならないようにすること。せっかく育休を取ったのに、料理も洗濯もできないようでは、ママにとっては子どもが一人増えたのと同じ状態です。「育休をとる」というアクションをしたのであれば、少なくとも「何かをしたい」という気持ちはあるはず。男性側にしてみれば、「何をしたらいいか教えてほしい」という人も多い。

そういったことを防ぐためには、子どもが生まれたら何をどうすればいいかということを男性も予め知っておくことが必要です。私も2人目の子育ての時は、1人目の時に比べてだいぶ楽になった印象があります。経験や知識があれば、子育てのハードルはぐっと下がるのです。 

最後に、これは個人ではなく、国や社会が率先して「罪悪感」をなくしていくこと。4月の法改正によって、人事担当者の意思確認が義務付けられました。フランスでは父親の育休に関して、取得義務に違反した企業には罰金が課せられるようになっています。罰金や罰則が必ずしも正しいとは限りませんが、ここまで明確に旗振りをしてくれていると、国策として男性育休に取り組んでくれているということが国民にも伝わってきます。

「働きやすさ」によって、選ばれるかどうかは国も企業と同様です。魅力が下がれば他社に転職してしまうように、海外に流出してしまう人材も増えていくでしょう。4月の法改正をきっかけに、制度だけでなく、こうした空気も少しづつ変わっていくことを期待しています。また、そのために私たちも引き続き、情報発信をしていきたいと思っています。 

千葉 祐大(ちば ゆうた)●子育て支援事業家。2児の娘のパパ。現職は株式会社ファーストアセントCMOおよび、株式会社BabyTech&Community 代表取締役CEOも兼務。他、株式会社グースカンパニー取締役など複数兼務する複業/パラレルワーカーでもある。プライベートでは「日本愛妻家協会」や「一般社団法人PtoC」等、複数のコミュニティに所属。育児セラピスト1級認定講師。

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岡部 のぞみ
Writer 岡部 のぞみ

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