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【罰則あり】「フリーランス保護新法」で発注者に課せられる義務と7つの禁止事項

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2023年4月28日に国会で「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」、通称「フリーランス保護新法」が成立しました。フリーランス(受注者)と事業者(発注者)の取引を適正化し、フリーランスの労働環境を整えることを目的としたもので、2024年秋には施行される予定です。この法律によって、具体的に何が変わるのでしょうか?ポイントをまとめました。

規制対象になる取引には条件が

フリーランスは近年増加しており、ランサーズの調査(※1)によると2021年時点で1,577万人います。同年の日本の労働力人口が6,867万人である(※2)ことを踏まえると、今やフリーランスは一大勢力となっていることがわかります。

一言で「フリーランス」といってもいろいろな職種がありますが、フリーランス保護新法における定義は以下です。

  • フリーランス:業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの
  • 発注事業者:フリーランスに業務委託をする事業者で、従業員を使用するもの

この定義に当てはまる「フリーランスと発注事業者が行う、業務委託の取引」が、法規制の対象になります。

そのため、フリーランスと一般消費者の取引(例:フリーランスのフォトグラファーが有償で友人の家族写真を撮影する)は対象外です。従業員のいない事業者とフリーランスの取引も対象外となります。また、フリーランスが個人事業主であるか法人であるかは関係ないため、注意が必要です。

なお「従業員」とは、「週当たりの労働時間が20時間以上で、かつ31日以上の雇用が見込まれる者」を指します。労働時間が短い従業員や、短期的・一時的に雇用する従業員は含みません。

※1出典:「新・フリーランス実態調査 2021-2022年版」 ※2出典:総務省統計局「労働力調査 令和3年平均結果の概要 Ⅰ 基本集計」

発注者には、いくつもの事項が義務付けられる

フリーランス保護新法の施行後は、発注事業者にいくつかの義務が課せられることになります。その具体的な内容を、目的別に整理しました。

「取引の適正化」のための義務2つ

フリーランス保護新法の大きな目的である「取引の適正化」。これを実現するため、発注事業者には2つの義務が生じます。

  1. 書面やメールなどで「委託する業務内容」「報酬額」「報酬の支払期日」などの取引条件を明示すること
  2. 業務が完了した後、60日以内に報酬を支払うこと。フリーランスが2次請けの場合は、クライアントが発注者に支払った後30日以内に、発注者がフリーランスに支払うこと

1.について、資本金が1000万円以下の発注事業者は下請法の対象外のため、これまで契約書を取り交わす義務はありませんでした。フリーランス新法では資本金による縛りはないため、契約書が必須となることに注意が必要です。

「働く環境の整備」に向けた義務2つ

フリーランスが働きやすい環境を整え、より成果を発揮できるようにすることもフリーランス保護新法の目的です。そのために、発注事業者は2つの義務を負います。

  1. フリーランスがハラスメントを受けないよう、またハラスメントにまつわる相談をしたことなどによって不利益を被らないよう、対策を取ること
  2. フリーランスの募集をかける際、虚偽表示や誤解を招く表現をせず、募集内容を正確かつ最新のものに保つこと

2.は、実際の報酬額より高く表示したり、ごく一部の好条件の仕事を明示せずに記載するなどが該当します。逆に、両者の合意のもとで労働条件を変更する分には問題ありません。

継続して取引する場合の禁止事項7つ+義務2つ

一定の期間継続して取引する場合、フリーランスが特定の事業者に経済的に依存したり、それを利用した不当な扱いが横行したりする危険があります。それを防ぐため、以下が定められました。

取引が1カ月以上にわたる場合:7つの禁止事項

フリーランス側に責任がないにもかかわらず、以下のような不当な扱いをすることは禁じられます。

  • 納品物を受け取らない(受領拒否)
  • 業務のやり直しを命じる
  • 発注時に決めた報酬額を後で減額する
  • 納品物を受け取った後に返品する
  • 納品物を相場と比べて低い報酬で不当に買いたたく
  • 指定した物品の購入やサービスの利用を強制する
  • 経済上の利益提供を強制する

取引が6カ月以上にわたる場合:義務2つ

フリーランスの労働環境を整備する観点から、以下の2点が義務づけられます。

  1. フリーランスが妊娠、出産、育児や介護と業務を両立できるよう、可能な範囲で必要な配慮をすること
  2. フリーランスとの契約を解消したり中途解除したりする場合は、原則30日前までに予告すること。契約解除の理由を開示するよう求められたら、遅滞なく応じること

違反や検査拒否で、50万円以下の罰金が課せられる可能性も

フリーランス保護新法に違反した場合、国は発注事業者に「助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令」をすることができます。もし発注事業者が命令違反や検査拒否などをすれば、50万円以下の罰金が課せられる可能性があります。

上記の明確な基準や詳細について、現時点では不明です。ただし「両罰規定」といって、違反をした担当者や社員だけでなく、事業者全体にも罰金が発生することになります。発注事業者は企業全体で、定められる義務の内容や目的を理解しておく必要があるでしょう。

フリーランスの約4割が「トラブルに遭遇したことがある」

フリーランス保護新法が制定された背景には、フリーランスならではの「立場の弱さ」があります。フリーランスは基本的に業務を受注する立場で、また個人で活動していることが多いため、相対的に力関係が弱い状態にあります。

フリーランスを守る法律には「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」や「独占禁止法」があります。しかし、発注事業者の資本金に縛りがあったり、事件化のハードルが高く設定されていたりと、十分な効力を発揮しているとはいえません

事実、取引先との間にトラブルを経験したフリーランスは少なくありません。日本労働組合総連合会の調査(※3)によると、39.7%のフリーランスが仕事上のトラブルを経験しています。例えば「謝礼が期日までに支払われない」「報酬が一方的に減額される」「発注時に業務内容や報酬が明示されない」といったトラブルが代表的です。

トラブルは決して珍しいことではなく、また発注元から不当な扱いを受けたりトラブルに遭遇したりしても、フリーランスはその立場の弱さゆえ泣き寝入りせざるをえない状況なのです。

※3出典:「フリーランスとして働く人の意識・実態調査2021」

発注事業者もフリーランスも、現状を総ざらい点検しよう

上記の通り、2024年秋にフリーランス保護新法が施行されると、発注事業者にはさまざまな義務が生じます。まずは、フリーランスとの取引がどの部署でどのくらい行われているのか、正しく把握することが必要です。今回定められる義務に対応できていない箇所がないか、確認しておきましょう。

例えば、フリーランスへの報酬支払い期限は原則「納品から60日以内」と定められます。規定で60日を超えている場合、支払いサイクルの変更が必要になるでしょう。またフリーランス人材を募集している場合、求人として掲載している内容が古くないか、誤解を招く表現になっていないか、改めて点検する必要があります。

一方フリーランスも、予期せぬトラブルに巻き込まれないために、日常的に行っている取引や契約の内容を再度確認する必要があります。もしフリーランス新法の規定に違反する内容が含まれていれば変更の必要があるため、取引先に確認しておきましょう。

万が一トラブルに遭遇した際は、無料で弁護士に相談できる窓口「フリーランス・トラブル110番」を活用するのもいいでしょう。厚生労働省が設置した窓口なので、安心して利用でき、2023年度は6,723件の相談が寄せられています。

今、発注者と受注者がお互いに気持ちよく働き、適正に取引を続けられるよう、環境の整備が進んでいます。その第一歩となるフリーランス保護新法の施行に向けて、確認と準備を進めていきましょう。

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さくら もえ
Writer さくら もえ

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