Paranaviトップ お仕事 起業/独立 ボランティアでの経験が開発のきっかけに。現役大学生が手掛けた「災害用女性下着」とは?

ボランティアでの経験が開発のきっかけに。現役大学生が手掛けた「災害用女性下着」とは?

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慶應大学在学中に繊維の研究開発を行う会社「Amcas」を立ち上げた表早紀さん。自身のボランティアの経験から「災害用女性下着」を開発し、展開しています。この春から社会人となり、会社員と経営者というパラレルキャリアをスタートさせている彼女にバイタリティの源を聞きました。

 

フードロスから着想、不要品を素材に

――大学生でありながら会社を立ち上げた背景をお聞かせいただけますか?

会社は20223月頃に設立したのですが、もともと起業する気は一切ありませんでした。コロナ禍で大学に入学した世代で、アメリカへ海外留学していたこともあり、内省的になる時間が多かったんです。将来のことを考えたときに、今までに自分が力を入れてきたことを振り返ってみました。その中で「ボランティア」が自分の経験値として大きいなと思い、避難所では「女性が身につける下着が不足している」という話を頻繁に聞いていたことを思い返し「これだ!」と考えました。

自分のボランティア現場での経験だけでは偏った情報になるので、さまざまな避難所の情報をかき集め、ほかにも不自由をしている人が多くいることを知りました。ちょうどその頃、コロナ禍でエネルギーを持て余していた大学生の間でビジコン(ビジネスコンテスト)が流行っていて、もしかしたらこの「避難所での女性の下着」というアイディアで企業とタッグを組んだり何かビジネスに繋がるかもしれないと思ったんです。学生の起業を後押ししてくれるゼミの教授に相談してみると「コロンブスの卵みたいなアイディアだから自分でやってみなさい」と言っていただき、教授のサポートのもと起業しました。

――アパレル商品と繊維の研究開発製造を行なっていますが、もともと大学で専攻されていたのでしょうか?

私は経済学部だったのでアパレルを専門で勉強していたわけではなく、起業のサポートをしてくださった教授の授業からヒントを得ました。フードロスについての授業で「捨てるものを何かに変換できないか」と考え、果物の食物繊維から何か繊維をつくれるのではと思ったんです。中高生時代に化学が好きだったということもあって、自分でも手を動かしながら理工学部の教授に手助けいただき繊維づくりが始まりました。コロナ禍だったので、教授が通常よりメールやメッセージをチェックしてくれていたところも、今振り返ると研究ができる環境をつくりやすかったのだと思います。

災害用女性下着

2024年2月に東京ミッドタウン日比谷で行われた「JAPAN FEMTECH SUMMIT」に出展

――今作られている女性用下着も果物の繊維で作られているのでしょうか?

この女性用下着はペットボトルを溶かしてできているもので、避難所で回収して溶かしたらペットボトルや下着に再び生まれ変わりますSDGsを意識してビジネスをやっていくのは特別ではなく当たり前だと思っているのですが、どうしてもそれを浸透させるためには技術の進歩に頼らないといけないと感じています。繊維をつくって実用化にするにはものすごくお金がかかって、コストダウンして多くの人に届けたいと思っても削るのがすごく大変で……。災害用下着を使った方がそのまま自宅に持って帰ってウェアとして使ってもらうということもSDGsになる、というような解釈を提示していくのも良いかなと思っています。

――開発にあたって大変だったことはありますか?

それこそ、興味をもってくれる人はたくさんいたのですが、実際につくってもらうパートナーを探すことが大変でした。当時、学生でアパレルの知識もないまま繊維業界に飛び込んだので、製品開発のタイムスケジュールもまったくわかりませんでした。仮に2年後に完成させるとして、それを学生の私がつくるとなると時間的に厳しい、大学卒業後はどうするのか、などいろいろな意見をもらって、アイデアをすぐ実現するのは難しいんだなと痛感させられました。

アパレル企業、繊維商社にも片っ端からテレアポしましたがなかなか承諾してもらえず……。最終的に教授に相談したときに、偶然ゼミの課題で協力いただいていた方が原宿でニットの繊維商社をやっていたんです。そこで私のつくりたいものをプレゼンし、ご納得いただけて1年くらいかけて製品化していきました。

女性を守る「下着らしくない」デザイン

――製品を置いてもらう際の課題感などありますか?

自治体の防災課の方の約9割は男性なので、「女性には災害用下着のようなものが必要だ」と説得するのがとても難しいです。それでもいつかどこか1つでも導入してもらえれば、自治体同士は周りを見ながら活動されていることが多いので、一度ダメでも引っくりかえせれば広がっていくと思って活動を続けています。

災害用女性下着

災害用下着survivalwear ¥6,490(税込み) 出典:https://fellne.net/

――災害用女性下着はどんな部分にこだわった点について教えてください。

ボランティアに参加する中で、目の当たりにしてきた女性の下着の課題には「盗まれる、干せない・干す場所が無い」といったことがありました。そこで「下着らしくない」「多様な体型にフィットする」といったことを重視し、スポーツニット素材でできたキャミソール型のトップスにボクサーパンツタイプのボトムスというデザインにしました。ゴルフウェアにも使われているスポーツニット素材は、速乾性に優れ、汗をかいてもコップ一杯の水で洗って10回くらい回せばすぐ乾くんです。また、超制菌加工を施しており、3日間履き続けても菌が減っていくことが検証されています。性被害防止の観点から、白いTシャツにも透けない茶色で、身体の凹凸が目立ちにくいようにしました。縦にも横にも伸びるので、フリーサイズで、妊婦さんでも着用できます。

クラウドファンディングで被災地に届ける

    ――現在行っている支援の流れについて教えてください。

    能登半島輪島市で震災直後のニュースで、下着が洗えない、下着をつけたままで痒い、下着の扱いに困っている、などのニュースを目にして、今こそ役立つときだと思いました。すでに販売したもので在庫のある会社さんに連絡し「買い取るので一旦私のところに送ってほしい」と、クラウドファンディングのページを立ち上げると、たくさんの方が支援してくれて、購入された方や友人が「自分の分を能登に届けてほしい」と、とにかく早く能登に送ろうと協力してくれました。道が復旧するのに時間がかかって、届けるのがすごく大変だった際も、父の知り合いが能登の輪島市の役所の方に繋いでくれました。宅急便の営業所まで届けてくれたら、取りに行ってくれると言っていただき、皆さんの協力もあって200セット届けることができました。

    ――今後の展望を教えてください。

    ガザ地区にも支援をしていきたいと思っていて、5月ごろからクラウドファンディングで1着買うと、もう1着ガサ地区に届くというを試みをしています。能登半島への支援は短期間での取り組みだったので、いつ終わるかわからないガザの場合は、長い目で見てバランスを考えながらやっていきたいなと思っています。

    ――働き方に悩んだり、一歩踏み出せない読者にメッセージをお願いします!

    仕事のためにプライベートを諦めなければいけないのは悲しいので、自分がいちばん幸せになるために、やりたいことは全部諦めずに欲張ってもいいんじゃないかなと思って生きています。会社を立ち上げたときも、これからもずっと掲げている「全部盛り」をモットーに人生を生きていきたいと思っています。

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    杉森 有規
    Writer 杉森 有規

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