私たちの生活をつくる食事の時間。毎日のことだから面倒に感じる日もあるし、丁寧に向き合える日ばかりじゃない。だけど、少しでも前向きな気持ちになれる時間にしたいと考える人はきっと多いはず。そんな人に注目してほしいのが「うつわ」の存在です。2026年4月11日に発売された、プロップスタイリスト・菅野有希子さんの書籍『センスのいい うつわの選び方』は、そんな日常に優しく寄り添ってくれる本です。今回は、うつわのセレクトショップ『mor』とのコラボレーションで開催された『センスのいい うつわの選び方』刊行記念トークイベントより、菅野さんと『mor』店主・とみこさんの対談の様子から、日常生活に活かせるエッセンスをお届けします。
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うつわ選びは「自分を大切にすること」を教えてくれる

昨年ZINEを自主制作し、おうち時間全肯定マガジン『mamemame』を発売した菅野さん。「かねてより商業出版で本を出したいと思っていた」という夢を叶えて、この度発売した書籍『センスのいい うつわの選び方』は、うつわやカトラリーの選び方をプロ目線でレクチャーしてくれることはもちろん、本質的にはうつわ選びを通じて「自分を大切にすること」に気づかせてくれる本です。
菅野さん:「うつわは生活に必須なものではないかもしれません。でも、疲れて帰ってきて、買ってきたパックのままご飯を食べていると、自尊心が削がれ“食事”ではなく“餌”のようになってしまう気がするんです。買ってきたお惣菜であっても、お気に入りのうつわに盛り付けるだけで『自分のために“食事”の時間を作ってあげた』という満たされたひとときに変わると思います」

クタクタで帰宅して「今日は料理なんて無理!」という日。帰り道になんとか買ってきたお惣菜をパックのまま食べて、お腹は満たされたけれど、なんだかちょっぴり寂しい気持ちになる……そんな経験は誰にでもあるはず。もともと料理があまり得意ではない、好きではないという方もいるでしょう。
食事の準備にエネルギーを割けないときでも、お気に入りの「うつわ」を味方につければ、その時間は自分を大切に労わる特別なものへと変わります。「無理に料理を頑張らなくてもいい」と思えることは、毎日の食事に対する精神的なハードルをぐっと下げてくれるはず。うつわの存在は、日々を忙しく生きる私たちにとって、心をふっと軽くしてくれる「救い」のようなものかもしれません。
では、世の中に数多あるうつわの中から自分に合ったものを選ぶには、どんな視点をを持てばよいのでしょうか?
まずは何から買えばいい?失敗しない「最初の一枚」の選び方
いざ「うつわを買おう」と思っても、お店に行くと目移りしてしまい、何を買えばいいか迷ってしまいますよね。また、作家さんの個展などに行くと、つい舞い上がって「かわいい!」と思うものを買いたくなりますが、それが必ずしも自分の家の食卓に合うとは限りません。そこで菅野さんがおすすめするのが「今の生活で一番よく使っているサイズや形に近いものを選ぶ」という選び方です。作家ものであればそれに加えて「その作家さんらしさが出ているものを選ぶ」ことも意識します。

1〜2人暮らしなら、手のひらから一回り大きいくらい(約21cm前後)の中鉢や中皿が、最も使い勝手がいいのだそう。また、簡単な考え方としては「普段よく食べるもの」を基準とするのがおすすめです。たとえば、ダイエット中でサラダをよく食べる人なら、まずはサラダボウルとして使えるサイズのうつわを一枚買ってみる。そこから「これが足りないな」と思うものを徐々に買い足していくと、失敗が少なくなります。
さらに、もう一つの重要なポイントは「住まいとの調和」です。うつわは単体で成り立つものではなく、料理やテーブルとのバランスで成り立ちます。たとえば、特徴のある古材のテーブルならば、繊細でツルッとしたものより、少し渋くてしっかりしたうつわが似合います。家に持ち帰ったときの景色を想像することが、センスのいい食卓への近道です。
100円ショップもアリ?センスのいい食卓をつくる「メリハリ術」
うつわ選びにおいて、すべてを高価なもので揃える必要はありません。
菅野さん:「100円ショップの安価なうつわでも、センスの良い人がまとめれば調和が取れて綺麗に見えます。ただ『弘法筆を選ばず』とは言いますが、弘法も選べるなら筆を選ぶだろうと思うんです(笑)。調和が取れた上で、1点1点のもの自体が格上げされていくと、やっぱり天井を超えて『すごくセンスのいい食卓』になっていく。だから、どこかで『筆(良いうつわ)を選ぶ』ことも大事なんです。ここは安価なものでもいいけれど、ここはちょっと予算をかけようといったメリハリをつけることが、無理なく食卓を格上げするポイントです」
さらに、コーディネートを単調にさせないプロのテクニックも教えてくれました。

菅野さん:「陶器や磁器ばかりだとのっぺりした印象になってしまいます。そこで、少し質感の違うガラスのうつわを入れたり、古いヴィンテージの染め付けを入れたりして変化をつけるのがおすすめです。最初は個性が強いかなと思ったものでも、いくつも並べることで雑多な感じに紛れて良い雰囲気が出ます」
これに対しとみこさんも「最近のプロダクト(量産品)はすごくて、作家ものとコーディネートしてもまったく違和感のない、おしゃれなプロダクトが増えているんですね」と、『センスのいい うつわの選び方』を読んで無印良品やIKEAなどでも優れたものが多いことを知ったと語りました。
食洗機&レンジOKも!忙しい私たちの頼れる味方になるうつわ

量産されるプロダクトと、作家もの。両者の明確な違いとして菅野さんが挙げたのは「利便性」と「アート性」です。日常使いする上では、食洗機や電子レンジに入れられるプロダクトの安定したクオリティや利便性も捨てがたいもの。一方で、作家ものには「個体差」というプロダクトにはない楽しさがあります。今回のイベントでも販売された陶芸作家・中園晋作さんのうつわについて、お二人はこう語ります。
菅野さん:「同じように作られていても少しずつ味わいが違い、自分だけの一点を選ぶコレクター的な楽しさがあります」
とみこさん:「中園さんは実験しながら日々新しいものを作られていて、そこがおもしろいんです」
個性的な作家ものは扱いが難しそうなイメージがありますが、実は現代のライフスタイルに寄り添うアイテムも多く存在します。『mor』で取り扱いのある中園晋作さんや𠮷田太郎さんの作品のように、最近では電子レンジや食洗機が使える作家ものも増えているのです。とみこさんは、買ってきた唐揚げを作家さんのうつわに乗せて、レンジで温めて食べるといったカジュアルな使い方をしているそう。
今回の菅野さんの著書では、紹介しているうつわの電子レンジ・オーブン・食洗機の使用可否がすべて記載されているため、購入時の参考になります。

さらに、菅野さんが日常使いとしておすすめするのが、イタリアの業務用食器。オーバル(楕円)型のお皿は厚みがあってぽってりしているため、お惣菜を乗せるだけで「あえてデリ風に盛った」ように見える優れものです。表面がツルツルしていて汚れが落ちやすく、片付けが簡単なのも嬉しいポイントです。
「好き」を蓄積すれば、自分のセンスに自信が持てる
うつわ選びにおける「センス」とは何なのでしょうか。とみこさんは、初めて益子陶器市を訪れた際、500以上のテントを前に「何から選べばいいかわからない」状態に陥ってしまったそうです。しかし、益子出身で陶器市にも詳しい友人たちと一緒にお店を回るうちに、膨大な数のうつわの中から「自分が好きな作風」のデータが蓄積され、そこから一気にうつわ選びが楽しくなったと振り返りました。

とみこさん:「センスとは、自分の中に知識や経験の引き出しが蓄えられていて、最適解を組み合わせられる力だと思います」
菅野さん:「ゼロから経験を積むのは大変だからこそ、他人の何年分もの経験値を一気に吸収できるのが、本の良さですよね」
菅野さん自身が感覚として持っていた「これを買えば失敗しない」というルールを、誰でも再現できるように落とし込んだのが、今回の著書です。
最初から完璧な食卓を目指す必要はありません。まずはあなたの生活スタイルに合った、心をホッとさせてくれる「最初の一枚」を探すところから始めてみませんか?そんな一枚を探すときには、ぜひ『センスのいい うつわの選び方』を手に取ってみてください。少しの知識と自分の感性で選んだうつわはきっと、毎日の食事をもっと愛おしい時間に彩ってくれるはずです。
2026年4月11日発売
菅野有希子・著『センスのいい うつわの選び方』

菅野 有希子(すがの ゆきこ)● プロップスタイリスト。雑誌・書籍・WEBメディア等で食や住といったライフスタイル提案のスタイリングを行う。Hanako Webにて「”センスがいい人”になりたくて」を連載。リノベマンションに住むうつわ愛好家。
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