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2拠点生活、12年通って築いた信頼関係は人生でも仕事でも「一生もの」

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2つの「家」を持ち、平日は東京。週末は千葉県南房総市での暮らしを約12年間続けてきた馬場美織さん。ライターとして、またNPO法人「南房総リパブリック」の理事として複数の顔を持ち、活躍されています。馬場さんの活動は一見、場所は東京と南房総、そして、職種はライターとNPO法人の理事というパラレルな道を走っているように見えます。けれど、実際にはお互いが重なり合いー筋の流れとなり、とても気持ち良いハーモニーを奏でているのだそう。インタビューでは、副業やパラレルキャリアの時代を生き抜く私達にも大いに参考になるお話をお伺いすることができました。<後編>では2拠点生活をはじめたことで「人生も人格も変化した」という馬場さんの「仕事観」にせまります。<前編>はこちら(記事提供:わたし探求メディア molecule

実は取材日の直前に手がけている事業で、とても落ち込むことがあったという馬場さん。つらい経験を通して、12年間の里山生活で「時間」をかけて培ってきたものは、簡単には壊れないということにも気づかされたといいます。

2拠点生活を選択して、人生と仕事に線引きをしなくなった

馬場未織さん

馬場未織さん。東京と南房総での2拠点生活をはじめて約12年。ブログでの里山生活の発信をきかっけに、2011年には農家や建築家、市役所公務員らとともにNPO法人「南房総リパブリック」を設立。平日は3人のお子さんの子育てをしながらライター業も精力的にこなす。著書に「週末は田舎暮らし」(ダイヤモンド社)がある。
出典:わたし探求メディア molecule

――未織さんのお仕事について教えてください。

実は子供が生まれる前は「設計」の仕事をしていたんです。両親も建築関係の仕事をしていて、自然の流れでした。好きな仕事でしたし習い性でやっていたのですが、製図の勉強をしながら、ふと「本当にコレやりたいかな? 自分の家の設計はほかの建築家に頼みたいなぁ」なんて、思ったんです。

数多いる才能のある建築家たちを見てきて、私はその建築家たちの中で特に秀でてはいないし、こだわりが強いわけでもないという自覚がありました。仕事は好きだったけど、本当にもっと好きだったのは「文章を書くこと」。小さいころからずっとそうだったんです。

それで、とっても唐突ですが「ライターというものになりたいです。特にツテもないですけど……」と家族に説明しました。今は、建築やライフスタイルの記事を書いたり、NPO法人の運営など色々な仕事をしています。

2拠点生活をはじめて、自分なりの考えを発信したり露出したりするようになってから、人生と仕事の二筋だったものが、だんだんと一筋になってきたんです。2拠点生活を選択してから、人生と仕事に線引きをしなくなりました。

 今、仕事をしている人たちは、仲間であり、一生一緒に生きていけたらいいなと思う人たちなんですよね。 

――詳しく教えてください。

2拠点生活をはじめた当初は、色々な所に違う人間関係があるのがいいと思ってたんです。東京は東京の仲間、南房総では南房総の仲間というように、サードプレイスで自分の違う面で癒されたいと思っていました。けれど、実際には田舎暮らしと都会暮らしとが並行してあるように見えて、両方がどんどん重なってくるようになりました。

例えば、子どもたちの東京の友達をごっそり連れてきて南房総合宿をすることもあります。「南房総リパブリック」のメンバーの一人と、メディアを作るという仕事を東京でしていたりもします。非常にビジネスライクにやっているけれど、とっても気持ちよく仕事ができている。 

東京と南房総の生活が重なって窮屈かっていうとそうでもなくて。重なっている人たちと仕事をするのは、すっごく気持ちがいいと感じるんです。 

仕事って、知らない場所のコンビニの人から物を買うみたいに、この人とは仕事が終わったらもう会わないだろうなという感じのやり方もある。何かうまくいかなくなってたくさんのものを失っても自分が痛まないような距離感でやるのも、仕事をする上で精神の安全保障的には大事なのかもなと思うこともあります。

でも一方で、っと一緒にいるだろうと思える人と仕事をすると、人間の本質的に信頼したり、されたいと思うようになる。自分を切り売りしなくなる感覚です。

南房総を通して出会った人達は私にとって一生一緒にいたいと思う人達。お互いの人間性が分かっているから預けあえるし、預けられる。そんな仕事の仕方が、今はとても気に入っています。

会社員の夫からは考えが甘いなんて言われるんですけどね(笑)。

12年通って、やっと強固な関係性が生まれた

 ――そういう関係性が築けるのはどうしてなんでしょう?

 一つは「時間」の力が大きいです。昨日会ったばかりの人とそんなに親しくなれないですよね。それに気づかせてくれたのも田舎暮らし。田舎暮らしって、たとえ「馬場未織って、こういう人で、こういう活動してるんです!」というプレゼンテーションをしたからといって信頼されないんです。

ずっと長いことおそるおそる私たち家族のことを見てくれて、ちょっとずつ『悪い人じゃなさそうだ』『来る来るって言ってて、本当に来てるぞ』っていう信頼の積み重ねがようやく彼らの心に届く。まったくなんの話もしなかったおじさんが自分の話をしてくれるようになったりとか。12年通ってきて、本当にここ数年ですね。時間がかかるんです。それはしかたない。

でも、ビジネスの中での仕事の作り方は時間との勝負なので。どうしてもその時一緒にいて、パッと別れるっていうのもありなんだけど。長いこと培ってきた関係性はそれこそ価値があるものなので、仕事に重ねるっていうのはある意味、合理的なのかもなぁと思いますね。

「南房総リパブリック」が主催したへぐりマルシェの様子

2019年5月に「南房総リパブリック」が主催したへぐりマルシェは今回で5回目。地元の人達の拠点として、閉校した旧へぐり小学校に再び人が集まるきっかけになってきた
出典:わたし探求メディア molecule

――最近、とっても落ち込むことがあったとお伺いしました。

実は、大きな事業の優先権の獲得に予想外に落ちてしまうということがあり、連休中、何も手につかないくらい落ち込んでいました。

先日、マルシェをおこなった旧へぐり小学校に関する事業です。へぐり小学校は伊予ヶ岳の麓にある大好きな場所です。すでに閉校となり解体されることが決まっていたのですが、どうにか活用する手はないかとご相談もかねて見学をしたのが3年前。一緒に見に行った建築家の仲間とも、こんなに良い場所で、こんなに素地の良い建築を解体するのはもったいないという話になって。

2019年5月に「南房総リパブリック」が主催した「へぐりマルシェ」は今回で5回目。地元の人達の拠点として、閉校した旧へぐり小学校に再び人が集まるきっかけになってきた。 

これは残して活用したほうが市にとっては価値があるのでは? と示し続けてきました。企業研修の場として活用するアイディアを現地でブレストする合宿をしたり、マルシェをやったり、フューチャーデザイン会議をしたり、人の気配がなかった小学校に人を戻すということを3年くらい情熱をかけてやってきました。

けれども跡地施設活用事業プロポーザルはとれず、次点に。優先権を獲得した企業とわずか1.1点差でした。事業者として優先交渉権がほかに行ってしまい、手が出せない立場になってしまった。

巻き込んできた方に申し訳なくて。ここでお店を出したいと思っていた食堂の若旦那とか牧場主の皆さんや地域の人とやってきていたので、本当に申し訳なく落ち込みましたね。 

廃校活用の事業で、我々の「南房総リパブリック」は選ばれなかった。ものすごいエネルギーと先行投資をしてきたことだったので、もちろんすごく悲しかったですし、仲間は空中分解してしまうのかと思っていました。

時間をかけて培ってきた関係性は簡単には壊れない

そんなことがあった後でしたが、私が思ってたよりもみんな愛があって助けてくれました。ひと時の励ましではなく、一緒に知恵をしぼったりダメ出しをしてくれて、今後の動き方について作戦を練ろうという自主的な動きが出てきたときに、『なんて信頼できるんだろう』と思ったんです。

実は、私も疑い深かったのかもしれないと、その時、気づいたのですが。勢いがある時は、みんなついてくるものだし、駄目になったら、みんな一斉に離れるんだろうなと思っていた所があったんです。 

でも今回、事業プロポーザルに選ばれなくても、みんな離れていかなかった。一斉にみんなで我々のこれまでの活動とこれからの活動を慈しんでくれたんです。これは泣くほど嬉しくて。

そういう風に時間をかけて培ってきたものや関係性は、ちょっとやそっとじゃ壊れないんだなぁって思ったんです。失敗が許されるこの強さってすごいことだなと。でも、本当に申し訳なく思っていて、責任を感じていることには違いないのですけど。いいとこどりはできないなというのが最近の実感です。

ぱっぱと手に入れたり便利に暮らしているとそれはそれだけの軽さなんですね。手がける重みとかしんどいな……これ、とか。いつまでこんなことやっているんだ? っていう長くて重いものっていうのは、そこそこの価値を持って自分に定着していて。  

失われない縁と同じで、ちっとやそっとじゃ壊れないものは、時間をかけなきゃ作れないものだなと思うんです。

そのことは南房総や2拠点生活をしていたからこそ、わかりやすく存在していたのかなと思っています。

<編集後記>私・柳澤が馬場さんのお話を聴いたのはちょうど大型連休を過ぎた頃でした。3年間もの間、情熱をそそぎ投資してきた事業が実らなかった辛い気持ちを赤裸々に語ってくださった馬場さん。どんなに想いが強くても、時としてどうしても抗えないことは起こるものです。でも、この出来事があったからこそ馬場さんの仲間への信頼は、より強固なものになったのかもしれません。私もこれからの「南房総リパブリック」の進化と人生を賭けた馬場さんの仕事を心から応援し続けたいと思いました。 そして、人生と仕事が重なる働き方に近づけるよう、精進したいとも思いました。

馬場未織(ばば みおり)●南房総市の廃校を利用した「へぐりマルシェ」を開催。2011年に農家や建築家、教育関係者らとともにNPO法人「南房総リパブリック」を設立。平日は3人のお子さんの子育てをしながらライター業なども精力的にこなす。著書に「週末は田舎暮らし」ダイヤモンド社がある。

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柳澤聖子
Writer 柳澤聖子

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