大手IT企業で広告のプロダクトに携わりながら、パラレルキャリアとして、プロダクトマネージャーのための塾を運営している為矢明日香さん(為矢さんの記事はこちら)。今でこそ生き生きと働く彼女ですが、そこにたどり着くまでには人知れず重ねてきた苦労や経験がありました。今回は、為矢さんが、自身の化粧品販売員時代の経験を通して得た仕事のポリシーについてのお話です。
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「お客様」と「売上」どちらを向いて働けばいい?
「『お客様』と『売上』どちらの方を向いて働けばいいのかわかりません!!!」
化粧品販売員になって半年目のある日、そう叫んで、研修中に号泣してしまった私。研修では「お客様のために」と言われるのに、お店では「売上を上げろ」と言われる。この矛盾に悩み続けた結果、ついに会社に行けなくなってしまった時期があります。
ですが、その2年後、私は連続で新規顧客獲得コンテストの入賞、売上上位をキープしながら「仕事とは『お客様のため』を向いて働くことである」と胸を張って言えるようになりました。一見すると、矛盾するように見えるこの2つの価値観を両立させることができるようになったのには、あるきっかけがあったのです。
販売員を始めた当初の私は、「お客様」と「売上」どちらを向いて頑張れば良いんだろうかと迷いながらも、高い売上目標や毎月の推奨商品が出てくる中でいつしか「売らなければならない」というプレッシャーを抱えながらお客様に接するようになりました。
すると、自分でも気づかない間に「“売りたい”というオーラがガンガンに出ている店員」になっていたのでしょう。お客様からも嫌がられ、当然商品は売れず、「売らなきゃ」と思う私はさらに商品を押し売りしようとするので、さらに売れなくなる……という悪循環に陥ってしまいました。
毎日会社に行くのか憂鬱で、仕事が辛い。でも仕事だから売らなければいけない。
そんなときに会社の研修で「お客様のために働きましょう」と言われた私はついに糸が切れ、冒頭のように「『お客様』と『売上』どちらの方を向いて働けばよいのか分かりません!!!」と号泣した後、会社に行けなってしまったのです。
泣きながら山の手線に乗り、帰宅後は、布団の中でずっと泣いていたことを覚えています。
お客様のためにならないなら、売らなくていい
3カ月間仕事を休んで復帰した後、私は店舗でいちばん売上を上げている先輩に勇気を持って相談してみることにしました。
「私はお客様のために働きたいのに、売上のために働くのが辛いです」
そんな甘いこと言うんじゃないと怒られるだろうと思っていたのですが、先輩は私にこう言いました。
「お客様のためにならないなら、売らなくていい」
売上を上げるためには「絶対に売らなければならない」と思い込んでいた私は本当に驚きました。
この言葉の本当の意味がわかるのはもう少し先なのですが、ここから、私の売り方が変わったのです。
「お客様のため」という言葉の本当の意味
先輩にアドバイスをもらいながら、その日から私は「お客様のため」だけを考えて働くようになりました。
それまでは「売るため」に、商品をお客様にアピールばかりしていました。でも、「お客様のため」を本当に考えるなら、まずはお客様が何に悩んでいるかを知ること。そして、どうすればお客様の悩みが解決できるのかを知識やデータを元にアドバイスしながら、お客様と一緒に考えていくことが大事です。
解決策を考える中で、自分たちの商品で悩みが解決できそうなら「売ればいい」し、そうでなければ「売らなくていい」。ときには、「今のお客様のお悩みなら、他社の〇〇商品の方が合うかもしれないですね」とアドバイスしたこともありました。
そうすると、なぜかそのお客様はほかの悩みのときに私を指名してくださるんです。「あなたは信頼できるから」と。
もちろん、うまくいくことばかりではありませんでした。
「お客様のため」を考えるあまり、1人のお客様に時間をかけすぎてしまい、後から来たお客様の対応ができず、その方は怒って帰ってしまったんです。
そのときに先輩から言われた言葉で、私は「お客様のため」という言葉の本当の意味を知ることになります。
「『お客様のため』というのは『目の前のお客様のため』を考えることだけではない。『お店に来てくれるお客様全員』のことを考え、『未来に来てくれるお客様全員』のことも考える、そのために目の前のお客様を満足させながら対応時間をコントロールするスキルも重要なんだよ」
私はこの言葉で「お客様のため」に働くという言葉の本当の意味がやっとわかりました。本当の意味で「お客様のため」を実現させるためには「とても高いスキルが必要」であり、「それがプロである」ということ。
お客様のために働くプロセス自体が人生を豊かにする
「お客様のために働くなんてきれいごと」と思う人もいるかもしれません。
ただ、私が毎日「お客様のため」を真剣に考え、悩み、ときには先輩に怒られた日々を思い出す度に感じるのは、「『お客様のため』を向いて働くプロセス自体にとてもやりがいがある」ということです。
もし今、「お客様のために働きたいけど売らなければいけない」で悩んでいる人がいれば、私は胸を張って「お客様のためを選んでいいんだよ」と言うと思います。
ただし、「本当に『お客様のため』を向いて働くということは『高いスキル』が必要で、そのためには『努力が必要』で、ただ、その途中で『お客様の感謝』が返ってくるそのプロセス自体が『あなたの人生を豊かにするもの』だよ」と。
きっと、私は布団の中で泣いていたあの日に戻ったとしても、大変だけどやりがいのある「『お客様のため』を向いて働き、プロを目指していくプロセス」を選び、歩き出すと思います。
私はあの日から6年間の中で一度も、「お客様のため」を向いて働く人生を一度も後悔したことがないからです。