Paranaviトップ お仕事 メンタル コミュニケーション能力の問題だけじゃない! その人間関係が苦しい理由は「カサンドラ症候群」かも?

コミュニケーション能力の問題だけじゃない! その人間関係が苦しい理由は「カサンドラ症候群」かも?

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仕事は大好きなのに、どうしてもこの人とうまくいかない。そんな経験はないでしょうか? 頑張りたい気持ちはあるのに、この人と接すると思うと、どうしても腰が重くなってしまう……。もしかしたら、それは「カサンドラ症候群」かもしれません。上司や同僚との関係に思い悩んで、その仕事を諦めてしまう前に、「カサンドラ症候群」について知っておくと人間関係のヒントになるかもしれません。

「カサンドラ症候群」とは?

喧嘩するカップル

もともと、この言葉は夫婦間やパートナーとの関係性に対しできた言葉です。「家族やパートナーが発達障害、特にアスペルガー症候群の特性を持つためコミュニケーションがうまくいかず、その原因が自分にあると感じ、自身が精神的に追い込まれてしまう状態」のことを言います。

カサンドラ症候群は、「予知能力を持ちながらも、自分の言葉を周囲の誰からも信じてもらえない」という呪いをかけられたギリシャ神話の悲劇の王女の名前が由来となっています。

パートナーとのコミュニケーションがなかなかとれず、その理由もわからないのに相手は平気そうで淡々としている。周りに相談しても「考えすぎでしょ」「努力が足りないのでは?」「あなたももっと寄り添ってあげないと……」などと言われてしまい、気づいたときには心身ともに疲れてしまっている……。

この場合、もちろん性格の不一致があったり、相手が気難しい人だったりという可能性もありますが、もしかしたら、パートナーのほうが相手の気持ちを想像するのが困難だったり、行間を読むことが苦手だったりという特性をもつ発達障害であることが原因かもしれないのです。

カサンドラ症候群は恋愛だけじゃなく、仕事でも起こりうる

仕事で詰められている様子

基本的には、恋愛関係にある男女間に使用される心理学の用語ですが、これと同じ状態は会社においても頻繁に見かけます。私が普段診察していても、会社の人間関係で苦しんだ結果受診に至るという例は日常茶飯事です。その中でも、「その上司の発言はあなたに問題があるのではなく、上司に問題があるのでは?」と思う案件は案外多いものです。

以前の記事でアスペルガー症候群(現在は、ASDなどとともに広汎性発達障害と定義されています)について記載したので、詳しくは記事を見ていただければと思いますが、いちばんの特徴はいわゆる「空気を読む」ことが苦手ということです。

そういった人たちは、言われた言葉はそのまま受け取りますし、想像力が乏しいので相手の立場に立って物事を考えることができません。ですので、たとえ新人に対してであれ、相手が傷つくという発想なしに「まだ終わらないんですか? 仕事が遅いですね」「何もわかっていないんじゃないか? 全部やり直し!」というような言葉を濁さず言います。また、こちらが体調が悪いと伝えたとしても、そこから(この人は早退したいのかな?)(何か悩みがあるのかな?)といった言外の意図は考えず、「そうですか、それで?」と事実だけを受け取ってしまい、配慮ができないということも往々にして起こります。

その結果、調子が悪くても頑張らないといけないんだ、と思ってしまい、どんどん無理をすることになる……というプレッシャーを無意識のうちに与えてしまいます。立場の上下関係もありますので、その上司や同僚に何も言えず、振り回されているうちに心が弱っているという状況に陥ってしまうのです。

カサンドラ症候群に陥りやすい人とは?

これはうつ病でも言えることですが、真面目な人ほど頑張らないと、と思ってしまい、心身が疲労しやすいです。また、他人に相談することが苦手だったり、自分で全部対処しようと思ったりしてしまいがちな人もカサンドラ症候群に陥る可能性が高いです。そういった人は必要以上に、「私が上司の言っていることをわからないからダメなんだ」「私が仕事ができないだけなんだ」とひたすら自分を責めてしまうんですね。

会社の場合は、周りにもこういう状態に陥っている人がいたり、以前にもその部下のもとで働いていた人が休職したり……といったエピソードがあるかもしれません。そうすると、それはカサンドラ症候群の可能性が高いと言えるでしょう。

まずは身近な話しやすい人に相談を

相談しているところ

心身が疲れた時、まずは会社の同僚や仲の良い上司など、話しやすい人に相談することがいいでしょう。産業医と面談するのも良い手です。私自身、数社で産業医を行なっておりますが、休業の相談に来る社員の人が同じ部署に偏っているな……と感じることは結構あります。会社の人間ではないという第三者的立場であるということから心を許して、いろいろなことをお話してくださる方も多いです。なので、もちろん個人情報を漏らすことはありませんが、産業医というのは意外と会社の内部について情報を持っていることも少なくないのです。

周りに相談したからといって、すぐに上司や同僚が変わるわけではないから意味あるのかな? と思う方もいるかもしれません。しかし、話すことでも少し気が楽になりますし、実際に経験した方からは、「私が頑張ってないわけではないんだとわかって安心した」「上司の言葉を受け流せるようになった」といった言葉をいただきます。本来の恋愛関係で起きるカサンドラ症候群ですと、周りに相談しても、その相手のことは自分しか知らないので、なかなかわかってもらえないということもあります。ですが、会社では同じ上司や同僚に接している人はたくさんいますので、意外と悩みに共感してくれる場合も多いのです。まずは周りに相談してみることが大事です。

必要なのは、受け流すこと

紅茶を飲んでリラックス

ただ、自分が苦しめられている原因である上司や同僚が発達障害なのかもしれない、と思い至ることは普段はなかなかないでしょう。私が診てきた経験でも、自分がいくら苦しんでいても、相手は「言い方がきつめの人」だという程度の認識にとどまっていて、発達障害である可能性までは考えていない人がほとんどです。

中には、上司から「お前発達障害なんじゃないの?」と言われて受診したんですという人もいるくらい。お話していると、それはあなたじゃなくて上司が発達障害の可能性が高いです、となったこともあるくらいです。

自分が「カサンドラ症候群」の可能性があるとなったら、大事なことは相手の発言を受け流すこと。診察に来てくださった人たちにも、相手の行動や発言に対して困惑することがあっても「ま、いっか」と思うようにしてください、と伝えています。男女間であれば、一度一緒に病院に行こうということも可能です。ですが上司となると、そうもいかないですし、残念ながら相手が自然と変わってくれるということはありません。なので、自分を守るためには自らの対応を変えていくしかないのです。

ただし、多くの人が困っているという場合は、産業医を通じてでもほかの上司伝いでも、カウンセリングを進める環境を作ってみても良いかもしれません。症状を完璧に失くすことは難しいですが、カウンセリングで緩和させることは可能です。「相手がこう言っていたら、こういうことを思っている」などと、ひとつずつケーススタディを繰り返していくと、ある程度のパターンが自分の中に記憶されていくので、改善を期待することができます。

正しい対処をするには、まずは正しい知識を得ること

こうした問題を減らしていくには、まず「カサンドラ症候群」の知識が社会に正しく広まっていくことが大切になります。少しでも知っていれば、悩んでいる人に「あなたの上司、もしかしてアスペルガー症候群なのでは?」などと問うことができます。自分を責めてしまう、という状況からその人を守ることができるかもしれません。

アスペルガー症候群を含む発達障害については、最近、社会全体の認知度も高まってきて、以前より「カサンドラ症候群」に陥った人の苦しみが理解されやすくなってきたと思います。人間関係が原因で好きだった仕事が嫌になるというのは、もったいない! もし、仕事で特定の人とのコミュニケーションが上手くいかず困っている人がいたら、自分のせいだと抱え込まずに、一度自分や相手がこの症状に当てはまっていないか考えてみてください。

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木村好珠
Writer 木村好珠

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