ビットコイン、暗号資産、ブロックチェーン……。
一部ニュースやテレビなどで耳目に触れるものの、馴染みがない人も多いはず。
これからビットコインは我々の生活に、どのように浸透していく可能性があるのでしょうか。
「ビットコインの技術で、世界中にあらゆる価値を流通させる」をミッションに掲げる、ビットバンク株式会社の廣末紀之社長にインタビューを実施。
ビットコイン・暗号資産に対する期待感や将来性についてお話を伺いました。
取材先
廣末紀之
Noriyuki Hirosue
廣末紀之
Noriyuki Hirosue
Profile
ビットバンク株式会社代表取締役CEO。1991年野村證券株式会社入社。1999年グローバルメディアオンライン株式会社(現GMOインターネット株式会社)入社、同社取締役、同社常務取締役を経て、2006年株式会社ガーラ代表取締役社長。2014年ビットバンク株式会社を創業。 暗号資産ビジネス協会(JCBA)会長。
Contents
「お金のインターネットの時代がきた」 bitbank創業までの経緯
――bitbank創業までの経緯を教えてください。
大学卒業後、将来的なトレンドを考えて「直接金融」を学ぶ必要性を感じ、野村證券に入社を決めました。
野村証券で営業や営業企画などの仕事をしているなかで、1990年代の後半にインターネットが登場しました。
インターネット登場前は、テレビやラジオとか新聞などのマスメディアが情報の収集と発信を一手に担っていた機関でした。
競争力を決定する「人・モノ・金・情報」などのリソースのなかで、「情報」についてはマスメディアにその収集や発信の機能が集中していたたので、当然その業界にパワーがあったわけです。
ところがインターネットの登場によって情報の分散化が進む中で、マスメディアという特権者の影響力が弱まり、だれもが情報収集から発信までできるインターネットの方が相対的に伸びると直感を持ちました。
そんなとき、私の野村證券時代の親友が、現在のGMOインターネットにCFOで参画していて、社長の熊谷さん(熊谷正寿氏)を紹介してくれたんです。
熊谷さんの人間的魅力にも惹かれ、そのままGMOインターネットに入りました。
GMOインターネットでは主にコンシューマーメディアセグメントを統括し、複数の子会社の立ち上げや運営を行っていました。
GMOインターネット退社後、リチウムイオンバッテリーの性能が著しく向上していることやモバイル通信の進展が進むなかで、今後数十年かけて、車の「電気化」と「通信化」という、ものすごい大きなトレンドが来るんではないかと睨み、ネットエイジの西川潔さんと現ヤフーの小澤隆生さんと一緒に、電気自動車の製造販売を行う会社を作りました。
――そうだったんですね。
日本では想像しにくいですが、世界には自動車のOEM生産を行う会社が存在し、電気自動車というのは30億円くらいあれば100台くらい作れます。
しかし、そのタイミングでリーマンショックが発生し、資金調達の話が頓挫し、「車の電気化」という重いテーマから「車の通信化」というテーマにピポッドし、カーシェア事業を始めました。
この事業は良好なスタートを切ったのですが、直後に一番懸念していた駐車場大手が参入して、もう勝ち目がないと判断してその事業は大手商社に売却を行いました。
その後、次は何をしようか色々考えていたタイミングで、たまたま2012年にビットコインのことを知ったんです。
――ビットコインを知ったとき、どのような印象を持ちましたか?
インターネットの世界では「お金的なのもの」で「儲かりそうなもの」を想起させる詐欺が多いんですよ。
当初はビットコインに関してもそのようなものだと思ったんですが、調べていると「ブロックチェーン」や「マイニング」などの知らない単語が出てきたので、それらを調べるために海外のコミュニティサイトから情報を探して、半年ぐらいかけて、やっとビットコインの全体像を把握することができました。
それは、当初の自分の想像を超えて、一種のアートと思えるような、シンプルだけど大変美しい構造であることがわかり、「これは詐欺みたいなものではなく、『お金のインターネット』の原型だな」と直感しました。
――お金のインターネットとは、どういうことでしょうか。
インターネットの時に「デジタルデバイドの解消」が起こったのと同じで、今度はビットコインを起点に、マネーの世界で「ファイナンシャルインクルージョン(金融包摂)」が進むと思ったんです。
当時渋谷にマウントントゴックスというビットコインの世界最大の取引所がありました。
それがゆえに、当時の渋谷には、現在では世界のビットコインセレブリティー達が「普通のビットコイン好きの人たち」として集まり、毎週ビールを片手にその未来について語り合っていました。
僕もそこに入って、「ビットコインってすごいよね」と盛り上がっていたときに、マウントゴックス事件が2014年2月に起きました。
――巨額のビットコインが流出した事件ですね。よく覚えています。
当時の状況としては、事件が日経新聞の一面にも掲載されて、日本中に「ビットコインは、とんでもない詐欺」というムードがありました。
しかし僕はその事件前から、ビットコインの構造や仕組み、マウントゴックス=ビットコインではない、ことを理解していました。
何よりも、マウントゴックス事件で世界中が騒動になっている最中、ビットコインのブロックチェーンが何事も無かったように正確に動作しているのを見て、「これは本物だな」と確信したんです。
――逆に事件があったからこそ、ビットコインの価値を確信されたんですね。
多くの人が間違っている状況のときに、ビジネスチャンスが来るわけです。
優良株が風評だけで叩き売られている状況だったので、これはもう願ってもないチャンスだと僕には見えたんです。
そのような経緯から、この事件直後に現在のビットバンクを創業しました。
――事件後からどのくらいで創業されたのですか?
3か月後くらいです。準備をしていたので、すでに自分のなかにある程度の構想があったのです。
暗号資産(仮想通貨)を通じて、今後マイクロの世界が大きくなる
――当時と比べて暗号資産の認知は進んでいるかと思いますが、そのとき廣末さんが描いていたものは、どの程度実現できているのでしょうか。
ゴールが10合目で、一部の海外の人たちが3合目、4合目まで進んでいるとすれば、日本は2合目あたりにいると思います。
日本以外だと、レギュレーションがないなかで自由に事業をしている人たちがいますが、日本は世界に先駆けて法整備を行ったので、これらの法律に準拠して事業運営する必要があります。
――2合目ということですが、今後ビットコインは社会に対してどのような価値を示せるとお考えでしょうか。
ビットコインを始めとする暗号資産の良いところの1つは、1円未満の送金ができることです。
僕の勝手な仮説で、実現の有無は分かりませんが、一つの例を挙げるとすると、たとえば冷蔵庫があるとします。
冷蔵庫はおおよそ10万円くらいの価格で、耐用年数が11年程度と決まっているわけです。
1日当たり30回ぐらい開け閉めするらしいのですが、計算すると、1回あたりの開け閉めにかかる費用は0.8円です。
そこでもし、メーカーが、利用者が冷蔵庫を開けるたびに0.8円ごとの課金ができれば、初期に冷蔵庫を販売する必要性がなくなるため、利用者にとっては、無料で冷蔵庫を貰える時代が来る可能性があると考えています。
要するに、1円未満の課金や送金ができると、モノやサービスの売り方が抜本的に変化する可能性があるということです。
――もしこのマイクロ課金の世界が実現すると、お金がない人でも都度の課金で大きなモノも購入できますね。
はい。たとえばテレビと冷蔵庫がセットになっていて、それらを使うたびに課金をするといった社会が実現できます。
課金の仕組みが変わると、ビジネスモデルも変わるんです。
1円未満の送金・課金ができると、もはやモノに価値がなくなります。これをスマートに実現できるのは、暗号資産の技術しかいないんです。
今後ビジネスが立ち上がるのは、こういったマイクロペイメントの領域だと思っています。
――ビットコインを使って既存のお金の仕組みを代替するというより、新しい機会に目を向けていらっしゃるんですね。
銀行などの既存の金融機関がカバーしていない領域で、ビジネス機会を作っていくことが有用だと思います。
今我々が「インターネットでTCP/IPプロトコルが動いている」などを意識しないのと同じで、見えない形で裏で暗号資産のプロトコルが動き、結果、暗号資産が浸透していくと思っています。
――実現すると、無意識に暗号資産・ブロックチェーンがどうとかを考える間もなく社会に根付いていくわけですね。
それが私が想像する世界です。
――このときにbitbankなどの取引所の事業者が果たせることは何でしょうか。
冷蔵庫を作るメーカーが、このマイクロ課金の仕組みを取り入れた場合、どこかのタイミングで日本円などと交換する必要が発生しますので、その役割を担う取引所が必要になります。
したがって、前述のような世界が実現したときに取引所が重要な役割を担うので、今は取引所の事業に力を入れています。
「希少性」「強固なシステム」……ビットコインに投資するメリットとは?
――暗号資産はとくにトレードの点で注目されているかと思いますが、それ以外の理由で今後暗号資産に魅力を感じる人は増えるのでしょうか。
今は「暗号資産が儲かるかどうか」という、本能的な欲求で魅力を感じている人がいます。
今後は「価値の棄損(きそん)」が起こらない点で、興味を持つ人が増えると考えています。
――どういうことでしょうか。
お金って、よく「政府が保証している」と言われますが、実はそうではないです。
日本は政府の規律があるので、過度なインフレにならないようにコントロールがされています。
一方で世界に目を向けると、規律ない借金をしてハイパーインフレになり、無価値になってしまう通貨もありましたよね。
実際のところ日本円も同様に、保証されたものではなく、事実上、無限に発行できます。
はからずも新型コロナウイルスの影響で政府は民間を救済する必要があり、世界の中央銀行はお金を大量に発行しているので、お金の1単位ごとの絶対的価値は下がっています。
ところが、円以外でもドルやユーロも同様に大量に発行されているので、相対的に円の価値が下がっているかどうかは認識しづらいですよね。
――はい。
なので、お金の絶対価値がさがっている中で資産運用を考えるなら、お金以外の資産でポートフォリオを組むことをオススメします。
たとえば株式の個別銘柄を分析できないなら、課税メリットがあるNISAでもいいです。
どのくらいリスクが取れるのかは人によって異なりますが、若い人なら長期的な目線で資産の一部をビットコインに投資してもいいのではないかとも思います。
――数ある金融資産のなかでも、ビットコインが選ばれる理由や魅力は何でしょうか。
ビットコインは数量に上限があり、2,100万ビットコイン以上には絶対増えないようになっています。
ビットコインは埋蔵量に上限がある「金(ゴールド)」と似ていて、「金のデジタル版」だとも言われています。
ただ金にはポータビリティがないけれど、1億円相当のビットコインは持ち歩けるので、そういった点では金よりもアドバンテージがあるといえるでしょう。
このように、ビットコインには希少性があるので、円やドルなどのように1単位当たりの「価値の棄損」が起こらないのが魅力です。
――発行に上限があるとなると、持っているだけでも価値はありそうです。そのほか理由はありますか?
またビットコインは2009年から2020年までの約12年近く、1度もミスすることなく、ノンストップで動いてます。
なので、供給量が少ないうえにネットワークが強固となると、ますます信頼性が上がり、当然価格も上がると考えています。
たとえばインターネットに価格をつけるとすると、1,000兆円でも安いですよね。
ビットコインに関しても、仮に100兆、200兆という値段でも安いのではないかなという感覚を持っています。
可用性(=システムが維持されること)という視点では、既存の金融機関には、メンテナンスで「朝4時から4時半まで使えません」ということがありますが、ビットコインは誰にも管理されず、無事故、無停止で動いており、結果、メンテナンスでサービスが停止するということがないこともポイントです。
――既存の金融システムと比較しても例を見ない強固さがあるんですね。
ただ、そもそも通貨として機能するためにはインフレ型でないと流通させるのは難しいです。
もし1円が明日0.9円になるなら、今日のうちに買い物をしようというインセンティブが働きますよね。
政府がつくる緩やかなインフレは、お金を流通させて経済を活性化させたい意図があります。
逆に、ビットコインなどは構造的にデフレ型なので、一切使わない人が現れてしまうので流通しづらいです。
なので、「現時点でのビットコインでは、一般利用としての通貨として流通することは難しい」というのが僕の結論です。
――そんななかでビットコインに価値を持たせお金として流通させるには、どうすればよいのでしょうか。
もう少しビットコイン自体の価値が上がり、価格変動も安定してくれば「ビットコインの価値を裏付けとし、そのプロトコルの上に別のインフレ型の暗号資産をのせれる」なども考えられるのではないでしょうか。
かつて金本位制があったように、「ビットコイン本位制通貨」のような物でしょうか。
「ビットコインという誰にも改ざんされない、価値ある資産がベースになっていること」や、「ビットコインを担保にしている通貨もビットコインと同等に価値があり、更に機能性があること」などを魅力に感じてもらえれば、利用されるケースはあるのではないかと思っています。
「ビジョンがあるからこそ、bitbankは現物取引のシェアを増やすことを目標にかかげる」
――ビットコインを含む、暗号資産全体の価値は今後上がっていくのでしょうか。
先ほども述べたように、マクロの点で見ると、現在、円やドルなどの法定通貨が大量に発行され単位当たりの絶対価値が毀損する中で、絶対的価値の毀損が起こらないビットコイン などの暗号資産は構造的に値上がりする可能性は高いです。
そのなかでも、ビットコインとイーサリアムは構造的に見ても、長期保有という視点で妙味がある、というのが暗号資産に対する今の見解です。
ビットコインを代表とする「資産の裏付けとしての機能」、ETH(イーサリアム)を代表とする「スマートコントラクト※の実装のための機能」、XRP(エックスアールピー/リップル)を代表する「送金の機能」などの用途で、今後暗号資産への投資目的は分かれていくかもしれません。
※スマートコントラクトとは、さまざまな契約をブロックチェーン上で契約・締結できる仕組みのこと(出典)。
――最後に、現在は税率が高い問題を抱えているかと思うのですが、今後変わる可能性はあるのでしょうか。
変わる可能性はあります。
今は、「上がった、下がった」での価値しか示せていないので、「暗号資産は博打や投機だろう」と思われてしまっています。
これは事業者の責任でもあるのですが、暗号資産の社会的な有用性が提示できていないんです。
これは業界が抱えている課題そのもので、本当に社会に役立つユースケースを作れるかが問われているんです。
税制改革も、事業者がどう頑張るかにかかっていると思っています。
私たちは、取引所は将来的にとても重要なファンクションになると考えているので、社会に有用性を認めてもらえるよう頑張っています。
――廣末さんは取引所を利ざやを稼ぐ場所というよりも、1つの機能として認識した上でもっと大きな世界を見ていらっしゃるんですね。
デリバティブ市場は、現物市場の10倍大きく稼げます。
しかし先ほど語ったようなビジョンがあるからこそ、私たちビットバンクは現物取引のシェアを増やすことを目標にかかげています。
将来的に意味のある経営を重視するビットバンクの特徴が表れているかな、と個人的には思っています。